第2話 到着・東武日光駅
すっかり眠り込んでしまった。
気が付いた時には、下今市駅を通り過ぎ、東武日光駅の場内信号機を通過したところだった。
(やらかしたぁ。まぁ、夜行列車に乗ったと思うか。)
ルナは思う。
せっかく旅に出たのだから、そこへ着くまでの景色も見たいのだが、半分近くの区間で眠ってしまったのだ。
「スペーシアX」を降りて、駅前の土産物屋の2階の食堂へ入った。
昼食は、もりうどんと刺身湯波。
日光名物を取り入れた、ささやかな昼食だった。
駅前は外国人の姿も多く、東武の資本が入っているのであろう土産物店やらで、賑わいを見せていた。
「お隣失礼。」
声をかけられ、顔を上げる。
隣に座ったのは、紅い着物を身に纏う女性だった。
「ええ、どうぞ―。」
「他人行儀なれど―。」
意味の分からない言葉とともに、彼女は微笑んだ。
ルナは(なんだ、この人?)と思うが同時に、 一瞬、背中を冷たい風が抜けたような感覚を覚えた。
「そこも、魅力的な方。」
彼女は、どこか懐かしい響きのある声でそう言った。
薄気味悪い思いをしながら、ルナは昼食を平らげると席を立った。
土産物屋を出て、東武日光駅に戻ろうとした時、違和感に気付く。
最初は、何が変なのか分からなかったが、駅前に保存されている路面電車に乗り降りしている人の姿が見えるのだ。
この路面電車は、かつてJRの日光駅から東武日光駅を経由して、いろは坂の近くの馬返しまでを結んでいた日光軌道線で使用されていた100型路面電車だ。
(あれは確か、中に入れないはずだ。中を見せて貰えるのだろうか?)
首を傾げながら、100型電車に近寄ろうとしたその時。
大通りを、明らかにおかしなものが通過した。
古い電気機関車と貨車だったのだ。
(いや、おかしいぞ。)
流石にこれは変だと思う。
それは、すでに博物館の中にしか存在しないはずの型式の電気機関車、ED600型だったのだ。
ED600型の原型である国鉄ED40型電気機関車は、大宮の鉄道博物館に保存されているが、現在、日本のどこの鉄道を探しても現役で走っていない。
(まぼろしか?)
と思いながら、ED600型にカメラを向けてシャッターを切った。
ファインダーから目を離した瞬間、町全体の風景が、滲むように変わった。
建物は大正時代のような物に見え、看板の文字もどこか時代がかっている。
外国人観光客の姿は消え、代わりに、和服や着物を来た人々が行き交っていた。
人々の輪郭は、どこかおぼろげだった。
その中で、一人だけ。
先ほど、食堂で声をかけてきた、紅い着物の女性だけが、はっきりと見えた。
彼女は東武日光駅の入口に立ち、微笑みながら、こちらを見ている。
まるで、待っているかのように。
ルナは、なぜかその存在から目を逸らせなかった。
瞬きをする。
次の瞬間、町は元の姿に戻っていた。
観光客の声。
車の走行音。
いつもの東武日光駅前。
(やはり疲れと、不摂生のせいで、逝かれたのだろう。)
そう自分に言い聞かせ、ルナは自動改札機を通った。
だが、胸の奥には、消えない違和感だけが残っていた。




