01話 オフ会①
『拝啓
『花咲く乙女』の攻略対象を攻略済みの皆様。
皆様におかれましては、推しとの幸せな時間をお過ごしのことと存じます。
わたしは、主人公だった桃園美穂です。
さて、オフ会をしませんか?
騙し討ちしません。
大丈夫です。怒ってません。
月のない夜も安全です。
ただ、愚痴を言いたいだけです。
本当に、愚痴を言いたいだけなのです。
場所は、……
『花咲く乙女』の主人公だった桃園より』
そんな手紙が入っていたのは、高校に入学して二年目、新緑がきれいな五月のことだった。
ついに、来たか。
青井加奈は思った。他の転生者とはライム交換していて、グループライムもある。でも、彼女だけは怖くてできなかった。
加奈はすぐにスマホでライムを開く。
すでにグループライムは動いていた。
緑川:『ねえ! これ見て!(画像)』
黒田:『私も靴箱に入ってた。どうする?』
加奈も返信を打つ。もう書くことは決まっていた。
青井:『私は行こうと思ってるよ』
三人からは驚きの表情のスタンプが即座に送られてきた。
黒田:『なら、私も行く』
黒田寧々から返信が来ると、緑川由真からも『行く』と返信があった。
スマホをしまって、靴を履き替える。
いつかこういうことが起こるかもしれないとは思っていた。
加奈は乙女ゲームのモブに転生していた。
そして本来なら、主人公と恋をするはずだった攻略対象の人生を、大幅に変えた。
主人公からしてみれば、自分の席を勝手に奪われたのだから、怒りも当然だろうと思っていた。
手紙には『怒ってません』って書いてあったけど。
あれ、絶対怒ってるやつじゃん。
誠心誠意謝るしかないだろう。
手紙を入れてくれるだけ、まだ理性的かもしれない。
話し合えば分かってくれ、ないかなぁ……。
加奈は不安に思いつつ、エックスデーを待つのだった。
※
さて、エックスデー。
『花咲く乙女』のオフ会当日である。
指定された場所は、音楽準備室。
ここは、サボりスポットだ。ほどよく静かで教師の見回り回数も少ない。
ここで発生するイベントもあったな、と加奈はゲームの画面を思い浮かべた。
すでに、主人公以外のメンバーは集まっていた。
加奈の次にオフ会への参加を決めた、黒髪の黒田寧々。
それから、緑色の髪の緑川由真。そして青色の髪の青井加奈。
全員、モブ転生だった。
この世界は現代なのに髪の毛の色がカラフルで、否応なしにゲーム世界に転生したことを突き付けられたよね。
やや遅れて、桃色の髪の女の子が入ってきた。手にはいっぱいのお菓子が入ったマイバッグが握られている。
「ごめんね! みんな、なにが好きかな?って考えてたら買いすぎちゃって」
まるで前から友達だったような気安い態度に、無意識に警戒していた気持ちがほぐれた。
女の子は空いていた椅子に座り、自己紹介した。
「さて、はじめまして。桃園美穂です。
お菓子もお茶もあるから、好きに食べてね。じゃあ、聞いてくれるかな? わたしのこの一年の苦労を」
そう言われて、三人とも姿勢を正した。
そして、美穂が口にした最初の言葉は。
「——まあ、とりあえず」
「ヤンデレ攻略、完了しました」
だった。
「「「ん???」」」
初日は3話更新予定です。
次話は12:10、17:10にそれぞれ投稿します。




