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SPACIA X ROAD  作者: Kanra
第一章 
3/8

第2話 SL大樹ふたら72号

 駅のホームに飛び込むと、汽笛が聞こえ、蒸気機関車C11‐207号機と、ディーゼル機関車DE10‐1099号機のプッシュプルが客車3両を牽引するSL列車が見えた。

 先程乗って来た、令和生まれのスペーシアXのN100系が、折り返し特急「スペーシアX6号」として浅草へ向かう準備をしているのを横目に、昭和の時代に生まれた蒸気機関車C11が駅のホームに入って来る。


(客車は茶色編成なのも相まって、時代感どうかしている。学校とバイトの往復生活の合間の気分転換に旅をするが、東武のSLは、令和から平成、昭和、大正、明治と、時代を逆行し、ハイカラ文化を感じることが出来る事から、一番好きだ。)


 と、ルナは思う。

 串形の頭端式ホームの端まで行くと、折り返し準備中の「スペーシアX」と、給水作業に入る蒸気機関車が並んでいるのが見える。


「よいしょ」と、可能な限り引きで撮影すると、令和生まれの「スペーシアX」と、昭和の時代に生まれた蒸気機関車が並んでいるシーンの撮影が出来た。

 さっさと土産物屋で昼食にしたが、ルナが乗る折り返しの下今市回り鬼怒川温泉行きSL「大樹ふたら72号」の発車は13時03分発で、まだ30分以上時間がある。


 もう少しゆっくり土産物屋で食事をしても良いのではと思うのだが、せっかく蒸気機関車を見に来たのに、乗ってしまうと走行している蒸気機関車の姿を見られないため、さっさと食事を済ませて、駅に入線する蒸気機関車を見たのだ。


(それに、こうしてホームで列車を眺めているだけでも、旅情がある。それをゆっくり感じられる。)


 と思いながら、ルナは駅のホームを歩き、下今市側に連結されている赤いディーゼル機関車DE10‐1099号機に向かう。

 蒸気機関車以外の機関車が牽引する旅客列車は今や絶滅危惧種で、電気機関車が牽引する定期運行する旅客列車は既に消滅。

 ディーゼル機関車が牽引する旅客列車もいつ消えるか分からない。


 そんな中、東武のSLでは、主に平日に運行されるSL「大樹ふたら72号」の東武日光―下今市間では、東武日光の頭端式ホームの構造上、機回しが出来ないため、下今市までディーゼル機関車DE10が牽引するため、蒸気機関車以上に貴重な存在である。


 DE10を撮影しながら、スペーシアXとDE10が並んだ写真も撮影。そして、ホームのベンチに腰掛け、ポリポリと、スナック菓子を啄みながらお茶を飲む。


「紅茶も持って来てますよ。どうぞ。」


 と、隣から水筒を差し出される。

 それは、先ほどの紅い着物も女の子だ。


「あと、乾麺麭を持ってきました。」

(無視。)


 と、ルナは持ってきていた日本茶を飲むが「ゲホッ!」と、むせ返る。


「もう。一気飲みしてはダメですよ。」

「-。」


 無視して、ルナは時刻表を確認する。

 まもなく、500系特急「リバティーけごん19号」が来るな。

 と、思いながら、ベンチを立ち、ホームの先端へ向かう。


(あの女の子、なんなんだ?ナンパなら大歓迎って言いたいけど、今は勘弁。それに―。)


 と、ルナは一眼で撮った写真を見返す。

 やはり、それには絶対存在しないはずの、日光軌道線を走る貨物列車と言う物や、それが存在した時代の街並みが写っているのだ。だが、紅い着物の女の子の姿が消えた時、日光軌道線の存在も消え、街並みも元に戻ったのだ。

 たかが1回だけの体験ながら、気味が悪い。

 下今市の方から、フリーザ顔とも言われる姿の東武500系「リバティー」がやって来た。


(東武100系スペーシアは平成初期。東武500系リバティーは平成後期。「スペーシアX」は令和。そして、あの白地に青のラインの―)


「はっ?」


 ルナは普通列車のホームに歩く。


「なんで東武5050系が居るんだよ!?こいつ、2001年に日光線から居なくなってんだろうが!?」


 ホームで誰にと言わず、怒鳴った。


「何を驚いているのですか?ルナ君。」


 紅い着物の女の子に囁かれ「わぁーっ!」と叫んで、特急ホームに飛び込む。

 まもなく、客扱いを開始するSL「大樹ふたら72号」の隣を見る。

 そこには、東武500系リバティーが居るので安心した。


「ええい。どうかしているぞ。」


 とつぶやくと、浅草へ向け、スペーシアX6号が発車する。

 それを見送るのだが、白い東武N100系が離れて行くにつれて、姿が変わっていく。

 カメラを向けると、それは茶色系のツートンカラーに、流線形のスタイル。そして、それにヘッドマークが着いた姿に変わった。


(ネコひげ?)


 と、ファインダーから目を離し、ホームに停まっている東武500系リバティーを見るが、


「はぁっ!?」


 と、またルナは訳が分からなくなる。

 東武500系リバティーが、先ほどの「ネコひげ」と同じ茶色系のツートンカラーの車両になっているのだ。車両の正面に回り込む。

 それは、東武6000系だった。

 写真を撮影すると、


「珍しいの?そんなにこの辺りの電車が?」


 と、紅い着物の女の子がまた後ろから言う。


(居ない。紅い着物の女の子なんていない。)


 一旦改札に向かうと、自動改札機が無く、切符切りの駅員が居るスタイルの改札口になっている。


「どうして?」


 と、ルナはパニックになりかけながらも、一旦頭を冷やそうと、改札を抜けトイレで小用を達して、また戻ると改札口はまた元の自動改札機のある改札口になっていた。


(幻覚だ。きっと、連日のバイトと学校と塾とで、不摂生が続いたから、逝かれたのだ。)


 と、ルナは思いながら、自動販売機で追加のお茶を買って、客扱いを始めたSL「大樹ふたら72号」に乗り込む。


 SL「大樹ふたら72号」と言うより、東武のSL列車の客車は基本的に14系客車と12系客車の混結3両編成で、編成の中間2号車が窓の開く12系客車を改造した展望車で、下今市側のデッキがベランダのような展望デッキに改造されている他、内装も木目調の内装に改装されている。編成両端は14系客車で窓の開かない客車だ。内装も、JR各社から譲渡された当時とほとんど変わらない状態であり、原形を留める14系客車は今や東武にしかないのだが、ルナは14系客車の座席、いわゆるバッタンシートと言われる国鉄初期の特急車両で使われていた、簡易リクライニングシートと言う物は嫌いだ。

 何しろ、肘掛け下側のスイッチを操作して背中で背もたれを押してリクライニングするのはいいが、常に背中で押していなければ、「バッタン!」と、リクライニングが戻ってしまうのだから、身体の小さなルナはひっくり返ってしまうのだ。

 おまけに窓も開かないから、蒸気機関車の列車に乗っている実感も薄れてしまうので、窓の開く12系の2号車に乗る事が多い。


 2号車の12系客車はリクライニングシートでは無く、ボックスシートであるが、こちらの方が、バッタンシートに吹っ飛ばされる事は無い。


 お茶を買っていたため、目の前の14系客車に飛び乗った時には、まもなく発車する時間だった。1号車に飛び乗ったが、座席は2号車で取ってあるので、車内を歩いて2号車へ向かっていると、ドアが閉まった。


 その瞬間―。



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