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第20話 午後の撮影

 鬼怒川温泉駅の駅前には、転車台が設置されており、蒸気機関車が転車台で方向転換する様子が見られる。


 真岡鉄道や秩父鉄道、JR東日本等、SLを走らせている同業他社も当然、転車台を持っているのだが、そのほとんどは駅前広場ではなく、駅舎から線路を挟んだ反対側にあったり、酷いと駅から離れた車庫の中だったりで、蒸気機関車が転車台で方向転換する様子が見られるようで見られない、もしくは見に行くにも難儀するという事がよくあるが、鬼怒川温泉駅の場合はなんと駅前広場に設置したので、駅から観光地へ向かうバス待ちの間でも蒸気機関車が向きを変える様子を見ることが出来るが、ルナは鬼怒川温泉駅近くのコンビニまで歩いてコンビニ弁当を適当に調達すると、12時17分発の普通列車で新高徳駅まで行き、鬼怒川橋梁まで歩く。


 鬼怒川橋梁近くの撮影ポイントに着くと、荷物の中に折りたたんでいた大型の袋を地面に敷いてそこに座り、SLが来るまでの間にコンビニで買った弁当で昼食にし、鬼怒川橋梁を通過する下今市駅へ向かうSL大樹4号を撮影。


 そして、直ぐに来る新藤原駅行きの普通列車に飛び乗って、小佐越駅で下車すると、S字カーブを走る蒸気機関車が見られる撮影ポイントまで歩き、鬼怒川温泉に向かうSL大樹5号を撮影して、小佐越駅から普通列車に乗って鬼怒川温泉に向かい、SL大樹5号を牽引して来たC11‐325が転車台で方向転換する様子を撮影する。


 転車台へ入線してくる様子、そして、転車台広場の群衆や手を振るSL観光アテンダントを入れて撮影。


(いい具合。)


 頷きながら、ファインダーから目を離す。

 一瞬、怖かった。

 なぜなら、ファインダーを覗きながら、シャッターを切った瞬間、世界がまた、紅い着物の女の子に振り回されていた時の鬼怒川温泉になってしまったように思ったからだ。


 しかし、なんてことは無い。

 世界が変わる事など、有り得ないのだ。


 だが、不意に朝、持田と言うSL観光アテンダントから聞いた9月11日に発生した「スペーシアX5号」の踏切事故が脳裏を過った。


 もし、本当にそんな事故があったのなら、ルナは9月11日に東武日光に到着することは出来ず、東武日光からSL大樹ふたら72号に乗る事も、そして、紅い着物の女の子に連れられて、旅館の貸切風呂で混浴と言う事も出来なくなる。


(気になり出すとなぁ。)


 ルナは思いながら、観光案内所ツーリストセンターに行って、あの日、アイルと言う紅い着物の女の子に連れて行かれた大戸旅館が鬼怒川温泉に実在するか調べてみる。

 だが、そんな名前の旅館は鬼怒川温泉に存在しなかった。


(それが当然だ。だが―。)


 ルナは当然だと思いつつ、では、存在しない温泉旅館の貸切風呂に入ったのはどういうことなのかと言う謎が生まれた。


(この後は、普通列車で新高徳に再度行き、橋を渡って、栗原の交差点へ行き、砥川橋梁から鬼怒川橋梁までの上り坂を上って来るSLを撮影し、戻りながら鬼怒川橋梁に向かってカーブを降りて来るSLを撮影。そして、普通列車で鬼怒川温泉に戻り、最後はSL大樹8号に乗って終了だ。)


 ルナは頭の中でスケジュールを確認したのだが―。


「お待ちしておりましたよ。来るなら来るって連絡くださいな。」


 と、背後から声をかけられた。

 その声を聞いた途端、ルナは背中に冷たい刃物か、ピストルの銃口を突き付けられたように感じた。



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