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第一章 参(現在)

 北風を真横から喰らい、少しよろめく。

 周りには高い建物なんて一つもないし、障害物となるものなんて何もないんだろう。だから田舎は……。

 などと嘆いている場合じゃあない。ちゃっちゃと済ませてこの場を後にしないと。背負ってきたリュックから数本のスプレー缶を取り出し、カラカラを振って中身をかき混ぜる。


 高校の敷地に侵入したのが数分前。

 事前のチェックが完璧だったおかげか、そもそもセキュリティがザルなのか、建物の間を抜け、人目を避け、いとも簡単に校舎の侵入に成功。夜の校舎は不気味だけど、そんなことに構っちゃいられない。窓からこぼれる月明かりを頼りに階段を駆け上がり、屋上にまで出て――そこで始めて、この後のことを考えてなかったことに気がつく。


 まぁ、いいか。


 適当でいいや。

 勢いだ勢い。

 ちょうどいい感じの壁の前に立ち、フタを外し、二丁拳銃の要領で勢いよくスプレーを噴射していく。描く模様はフリーダム。丸とか三角とか、後はそれっぽい英単語とかを書き殴って。

 いいのです。

 芸術はカオスなのです。

 想ったより短時間で、お手製アートが完成する。

 ――これじゃ、足りないかな。

 スプレーの残量もまだまだある。勢いに乗って、自分が立っているコンクリの地面にも模様を描いていく。高校の屋上に描かれていく不可解な地上絵。馬鹿なUFOなら呼べるかもしれない。

 ――馬鹿なUFOって何だよ。

 セルフツッコミを展開しながら、さらに濃く、大きく、アートを拡大していく。


 やべぇ、テンション上がってきた。


 ……と言うか、勢いつけないとやってられない。じゃないと、気分が沈んでしまう。


 何で、何でここまでして――。

 こんなことしたって、何の解決にもならないのに――。


 ダメだ。今はそんなことを考えている時じゃない。悩むのは後でいい。悩むのは、いつだっていい。今はただ無心でスプレーを吹きかけるんだ。勢いがつきすぎて、服に塗料が着いたりしてるけど、こっそり洗濯しておけば問題ないだろう。

 

 かくして、夜の屋上アートは、三〇分もかけずに完成した。


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