↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屑鉄機械劇場  作者: 椿
41/67

4ー2

「やっぱ駄目だ」


シルヴァは舌打ちをした。眼前にはぐつぐつと音を立てる鍋。中には数十種類の香辛料を加えたソースが満ち満ちていた。


「いや、美味しいんじゃないですか?」


シルヴァの隣に立っている男──ガーベラ・ポートのコックがソースを味見する。中々の費用が掛かっているソースはそれなりには美味い。


だが、シルヴァはまったく満足していなかった。


「いや、駄目だ。これは俺の求めている味じゃない」


「はあ……」


「あんたは見たことないか?」


「なにをです?」


シルヴァは鍋の方を向いているが、その瞳は遠い過去を見ていた。大切な思い出だ。


「あれは俺が拾い食いをした時の事だ」


「え? 拾い食いしたんですか?」


「それは大した問題じゃない」


元騎士団の人間が拾い食いをした事はかなりのスクープだったが、シルヴァは気にしなかった。


「肉の練り物と数種の野菜をパンで挟んだ物だ。それくらいは誰でもやるが、あのソースは絶品だった」


今でも覚えている。いや、忘れられるはずがない。あの味。強い中毒性を持っていた。


再現しようと思っても、この世界には無い技術が使われているらしく、辿り着くことは難しい。とても悔しかった。これでは枕を高くして眠れない。


「でも、こっちで流行ってるのはホットドッグとかでしょ?」


「ああ。だから珍しかった」


「俺は食べた事ないですね」


「そうか……」


やはり知る者はいないらしい。目的にはまだまだ遠いと、シルヴァが肩を落とす。すると、後ろから声が掛かった。


「呼ばれてるよ。二番格納庫から」


リオンだった。彼は鍋の方を見て、シルヴァが何をしていたか見当がついたらしく、笑みを深くした。


「分かった。……外すぞ」


リオンに返事をしてから、コックに言う。二番格納庫ということは<ライン・ラーク>絡みだろう。シルヴァはエプロンを椅子の背もたれにかけてから、扉の方に向かった。


「このソース、使っていいですか?」


「ああ。好きにしてくれ」


調理場を出てリオンと並んで歩く。


「料理教室でも開いてたの?」


「そんなところだ。……それで、なんの用なんだ?」


シルヴァ達がいるのはギルドが所有している場所で、ガーベラ・ポートが間借りしている状態だった。何かを待っているらしいが、なにも知らされていない。


そして<ライン・ラーク>もギルドの所有物なので、動かすには面倒な手続きがいる。許可が無ければ乗ることすら不可能なのだ。


受領したは良いものの、シルヴァはいまだに<ライン・ラーク>を操縦していない。


二番格納庫に着くと、作業者姿の若者が二人に気づき、近寄ってきた。トルボの息子である、リカード・アルスだ。


「起動許可、降りたみたいですよ」


「つまり……」


「今から火を入れるってこと」


リオンが言った。


◇


蒼い胸部装甲が解放され、座席がせり出してくる。アルメイア製の高級器に共通する特徴だ。リオンは<ライン・ラーク>の巨体を眺めていた。


今からウィンステッドで運用されるこの器体は、"第三世代"に区分される。現在、流通している鎧人形はほとんどが"第五世代"だ。つまりは骨董品ということになる。


今では<グローリー>と同程度の性能だが、<ライン・ラーク>が建造された数十年前では、その存在は衝撃的だった。


それまでの鎧人形は土で固めた骨格に金属板を貼り付けただけの玩具でしかなかった。辺りをひしめく魔物を相手にするにはどうしても手が足りなかったのだ。


だから手軽に大きな戦力を手に入れられる勇者召喚が必要だった。しかし、この<ライン・ラーク>の登場で全てがひっくり返る。


鎧人形という強大な戦力を手に入れた人間は瞬く間に魔王軍を押し返し、領地を取り戻していった。


勇者専用器である<ブレイド>の骨格は<ライン・ラーク>が元になっているし、その量産器である<グローリー>もまた同様だ。


つまり、<ライン・ラーク>は現在の鎧人形の始祖とも言える器体なのである。歴史的価値も非常に高い。


そして、その器体にシルヴァが乗り込んでいく。全てを崩壊させる魔力を持った男がだ。彼の性格的に考えて、<ライン・ラーク>が鉄屑に変わる可能性は、決して低くない。


リオンは隣にいたリカードにひそひそ声で尋ねる。


「あの器体が壊れちゃったら、どうするの?」


「え? ……さ、さあ?」


「もしウチで賠償なんてことになったら……」


「今年の予算が吹っ飛びますね。多分、愛好家から袋叩きにあうでしょうし、組織の存続自体、危ういかも……」


今になって怖くなってきた。なにせ、シルヴァが魔導拡張器を破壊するところを山ほど見てきたのだ。リオンの額にじんわりと汗が浮かぶ。


「でも、大丈夫だと思いますよ? いくらなんでも、鎧人形を壊すだなんて」


ありえない。そう言いたいらしい。リカードの言葉にはまだ、楽観的なものがある。


「君のお父さんが打った剣が、三日も保たなかったのに?」


「え……」


顔色が変わった。二人共、複雑な表情になる。


「嫌ですよ、俺。鉄屑になった鎧人形の部品を拾うなんて」

「僕だって嫌だよ。でもあれ、シルヴァにしか動かせないんでしょ?」


あの<ライン・ラーク>の動力源──コアは普通のそれとは異なる物で、破格の出力を誇るという。それがどれほどのものかは知らされていない。


さらに一般のコアとは違う特徴として、起動時にマナを消費しないというのがあった。これはウィンステッド内で活動するガーベラ・ポートとしては嬉しいことだ。


だが、問題はいくつもある。


まず一つめに、起動時のことだ。マナを使わないということは、全ての負担が操縦者に集中するということでもある。これは特に珍しい事ではない。<セイブ>なども似たようなものだ。


しかし、<ライン・ラーク>の出力は異常であり、必要とされる魔力量もまた、異常だ。そのため一般的な魔力量の人間が供給を続けた場合──


死んでしまう。


「多分、リオンさんでも動かせますよ」


リカードの言葉に、リオンは眉を寄せた。


「そんな話は聞いてなかった」


実際、<ライン・ラーク>の事に関して詳しい説明を受けたのは数日前のことだ。人喰いコアのことなど知らなかった。

シルヴァは事前にある程度の説明を受けていたらしく、普通に了承していたが……やはり気分の良いものではない。


「魔力の量が一定以上なら、誰でも使えるんですよ」


二つめはこれだ。リスクに対してリターンが小さい。操縦者を殺すようなコアを積んでいても、性能は<グローリー>と同程度でしかないのだ。


正規のメンバーであるリオンより、どこの馬の骨とも知れないシルヴァの方が、何かあった時の損失は小さい。問題が無ければ頼りになる戦力が手に入るし、スポンサーであるギルドにも良い顔ができる。


そういう事だ。


「だとしても、気に入らないよ」


熱血漢を気取るつもりはないが、知り合いが実験台にされるのをのほほんと見ているのは嫌だ。死なれては寝覚めが悪い。


「そりゃ、俺だって気に入らないですよ。でも、シルヴァさんは了承したんでしょう?」


「……まあね」


シルヴァに変わった様子はなかった。さっきだって謎の料理を作ろうとしていたくらいだ。特に気負った様子も見受けられない。度胸があるのか、馬鹿なのか。おそらく両方だろう。


「あのリリアナさんが目を付けたんですし、大丈夫ですよ」


そんな言葉でも、気休めにはなる。リオンは嫌な気分のまま、人喰いゴーレムに目を向ける。


全体的に暗い色合いなのと、赤いツインアイのせいで禍々しい印象を受ける器体だ。見ようによっては悪魔のようでもある。悪役顔だ。


シルヴァがいそいそと乗り込んでいく。しっかりとした足取りだった。もしかしたら危険だという事実を忘れているのかもしれない。


<ライン・ラーク>が操縦者を取り込み、胸部装甲が閉じる。鈍い起動音。


隣ではリカードがそわそわしている。シルヴァが駄目なら、<ライン・ラーク>は動かない。


「……う、動かないですよ」


「くたばったのかな」


蒼い鎧人形はピクリとも動かない。いまだに獣の唸るような起動音が響いている。


二番格納庫にざわめきが広がってきた。実験の失敗に落胆する声と、犠牲者が増えたことに憤る声が聞こえてくる。


その時だった。


赤いツインアイに光が灯り、巨体が立ち上がる。ざわめきは消え、全員が視線を集中させた。


どうやら成功らしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。