第四話 向渉
Day − 2 / 14
その公園は、都会のビジネス街の真ん中にあった。
面積は約8万8,000平方メートル。
高層ビル群に囲まれた「都会のオアシス」として、
緑豊かな憩いの場になっている。
様々な彫刻やオブジェが展示され、
金属製の女性の裸体像が、真昼の太陽を鈍く反射している。
昼食を終えた人々が、ベンチに座ったり、散歩をしている。
ベンチの一つに、二人の若い男女が立っていた。
二人ともスマートフォンを片手に、画面と周囲を交互に見ている。
「この辺のはずなんだけどな」
男が笑いながら言う。
「ヒントは“子供が空を飛ぶ場所の影”だって」
女がスマートフォンの画面を拡大する。
画面には地図。
中央に、小さな光る点が表示されている。
アプリの名前は Origin Trace。
ここ数年、都市部で人気の宝探しゲームだ。
プレイヤーは地図に表示される「セル(Cell)」を探す。
セルは街のあちこちに隠されている。
ベンチの裏。
橋の欄干。
古い電話ボックス。
公園の遊具。
GPSとヒントを頼りにキャッシュを見つけると、
小さな金属ケースの中にログブックが入っている。
そこにユーザー名と日付を書き込む。
それだけ。
だが、それが楽しい。
「子供が空を飛ぶ場所……」
男は公園を見回した。
すぐに視線が止まる。
ブランコ。
黄色い支柱のフレームに、強化樹脂で出来た赤いロープ、二つの座台はモスグリーンだ。
二人は同時に歩き出した。
女がしゃがみ込む。
ブランコの支柱の裏側。
黒い磁石付きの金属ケース。
「ビンゴ」
ケースを外す。
カチッ。
小さな音を立てて蓋が開く。
中には、何処かの国の記念硬貨、防水のノートと短い鉛筆。
ページをめくる。
そこには、既にいくつかの名前が並んでいた。
Copy code
SkyFox
xxxx/04/13
UrbanNomad
xxxx/04/14
LunaTrace
xxxx/04/15
女が笑う。
「結構人気スポットだね」
男はログブックを受け取り、名前を書く。
Copy code
MapWalker
xxxx/04/18
「このSWAPは⋯いいかな」
男はそう言うと、ノートを戻す。
ケースを閉じる。
そして元の場所に磁石で固定する。
「次、行こう」
男はスマートフォンを見る。
画面には新しいセルが表示されている。
都市のあちこちに点在する、数百のセル。
Origin Traceは、そういうゲームだった。
同時刻。
西崎千尋はこの公園の入口に立っていた。
タブレットの画面を、じっと見ている。
Origin Traceの画面だ。
表示されているセルは一つだけ。
ブランコのアイコン。
千尋はゆっくりと公園の中へ歩き出した。
千尋は、誰も乗っていないブランコの前で立ち止まった。
周囲を見る。
昼休みの公園。
ベンチにはスーツ姿の男女。
芝生では子供を連れた母親が話している。
誰も彼女を見ていない。
千尋はしゃがみ込んだ。
ブランコの支柱の裏側に手を伸ばす。
指先に金属の感触が触れる。
黒い磁石付きのケース。
千尋はそれを外した。
蓋を開ける。
中には、防水のノートと短い鉛筆。
それから、どこかの国の記念硬貨。
ノートを開く。
さっき書かれたばかりの名前。
MapWalker
xxxx/04/18
その下に空白。
千尋はしばらくページを見ていた。
鉛筆を取る。
ゆっくりと書く。
C-219
contact
書き終えると、手を止めた。
ページをもう一度見る。
周囲を確認する。
誰もこちらを見ていない。
千尋はノートを閉じた。
ケースの中に戻す。
蓋を閉じる。
カチッ。
元の場所に磁石で固定する。
千尋は立ち上がった。
ブランコが、風に揺れて小さく軋んだ。
Origin Traceを閉じる。
Friendsにログインする。
プロンプトが表示される。
――カブトムシの幼虫が現れるはずだ。
千尋はタブレットをバッグに入れると、公園の出口へ向かって歩き出した。




