第21話 侵食世界
(でっ、出たぁー!)
お化けを見たような、真っ青な顔になって観光案内所を飛び出して、駅前広場に行く。
お化け屋敷には行ったことは無く、お化けと言う物も信じないルナだが、今回はお化けを見たと思った。
「って、駅出てどうする。戻れ!」
なぜなら、普通列車で新高徳へ行くのに、駅を飛び出したら普通列車に乗れなくなってしまう。
しかし、
「いや乗るな!」
慌てて乗るのを止めた。
確かに、現代の鬼怒川温泉駅なのだが、やって来た普通列車はぶどう色の旧型電車だったのだ。
(げっ!)
ルナは乗るのを止める。
(アドリブだ!ええい!)
改札口に向かおうとして、改札口に向かうが、いきなり駅の構造が変わり、跨線橋のエレベーターが無くなり、エスカレーターも消えた。
(世界が―。崩壊していく。)
「ルナ。」
後から冷たい手が伸びて来て、ルナを包もうとする。
「ひっ!」
今すぐにタクシーでもバスでもいいから、飛び乗って逃げ出そうとしたが腰が抜け、足が震え、身体の下半身が言う事を聞かず、這うように逃げる。
「ダメですよ。逃げたりしては。私は逃がしませんよ?私の婚約者さん。」
「お願い!来ないで!」
(触れられたら、世界が壊れる!)
ルナは必死だ。
「連絡も無く来られると、私、会いに行けないこともあるのですよ?それでは、私、寂しいのです。」
「ちょっとお待ちなさいな。」
アイルの後から、眼鏡を掛けた女性がやって来る。
里緒菜だった。
「まったく。ごめんなさいね。アイルも強引なんだから。」
「誰に似たと思ってるの?」
里緒菜の隣には別の女性が居た。
(逃げない方が良さそうだ。)
ルナは頷いた。
すると、抜けてしまった腰が元に戻った。
「ごめんなさいね。ルナ君?まったく、この母娘はどっちも強引なんだから。」
「ホコネに言われたくないですわ。」
「はぁ?リオナだって、旦那を落とす時どうしてたっけ?」
「ウララちゃんに聞いて見なさい。」
里緒菜と一緒に来た女性は、ホコネと言うらしい。
「下今市駅からホコネが私の家に連絡して、私からアイルに伝えたのよ。まったく。来るなら連絡してくださいね。」
(下今市駅か。機関区でウロウロしていたが―。)
ルナは思う。
「失礼しました。不意に、この辺りの列車を見たくなりまして―。」
(だから帰れってんだこの野郎!)
本音を隠しながら、ルナは言う。
「下今市駅近くの居酒屋さんに連絡しましたら、予約が取れましたよ。行きましょう。ルナ。」
アイルが言う。
アイルや、他の女性たちが何か話す度、ルナの見ている世界は現代の物ではなく、古びた物になって行く。歩いている人も、和服や着物姿になっていく。
(逆らったら、どうにかなってしまいそうだ。)
ルナは半ば強制的に、下今市駅近くの居酒屋に連れ込まれることになってしまった。
「ルナの帰りの列車の時間は?」
里緒菜が聞く。
「ここを16時45分に出るSL大樹8号で下今市駅に行き、下今市で乗り換えです。列車は、スペーシアX12号で、座席はスタンダードシートです。」
ルナは現実の列車を答える。
「あっあぁーそうでしたか。あの、夕食代は持ちますから、後続の列車にしていただけますか?」
「構いませんけど―。」
「ありがとう。では、駅の出札窓口へ行きましょう。」
強制的に帰りの列車の時間まで変えさせられてしまった。




