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スペーシア・クロスロード  作者: Kanra
第一章 
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第1話 出発進行

 あの紅い着物の女性との出会いから、ルナの心には小さな光が残った。

 それからルナは、何度もSL大樹に乗るため、日光鬼怒川地区の旅をした。

 けれど、紅い着物の女性と再び会うことはなかった。

 次第に、その面影は記憶の奥で薄れていった。

 その代わり、ルナは東武鉄道に詳しくなり、SL大樹のアテンダントや車掌、機関士たちに覚えられる存在になっていた。


 撮影ポイントを自分で探し、時にはアテンダントや車掌から教えてもらいながら、乗るだけでなく写真も撮るようになった。

 しかし、どうしても撮れない1枚があった。

 最初の旅の日に見た、SL大樹とスペーシアXが隣り合った瞬間。

 あの「過去と未来」が並んだ光景だけは、二度とカメラに収めることが出来なかった。


 理屈の上では可能なはずだった。

 スペーシアXは試運転時と同じダイヤで運行され、「SL大樹ふたら71号」と並ぶ時間帯も存在している。

 それでも、下今市駅付近で二つの列車が並ぶ瞬間は訪れなかった。


 そして、ルナの旅は2年に及んでいた。


 今日は、2025年9月11日。


「お疲れっしたー。」


 朝のバイトを終えると、ルナは地下鉄で浅草駅へ向かう。


 両親無し。

 友達無し。

 趣味は小旅行。

 学校の成績はトップクラス。


 両親の居ないルナは、給付型奨学金とバイト代で、生活費と学費と旅費を捻出していた。

 夏休み中には天文学者の大学教授の手伝いもした。

 その報酬とバイト代で、今日も日光鬼怒川地区へ向かう。

 夏休み期間中にも訪れていたが、その時は心から楽しむ余裕が無かった。


 今日は学校の振り替え休日。

 久しぶりに、何も考えず旅をするつもりだった。


 地下から地上へ出る。

 吾妻橋からチラリと空を見ると、天高く、東京スカイツリーが聳えていた。


 浅草駅に入ると、ルナは初めて5番線に立つ。

 このホームは新鋭特急「スペーシアX」専用ホームだ。

 デビュー以来、その人気から切符は常に満席。

 2年に渡る旅の中で、ルナは一度も「スペーシアX」に乗れなかった。

 それが今日、ようやく切符が入手出来て、乗車することが叶った。


 今日は東武日光までスペーシアXに乗車した後、そこから時代を遡るように、蒸気機関車が牽引するSL「大樹ふたら72号」に乗車する。

 東武日光駅を出た後、下今市駅でスイッチバックをして、後半の鬼怒川温泉までの区間は蒸気機関車が牽引するこの列車は、1本でディーゼル機関車と蒸気機関車、両方が牽引する列車に乗れるお得な列車だ。


 浅草駅でお茶と菓子パンを買い、特急「スペーシアX 5号」に乗車した。

 本当はもう少し早い列車に乗りたかったが、そちらは満席だった。


(もう少し早い列車に乗れていれば、下今市駅で降りてSLとスペーシアXが並ぶシーンを撮れたかもしれないが。)


 ルナはそう考えながら、スタンダードシートに腰を下ろす。

 発車合図が聞こえると、特急「スペーシアX 5号」は東武日光駅を目指して浅草駅を定刻通りの午前10時ちょうどに出発した。


 すぐに、隅田川を渡る鉄橋に差し掛かる。隅田川には、屋形船が浮かんでいる。

 東京スカイツリーを横目に東京を離れ、埼玉県へ入って行く。


 南栗橋の車両基地を過ぎた頃、ルナは菓子パンをかじりながら、お茶を飲んだ。

 コックピットラウンジも利用してみたいのだが、今日は見送って、また次回だ。

 その代わり、帰りの列車はプレミアムシートを予約してある。


 プレミアムシートとコックピットラウンジの料金差は大差無いのだが、今回はケチったのでは無く満席だったので、プレミアムシートにしたのだ。


 お茶を飲みながら、北関東の雰囲気が近付いて来たのを感じていると、眠気が静かに押し寄せて来た。

 普段なら列車旅で眠気に襲われる事は無いのだが、ここ最近は、バイトと学校と自宅の往復ばかりだった。


 食事も不規則で、疲れが溜まっていたのだろう。

 やがて、ルナは抗えず、目を閉じた。

 ちょうど列車は利根川を渡っていた。

 水面に映る空を見つめながら。

 その眠りが、再び運命を動かす事も知らずに。



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