始まる崩壊2
「………なんだこれは、信じられない。」
私が彼の異変に気がついたのは、書類の調査を終えて顔を上げたときだった。
カイレン主任研究員、かれはいまここでずっと伯爵邸で回収された資料と格闘を繰り広げていたはずだった。
「いったいなにがわかったんだ。」
「………信じられない、わかりますか子爵、これはもはや物理学や魔法学どころの話ではありません、世界の根幹を形成する大発見ですよ!!そんな事実を彼は突き止めていたのです、私自身あまりに難解なこの研究資料にずっと苦慮していましたが、いまやっとこの資料を残した誰か………伯爵だか彼が雇った研究者だかは知りませんが、追いつくことができたのです。」
「何なんだそれは、説明してくれ。」
「それは………私もまだおぼろげに全体を掴んでいるだけで、とてもではありませんが整理できません、なにせこれは神話の、そうカオスの時代まで遡れる事柄なのですから………ただ一つ言えるのは。」
彼は紙の束をあさり始め、それを見つけた。
「この、一見すると子供の落書きのような絵、これこそがかの者がのこしたモデルケースであり、文字通り世界の縮図そのものだったという事です。」
「なんだって………?」
「あぁ………どういうことだ、すべてが重なり合っていた世界、まるで想像できない、どういうことだ………。」
もう少し時間をください、そういってカイレンはまた机に向かい始める。
「………暗いし、死ぬほど臭いな………。」
「同感だ。」
俺達が歩いていたのは下水道だ、最初に思いついたのは他ならぬ俺だ。
「伯爵を狙っていた奴らは、一体今どこにいるんだ?」
「わからんが………。」
「………今思いついたが、騎士団だって地上をそれなりに探したし、俺達だって探している、それでも見つからないとなると、もう地下しかないんじゃないか………?」
「そういえば、伯爵の指令書にも下水道の捜索命令が出ていましたね。」
「決まりだな、よし、早速入ってみるぞ………。」
そういうわけで今我々はここにいるのだが。
「………これは、想像以上の難事だな。」
下水道は、まるで迷宮のような複雑な構造をしていた、地図と照らしあせてもなお迷いかけるほどに、それ以前に、このような下水道は都市全体に張り巡らされているのだ、とてもではないが、自分達だけでは探索のしようがないというものだ。
「………一旦外に出て子爵にひましている兵士を貸してくれないか聞いてきたほうがいいのではないか。」
「う〜んひとまずは、俺達だけで前もって探索したいところなんだがなぁ………。」
結局俺達は進み続けた。
「………おいちょっと待て、何か見えなかったか………。」
俺は顔を引きつらせながら言う。
確かに、確かに茶色いなにかがはためいていたのが見えたのだ。
「………私も見えましたよ。」
「行くぞ、人か何かは知らないが、とにかく行かなきゃいけないだろう………。」
俺達はその方向に走り出す。
「………いたぞ!!」
「ちょっと待ってくれ!!」
いた、確かに人が、それも半透明ではない、確かに実体だ。
「………!!」
俺達は下水道を駆け抜け、その人影を追う。
「待ってくれ!!」
俺達は走って、走って、右へ左へ曲がって。
「………ハンスさん、あの人間の左側に魔法を一発。」
「!わかりました。」
ハンスが小さめの魔弾を人の左の方に掠めさせながら飛ばした、それはとっさに右の道に入って避けようとする。
「!!!」
振り向いたときにはもう遅い、結界魔法で入り口が塞がれ、袋小路になった下水道にやつは追い詰められた。
「………。」
茶色いのはそれがかぶっているマントだった、ハンスは入り口をみなが手分けして塞いだのを確認してから結界を解除する。
「………ここで何をしている。」
「………っ。」
それは端の方にピッタリ張り付いて、よく見えないフードの下でじっと睨みつけているのがわかる。
「………なんで逃げた、やましいことがないなら逃げるわけがないだろう。」
俺はそう言って近づいた次の瞬間。
やつがざっと飛び出して、そのときの風圧でフードがめくれる。
「!!!」
「なんだと!!」
体当たりされた俺はそのままなすがままに腰の短剣を奪われ………そのまま、お腹を刺された。