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鬼の里  作者: 野村 ヨシ
8/8

小話ー真紅と桔梗

花里(はなさと)それは、鬼の里において最も堅固な塀が廻らされたそこには、鬼の宝がある。


鬼にとっての宝とは、女鬼…女たちのことだ。

女鬼は、そこで、厳重に守られながら幼少期から嫁に行くまでを過ごす。



花里の中には、女鬼たちに文字や、歴史、鬼について学ぶ寺子屋がある。

嫁ぎ先で困らぬよう、女鬼は皆、真面目に学んでいる。



「ねえねえ、次は算盤の時間でしょ?それで今日の予定は終わりだから、帰りにお団子やさんに行こうよ」

「…うん」

牡丹はおとなしい性格の女鬼だが、今日はより一層おとなしい。

どうしたのだろうか。桔梗は牡丹の顔を覗き込んだ。


「牡丹どうしたの?今日はすごく元気ないよ」

何か嫌なことでもあったのだろうか。

もし、悩みがあるならば、教えてほしい。

「ねえ、私には話してよ。元気なくて心配だよ」

「ごめん…桔梗。あのね、今日の男鬼についての先生のお話どう思った?」


桔梗は、ああなるほどと思った。

今日、寺子屋では絵姿を使って男鬼の生態について学んだのだ。

普段、花里にいるあの姿と本来の姿は大分異なるから、牡丹は驚いたのだろう。

自分は、耳年増だから事前知識があり、さほどでもなかったが。


「ああ、髪の色とか?確かにいつもとは相当違う見た目だけど…。里で見るみんなはすごい親切でしょ。男鬼は、女鬼の言うことなんでも聞きたいし、大事にしたいっていう気持ちが強いから大丈夫だよ」

「でもね、私、結鬼(むすびおに)で泣いちゃいそう」

「うーんそんなに怖いかな?・・・・わかった!いいこと考えたの!」

桔梗はキョロキョロとまわりを見渡すと、牡丹にそっと耳打ちをした。


 「花里にいる男鬼に見せてもらおうよ。練習だよ!」



 女鬼、ましてや角も生えていない幼い女鬼が花里から出ることはまずない。

 事実、牡丹も桔梗も花里から出たことがなかった。


 そのため、花里の出入り口である門の場所は知っていても、実際に来たのは今日が初めてであった。


 「あの人、どうかな?緑鬼だって話だよね?」

 「ちょっと年が行き過ぎているような・・・」


 二人は門から少し離れた物陰に隠れ、本日の門番を物色していた。

 最初、牡丹は桔梗の案に反対をしていたが、桔梗の持ち前の押しの強さと、男鬼への興味に打ち勝つことができなく結局案に賛成をした。


 「門番の人は、大抵結婚しているしおじさんだよね。どうしようかな」

 「あそこにいる人は?」


 牡丹が指を指した先は物見塔だった。若い男鬼が、何名か外を見張っていた。


 「いいかも!!」

 桔梗はにっこりと笑うと、牡丹の手を取りパタパタと走り出した。


 



 「せっかく花里の見張り役が回ってきたのに、女鬼と全然接点が無い物見とはなあ・・・」

 赤鬼の真紅しんくは最近、男鬼の姿を発言し成鬼となった若い鬼だ。

 大人の男鬼としての大切な仕事である花里の見張りを言い渡されたときは、自分が大人として認めてもらったという嬉しさと、もしかしたら女鬼を眺めることができるかもという期待で胸がいっぱいだった。


 結果としては、女っ気のない塔に配置されて門から花里に出て行く女鬼(しかも男鬼がそばについている)を遠くから眺めるだけのものであった。


 「里の見回りにつきたかった・・・」

 そういった下心がある若い鬼が多いから、巡回の鬼は年嵩の者がほとんどなのだが。


 「ん?・・・女鬼?しかも幼い」

 真紅はふと、物見塔の下に二人の小さな女鬼の気配を感じた。

 本来、男鬼の特徴である縄張りは自宅を中心として意識を広げているのだが、花里の見張りの仕事をしているときは、特別に自分を中心として縄張りを広げて外敵を監視しているのだ。

 いつもの自宅からの縄張りでないため、集中力がいるし、範囲も狭くなるのだが、もしものことを考えて、見張り中は皆縄張りを移していた。


 二人の女鬼は、塔の下にいる白鬼に話かけていた。

 幼い女鬼が里の中心からはずれ、門まで来ることはとても珍しいことだが、別に禁止されていることでもない。だが、近くにいる女鬼に興味津々の真紅は、集中力を高めて縄張りに入った女鬼と、仲間の白鬼の会話を拾った。



 「白鬼さん、私、桔梗!この子は牡丹。こんにちは」

 「牡丹です。こんにちは」

 「桔梗ちゃんと牡丹ちゃんだね?こんにちは。こんなところまで女鬼が来るなんて珍しいね。どうしたんだい?」

 「あのね、実はお願いがあってきたの」


 チッ。真紅は三人の会話を聞いて舌打ちをした。

 男鬼は、女鬼の頼みを本能で断れない。断れないどころか頼みをかなえることに喜びを感じるし、今会話をしている白鬼は、女鬼と会話をする嬉しさのあまりちょっとだけ鼻の下が伸びている感じがする。

 もうすぐ下の白鬼と場所の交代の時間だ。

 女鬼と話せない自分としては面白くないし、ちょっと早めだが交代をしてやろうとして、真紅は急な勾配の梯子を降り始めた。


 「私たち、今日男鬼の本当の姿について教えてもらったんだ。そしたら、この牡丹が、本当の姿が怖いって。結鬼むすびおにで泣いちゃうかもしれないって」

 「それは困ったな。確かに恐ろしい姿かもしれないけど、中身はいつもの男鬼と同じだから安心していいよ」

 「私も言ったんだけど、牡丹が心配してて・・・。ね、今ここで見せてよ!結鬼むすびおにの前に、牡丹に練習させてあげて!」


 会話を聞いていた真紅は、思わず梯子から足を踏み外しそうになった。


 それもそうだ。こんなところでおぬの形を解くなんて、変態だと思われても致し方ない。

 だが、女鬼は白鬼を期待を込めた眼差しで見つめているのだろう。

 あの白鬼は、自分より少しだけ年下な上に取り分け女鬼に弱い。

 このままでは、絶対におぬの形を解いてしまうだろう。


 

 「それはちょっと。おぬの形は何もないこんなところで解くわけにはいかないよ」

 「そうなの・・・桔梗、残念」


 「・・・わかった」

 何もわかっちゃいねえ!と真紅は白鬼に内心激しいツッコミを入れた。

 これは先輩鬼としては、止めてやって女鬼には優しく諭してやらないと・・・真紅は急いで梯子を降りて、三人の下へ走った。



 「雪守ゆきもり!交代だ!!」

 間に合った。白鬼は少し髪の毛が白くなり始めていたが、なんとか間に合ったようだ。


 「真紅しんくさん!!わかりました。桔梗ちゃん、牡丹ちゃんごめんね。お仕事だから行かなくちゃいけないんだ」

 真紅はふと女鬼を見やった。

 ここまで来てそんなこと言い出すなんて中々度胸のある女鬼だ。

 女鬼は二人いた。やわらかそうなこげ茶の髪で、若草色の着物を着た大人しそうな鬼と、まっすぐな黒髪できりりとした顔立ちの濃い蒼の着物を着た鬼が。



 「うっ・・!!!」

 真紅は、濃い蒼の着物の女鬼を見た瞬間、脳天から身体の末端へと電撃が突き抜けたような感じがした。

 男鬼として優しく二人に諭し、家に帰らせるつもりだったが、どうしても黒髪の女鬼を帰したくない。


 「せっかく見れるかもしれなかったのに。あ~あ」

 残念そうな顔をして桔梗が真紅を見ると、真紅は胸に太刀をぐっと差し込まれたかのような痛みと、全身がボッと熱くなったのを感じた。


 「あっ赤鬼さん!?」

 とたんに桔梗と牡丹の顔色が変わった。

 二人とも少し青く、後ずさりをしてお互いにがっちりを手を握って震えている。

 

 なぜ二人は俺のことを怖がっているのだろうか?真紅は首を傾げた。

 すると真っ赤な前髪が目に入った。


 「!! すっすまない!!見苦しいところをお見せした」

 真紅は、本来の姿に戻ってしまっていたのだ。

 慌てて意識を集中させて、おぬの形に戻る。

 成鬼となり、おぬの形を崩さぬ修行を受け、見張りとなってから数年、こんなことは今まで一度もなかった。

 こんなところで、しかも大切な女鬼しかも子供の前で形を解いてしまうなんて失態もいいところだった。


 「ありがとう!初めて見たの」

 桔梗は、白鬼の本来の姿を見れなかったので、真紅が見せてくれたものだと勘違いしているらしい。


 「そうか。それはよかった。では、もうそろそろ家に帰ったほうがいい」

 真紅は焦りながらも、それを悟られないよう帰宅を促した。


 「はい、わかりました。見せてくれてありがとう。私は桔梗、あなたのお名前は?」


 「真紅しんく。赤鬼の真紅」

 もっと自分のことを紹介したいのに、思うように言葉が出てこない。


 


 桔梗・・・あの女鬼は桔梗と言うらしい。

 それからと言うもの、真紅は影なる努力を重ね、桔梗の視界に何度も入るようにしていたらしい。


 桔梗は、真紅の姿を遠くから追うようになる。




 そして月日は流れ・・・桔梗の結鬼むすびおにの知らせが入る。

 待ち焦がれていた桔梗との再会、真紅が再び本来の姿を見せる日は、もうすぐそこにある。



 



 




 

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