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屑鉄機械劇場  作者: 椿
47/67

5ー4

「どうだ?」


「あ、隊長。連中に動きはありません」


部下から望遠鏡を受け取り、モーリス・ラッハーはギルド所属の輸送隊を確認する。


場所は荒野の岩石地帯。目標とは一キロ近く距離が離れている。こう遠くては相手がどれだけ魔力知覚に優れていても、こちらには気づけない。


モーリスは余裕に満ちた手つきで望遠鏡を自らの目に当てた。


「ふむ……」


車両は間違いなくギルドの物だ。戦力は<セイブ>が一体。貧相にも程がある。


「妙だな。不自然すぎる」


普段、ギルドの輸送隊は特定のルートしか使わない。警備も厳重だ。最低でも鎧人形が五器はいる。それが、あの程度の戦力で移動するとは。


襲うのは容易い。だが、露骨すぎるようにも思えた。行動を決定するために、なにか一つ決め手が欲しい。


「あれが例の物を積んでいるという確証はあるのか?」


部下に尋ねる。彼は汚れた水筒から口を離し、


「あります。それに、シルヴァ・ウィンチェスターがいるってことは重要な物を運んでいるってことじゃないですかね」


部下の意見にモーリスは最もだ、と頷いた。


シルヴァ・ウィンチェスター。ヘルトロイトで<アヴェンジャー>を退けた奴だ。弱冠十五歳ながら、その悪名は大陸全土に広がっている。


そいつが護衛に付いているということは、やはり目的の物の可能性が高い。


「他の連中にも連絡しろ。こちらも動くぞ」

望遠鏡を返して言う。だが、その言葉に部下が難色を示した。


「敵は<セイブ>一体ですよ? 俺達だけでも……」


「馬鹿が。敵の車両を見ろ。一番後ろのやつだ」


最後尾の車両は一際大きい。前二つは宿泊用や物資運搬用だが、三両目の物は鎧人形も格納できる。


こちらがのこのこ出て行ったところをシルヴァ・ウィンチェスターが迎撃。痛手を負わせるというのが相手の狙いだ。



「そんなはずはありません。鎧人形はいないはずです」


「なに?」


「これを」


部下が懐から水晶を取り出す。目的の物を遠距離から察知するために用意された物だ。


「反応は三両目から出ています。あれを鎧人形に積めるわけがないんですから、カモフラージュでしょう」


「むぅ……」


つまり、鎧人形が入っていると見せかけた、二重の罠だという事だ。シルヴァ・ウィンチェスターを近くに置いておくことで信憑性を高めようとしている。


「やるな……。だが──」


残念だったな。そう思い、モーリスは口元に笑みを浮かべた。どちらにしても、こちらは攻めるつもりだった。相手は策を張り巡らせるあまり、自らそれに溺れたのだ。


目的の物を奪い、シルヴァ・ウィンチェスターも殺したとなれば、<アヴェンジャー>はこちらに回ってくる。全てが上手く運んでいるのだ。モーリスは意気揚々と出撃命令を出す。


「さあ、俺の手柄になってもらうぞ……」


哀れな獲物を見据え、モーリスは呟いた。


◇


「各部正常。よし……」


男は確認し、器体を立ち上がらせる。<セイブ>が低い起動音をたて、その身を起こした。


武器は開拓用に作られた斧だ。剣と比べれば切れ味で劣るが、ローコストで使いやすく、おまけに壊れにくい。反政府組織ならどこでも使っているような武器だった。


男は目標の輸送隊を目に納める。無抵抗の相手を手に掛けるのは気が進まないが、やるしかない。


<セイブ>の背中にある推力発生器と脚部の重力偏向器を併用して、地面を滑るように移動する。急速で接近しながら、大腿部にマウントされている筒状の物体を取り出した。


"エクスプロード・チューブ"と呼ばれる使い捨ての投擲武器だ。バトン程度の大きさで、半ばで折れる仕組みになっている。


両端は鎖で繋がれており、振り回した遠心力を使って投げられる。


「まずは足を止める……!」


バトンを敵の<セイブ>の目前に投げつけた。直撃はさせない。とりあえずは牽制だ。


足元に爆発物を転がされた敵器はたたらを踏み、足を止める。その後ろで車両同士がぶつかり合い、三両目は大きな音を立てて横転した。


すかさず追撃。後方からモーリスの操る隊長器が魔法杖を使い、車両と車両の連結部を狙撃した。太い鎖が圧縮された魔力によって溶断される。


「よし……!」


<セイブ>は残った二両を連れて逃げていく。おそらく、あの操縦者も多くは知らないのだろう。特に相手をする必要もないので捨て置いた。


取り残された三両目に近づき、鉄製の外装に斧を叩きつける。そうしてから、裂け目を両手で広げた。


「目的のコアは──」


車両の中に手を突っ込む。ギルドの連中が駆けつけたとしても、こちらの戦力は充分な上に、逃げる準備も万端だ。負けは無い。


衝撃。腕部が掴まれた。


「なに──ひっ!?」


暗い闇の中に赤い光が二つ。禍々しい威圧感を持ったものだ。悪魔のような眼光に一瞬、身がすくむ。


咄嗟に逃げようとしたが、右腕を掴まれているため、それも叶わない。状況を上手く処理できず、致命的な隙が生まれてしまった。


腕を引き寄せられたと思ったら、車両の中からぬっと腕が伸びて来て、それが胸部──操縦席にピタリと当てられる。


装甲が押しつぶされる。金属の悲鳴が聞こえた。


それ以外は、何もわからなかった。


◇


「なんだ……?」


モーリスは<グローリー>の操縦席で一人ごちた。一番器の<セイブ>が車両に取り付いたまま離れようとしない。ごたついているようだ。


(なにかあったのか?)


二番器と三番器にフォローの指示を出す。四番から六番器はその場で待機。モーリスは周辺に気を配りながら、自器の体勢を低くさせた。


岩石を台の代わりにして、大型の魔法杖(ロッド)を車両に向ける。


その時、動きがあった。


一番器の<セイブ>が車両に引き寄せられ、直後に上半身を吹き飛ばされる。高出力のウェイブ・ナックルだ。


「馬鹿な、鎧人形だと……!?」

三両目の輸送車から蒼い鎧人形が現れる。全身から余熱を吐き出し、倒した<セイブ>から斧を奪った。


「"あれ"を積んでいるのか……」


器種には見覚えがある。<ライン・ラーク>とかいうアンティークだ。ギルドからガーベラ・ポートに流れたらしいが、まさか試験に使われているとは。


「骨董品のくせに……!」


モーリスは部下を殺された恨みを晴らすべく、叫んだ。


「全器、奴を倒せ! 四肢を叩き折るんだ!」


操縦者が死ねば、鎧人形のコアも死んでしまう。それだけは避けなくてはならない。


だが、相手は一器。こちらは六器だ。まだ勝算は充分にある。

周辺を警戒。増援の心配はない。モーリスは指示を出してから、ロッドの狙いを敵器の頭部につける。


「沈めてやるぞ……!」


◇


(敵の数は……六器か)


後ろから一器が斧を振りかざして迫ってくる。二時と九時の方向からも追撃。中々に錬度は高い。


シルヴァは後ろの敵に斧を投げつけ、横撃してくる二器をさばくことにした。一器の攻撃を身を沈めて回避し、そのまま足を払ってやる。


相手は空中で回転し、右から迫るもう一器に激突した。後ろから斧を腹部に食らった<セイブ>が倒れ込む音が聞こえる。


シルヴァは揉み合いになっている二器にとどめを刺そうとするが──


「………!」


後方から殺気。光の線が<ライン・ラーク>の横を通り過ぎ、そのメタリック・ブルーの装甲を照らした。


無理な体勢のまま、敵の追撃をいなす。腰から短刀を抜き、斧から斬撃を辛うじてそらした。


「やるな……!」


良い連携だ。一器で相手をするのは苦しい。戦法を変えなくてはいけない。敵の懐に飛び込み、短刀で胸部を狙う。あざとすぎた。よけられる。


もう一歩踏み込み、拳を叩き込む。腕部の装甲が拳を包み、敵の操縦席にめり込んだ。ようやく二器を撃破。


「これでもデビュー戦なんだが……」


苦しい思いでシルヴァは呟いた。

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