第19話 SL大樹の車窓
流れる車窓を眺めるが、普段と変わらぬおだやかかな景色が広がっている。
大谷川を渡り、大谷向駅を通過し、国道121号の立体交差を通過すると進行方向左側に、倉ケ崎SL花畑という沿線住民が管理運営する花畑を通過する。
地域ならではの美しさを残していきたいという想いから始まった「鬼怒川線に季節ごとの花を咲かせようプロジェクト」の一環として、地域住民の手で管理する花畑には、菜の花やコスモス等の季節の花々が咲き、冬にはイルミネーションが整備され、列車の車窓からそれを楽しむことが出来る他、撮影ポイントにもなっている。しかし、駅からかなり歩くため、ルナがここで撮影するのは、今は無理だ。
花畑の向こう側に杉並木が見える。
これは、大桑杉並木で、会津西街道にある日光杉並木だ。SL大樹はこの会津西街道に沿うように走る。
ちなみに福島県にある有名な大内宿も、会津西街道の宿場町のひとつだ。
SL大樹は、下今市駅を出ると3つの川を渡る。
一つ目は下今市駅を出て直ぐ渡った大谷川で、今日は天気も良く、川の源である日光連山も見ることが出来た。
大桑駅を過ぎると二つ目の河川、小百川を渡る。
不思議な事に小百川なのに鉄橋の名前は、砥川橋梁。
鉄橋から進行方向左側を見ると2つの川が合流しているのが見え、左側から流れて来る川が小百川で、それに合流するように右から流れて来る川が砥川。
この砥川橋梁が、東武鬼怒川線で一番低い場所であり、ここから列車は最大で1キロ進むごとに25m登る勾配の坂道を進んでいく。そして、いよいよ鬼怒川を渡る鉄橋に差し掛かる。
ルナはこの鬼怒川橋梁と、先ほどの砥川橋梁で撮影に挑む予定だ。
鬼怒川橋梁を過ぎるとすぐに、新高徳駅を通過。
やがて列車は緩いS字カーブを描きながら、右側に国道121号が降りて来て、小佐越駅を通過すると、まもなく進行方向右側に東武ワールドスクウェアが見えて来る。
東武ワールドスクエアは、世界102の遺跡や建築物を1分の25のスケールで精密に再現したテーマパークだ。
「10と2。つまり、トウブで覚えてね!」と、SL観光アテンダントのアナウンスのおかげで、ルナは行ったことが無くとも、行った気分になってしまっていた。行ってみたいのだが、2800円の入園料は、やはりルナには手が出にくい価格。
行ってみたいのだが。
ワールドスクウェア内にある、東京スカイツリーの模型が見えると、列車は東武ワールドスクウェア駅に停車し、直ぐに発車する。
東武ワールドスクウェアを出ると、あっという間にSL大樹3号は鬼怒川温泉駅に到着した。
2番線に到着すると、隣の3番線には行き違いとなる上りSL大樹2号が発車準備をしていた。
ルナは改札を抜けて、鬼怒川温泉駅の南側にある陸橋まで全力疾走。
陸橋の坂を上って撮影準備をし終えた直後、上りSL大樹2号が鬼怒川温泉駅を出発した。
へそ曲がり機関車のC11‐325が、青色客車を牽引している。
一眼レフで連射。
「ふぅっ。」
と、一息吐くと、鬼怒川温泉駅に戻り、駅前の足湯に足を付けて、持ってきたお茶で一息つく。
(いい具合。)
ルナは撮影した写真を見返して頷いた。




