4ー3
高く積み上げられた瓦礫の山。元は生活を支えていた物が、今では人を下敷きにして殺してしまっている。破壊の爪痕は深い。
薄着の作業員たちがスコップやゴーレムを使って救助と撤去をしていた。遠くからは炊き出しか、食べ物の香りが漂ってきていた。
来希は街を一通り回ってみて、一番被害の酷い区域に訪れていた。服装は地味な物に替えている。ここで勇者用の豪奢な服を着ていいわけがないからだ。
しゃがみ込み、石ころを一つ手に取る。建築物の一部だったのだろう。しっかりとした材質だった。
頭の中を様々な思いが巡る。
結局、なんの行動も起こしていない。死んだ三人の遺族に会いに行こうとも思ったが、それも出来なかった。墓に行くことすらも、出来なかった。
勇気がない。足が動かないのだ。行動しようかと思うと、何かが肩にのしかかってくる。吐き気もだ。
それに、考えてみれば、自分のために死んだのはあの<グローリー>の操縦者たちだけではない。あの襲撃が来希を、勇者を狙ったものだとすれば、犠牲者全てが被害者でもあるのだ。
肩がさらに重くなり、吐き気が増す。胃液が込み上げてきた。最悪な気分だ。
来希は立ち上がり、近くの男に話し掛ける。
「あの、なんか手伝う事ってありますか?」
男は作業着にタンクトップ一枚という服装だった。全身が汗まみれで埃まみれ。肩にはこれまた汚れたタオルが下げられている。
「ん……。ボランティア?」
彼はスコップを振るう手を止めると、タオルで顔を拭いてから尋ねてきた。とりあえず、来希は頷いておいた。
そこで気づく。自分は道具を何一つとして持っていない。普通のボランティアなら、それくらい自前で持ってくるだろう。これでは非常識な馬鹿だ。
(ど、どうする?)
近くの店に行って買ってくるか? 金ならいくらか持っている。だが、それにしても不自然だ。今から買いに行きますというのも変だろう。
「おい、ジェイク。スコップを一本持ってこい!」
思考に気を取られていた来希は、男が突然大声を出したことに驚いた。一歩後ずさったことで瓦礫に足を取られ、転びそうになる。
ひとしきり慌ててから、赤面して、
「す、すいません」
「構わん。手が足りなくてな」
「そうなんですか?」
見てきた限りでは充分に人手は足りていたように思えたが、まだ足りないらしい。
「国境付近もきな臭いし、ヘルトロイトでもテロが起きたらしくてな、軍部も大忙しだ。おかげでゴーレムの数が足りん。人の手じゃ限界がある」
「……すいません」
「すいません?」
来希の不自然な言動に男が眉を寄せた。すぐさまごまかしたが、明らかに不信感を持たれてしまっただろう。先ほどから挙動不審が過ぎる。
ゴーレムの数が足りない。だが、司令部の倉庫には<ブレイド>がある。あれがあれば、作業の進行スピードも桁違いだ。
しかし、使えない。
あれに乗ってくれば来希が勇者だとバレて大騒ぎになる。実際、司令部が大混乱に陥った。
なにより、<ブレイド>に復興作業などという細かい動作をさせられる自信がない。強力過ぎるのだ。一歩間違えば、街をさらに破壊してしまう。滞っている作業をさらに遅らせるわけにはいかない。
部屋で沈んでいる暇があったら、操縦の訓練でもしておけば良かったのだ。そうすれば、選択肢が一つ増えた。
「……おい」
「……え? あ、ああ。すみません」
いつの間にか男の手にあるスコップが一本増えていた。来希は謝り、それを持つ。
「大丈夫か? しっかりしてくれよ」
「す、すみません。それで、なにをすれば良いですか?」
男は瓦礫の山を指差し、
「あれを」
そしてその手をゴーレム用の大きな器にずらす。
「あそこまで運ぶだけだ」
「わかりました」
うし、と気合いを入れて来希は作業に取りかかった。
◇
「すごいですよ。あのコアを動かせるなんて」
<ライン・ラーク>から降りてきたシルヴァにリカードが言う。
「動かしたくらいで褒められてもな」
嬉しくもなさそうにシルヴァが答える。
「体の調子はどう?」
「問題は無いな。少し居心地の悪さを感じているだけだ」
そう言って蒼い鎧人形を見る。さっそく作業員たちが群がり始め、装甲を取り外しにかかっていた。よほど起動に成功したコアに興味があると見える。
今回の成功は喜ばしいことだが、シルヴァにとってはモルモットとしての生活が始まることを意味しているのだ。なるほど、あまり明るい気分にはなれないだろう。
「大丈夫ですよ。なにも解剖しようってんじゃないですから」
「当たり前だ」リカードの言葉にシルヴァが顔をしかめた。さすがに悪い冗談に聞こえたらしい。少し引いている。
「でも、あのアンティークを使って何かを始めるってのは確かなんでしょ?」
「はい。鎧人形についてはウィンステッドの技術がアルメイアに遅れてるってのは事実ですから。悲しいですけど」
「<セイブ>で<グローリー>の相手はキツいだろうな」
「それもありますけど、最近の魔物は強力になってきてますから、現行の鎧人形じゃ駄目なんです」
リカードの言う通り、オーガなどを始めとする大型の魔物に対して、鎧人形のパワー不足が指摘されていた。
元は作業器の<セイブ>はもちろん、<グローリー>も既に性能面で不満が出てきている。器種転換の時期に差し掛かってきているらしい。
「<ライン・ラーク>のコアなら、かなりの無理はできます。新しい武器だって作れますよ」
リカードはうきうきしている。シルヴァとリオンが呆れていると、リリアナがこちらに歩いてきた。
「念のため、メディカルチェックを受けてもらいます。三十分以内に医務室まで来るように」
それだけ言って作業員たちの方へ行ってしまった。愛想の欠片もない。シルヴァは肩をすくめると、医務室へ向かって歩いて行った。
「しっかし、偉そうなもんですね。いくら金を出してるからって」
リカードが憤然として言った。リリアナの態度を見れば、無理もない。実際、彼女の振る舞いには問題があった。
「そうだね。鉄の女ってやつかな」
「あ……。すみません。そういえば、リオンさんはあの人と」
「同じ国に住んでた。幼なじみとも言うね。昔はもう少し、愛想も良かったんだけど」
だが、今は二人とも国を失い、一人はギルドに、もう一人は傭兵になっている。嫌な話だと思った。
「その話はやめよう。それより新型の事だけど、目処はたってるの?」
変な空気になってしまったので、話題を変える。リカードは脇に抱えていたファイルを開き、
「大昔の文献に、面白い物が載ってたんです。これを」
渡された資料に目を通す。この世界では見慣れない形状の物体が詳細に描かれていた。リオンの眉間にしわが寄る。
「銃とか言うらしいんですけどね。なんでも、火薬を使って弾を撃ち出すみたいなんです」
「……でも、こんな物を造るんなら、弓を造った方がいいよ。火薬じゃ威力が弱すぎるし、技術も足りていない」
火薬の研究など、ほとんど手付かずだ。たまに使われるのは開拓用の爆弾くらいである。それなら、高い威力と信頼性を誇る弓の方が有用性があった。
「いえ、そうじゃなくって。この技術を流用するんですよ」
「流用?」
リカードがページをめくる。
「あらかじめ弾に魔力を込めておいて、銃身からの合図でそれを撃ち出すんです」
「じゃあ弾丸自体は発射されないんだ」
「その案もありましたけど、結局は威力と生産性でこっちになりました」
リオンはしげしげと図面を眺める。
「コストは?」
「それが、矢を造るより安く済むみたいです」
「なるほどね。実用化されれば、アルメイアとも対等に戦えるか……」
「はい。中距離戦での優位を崩せますよ」
「なら、早く頼むよ。出来るだけね」
「そのための<ライン・ラーク>です」
リカードが力強い声で言った。リオンは複雑な思いで蒼い鎧人形を見上げる。またこの器体は新しい分野を作るのかもしれない。




