第一章 泗(過去)
真っ暗だった。
カーテンを閉め切っているために、部屋自体が薄暗い。布団の上で体育座り。膝の間に顔を埋めて、その間に広がる僅かな空間を凝視する。夢うつつの頭で、僕はその空間に、無限大の夢を見る。無数の、希望と期待を抱える。――だけど、所詮夢は夢、妄想は妄想でしかなくて。
今日も朝が来た。
来なくていいのに。
朝なんて、来なくていいのに。
夜寝る前に、いつもお祈りをする。
寝ている間に、世界が終わっていますように。
寝ている間に、僕自身が消えていますように。
みんなみんな、死んでいなくなってるように。
でも、今朝も何も変わってなくて。
ずっと、夢を見ていたい。楽しい夢。愉快な夢。泣かない、苦しまない、傷つかない、ずっと笑っていられる――そんな夢。
気分が重い。重い体を持ち上げて、着替えを済ませる。朝ご飯を食べて、顔を洗って歯を磨いて。重いランドセルを背負って、扉を押して。
いつもの朝。
いつもの道。
いつもの僕。
真っ暗だった。
空はこんなにも高くて、風はこんなにも涼しくて――このまま、ふらっとどこかに行ってしまおうかと、何度も思う。だけど。だけれど。子供の僕にできることなんて、行けるところなんて、高がしれている。こんなに小さな体で、二四〇円が全財産で――それで、どうすることができる? 自転車を使えば少しは遠くへいくこともできるけど、それでも隣町がいいとこだ。逃げ場所なんて、どこにもない。学校にいくしかない。
深く、溜息を吐く。
溜息を吐くとそれだけ幸せが逃げて行く、と言ってたのは、どこの誰だったっけ?
残念ながら、僕には逃げて行くだけの幸せなんてないんだよ……。 ランドセルを背負い直し、僕はもう一度、深い溜息を吐いた。




