傷の数だけ泣かないで
あの後、眠れないということもなくぐっすり眠れた。
というのも張っていた気がとりあえずではあるが抜けてしまったからだ。
ぷつん、とブレーカーを一旦落としたようなものだ。
なので我に帰った朝の方が恥ずかしかった。
悶絶ものだ。
「のーう…」
「唸るな」
「うにょあああああぁ…!」
「鳴くな」
「うがーっ」
「威嚇??」
「それよりも、俺からも突っ込んでいいか」
「「どうぞ」」
「――イチャつくな、ウザイ」
「汚い言葉遣いは駄目です、シン…と言いたいところだけど私も同感」
「えー。なんでだよ?」
「いや、この体制を見れば一目瞭然というか何と言うか」
私はカイトの膝の上に居る。そして腕は私の腹に回されている。
「え、何あんたら付き合ってんの?」
「いや、どうだろう。ちゅーはしたけど」
「したのかよっ。つーか、そんなん俺に言うな!
……恥ずかしいだろ」
シンの顔がほんのり赤い、そしてぷいっと顔をそらした。くっそ可愛い。
「……なるほど、これが正しい恥じらい方か」
「まぁ、でも付き合ってるかどうかはどうなんでしょう……?
慰めてくれただけって感じです。子供を宥めすかす、みたいな。
飴ちゃんをあげようね、って感じで」
「いや、子供を宥めるのに舌は入れないだろ、普通」
「…そうなんですか?」
「そうなんですよ。まぁ別に飴もやってもいいけどさ」
とカイトが小首をかしげながらにやりと笑った。うん悪い顔してる。
「おい、なんか生々しいんだけどー。おい…気まずいんだけど?」
「えと、何かもうごめんなさい。けどどうにも寒いので。温かいんですよこの体勢」
「湯たんぽ代わりですか、芽衣さん」
「そうですねー。最近触ってないから余計に反動がね…」
(えー、ちょっと。どこから突っ込んでいいのかわかんね)
「あー、禁断症状的な。」
「いや、エネルギー欠乏的な感じです」
手をわきわきさせる。
「なるほどー」
「そうそう」
しかし、そうか子ども扱いでないのなら。
「…女性扱いということか」
「うーん、あともう一押しほしいな」
「そうか…難しいな」
「うん、そうだね。難しいよなー」
よしよし、困ったねーと頭をなでられる。やっぱり子ども扱いじゃないのか……。
でも気持ちいいよう。ごつごつした手が。久々だ……。
「で、だ。お前らの元主人のことなんだが」
「あぁ…」
と急に真面目な話しになったのでカイトの膝から降りた。
シンを監禁して、マリアを刺客として放ったらしいこの国の重鎮。
シンを救い出したのはチャキらしい。屋敷に忍び込んで、だ。
カイト、曰く。
セシル様の政策への反対が気に入らなくてした犯行だったらしい。あと娘を結婚相手として認めてもらえなかった腹いせも。
その政策については後からセシル様から細かく聞いたのだが。
その男は農地を農民から取り上げて土地の改革を行おうとしていたそうだ。
それだけなら話はわりと悪くないように思える。
けれどその方法が問題というやつで。
商人の区画、農民の区画、単なる市民の区画と分ける。
けれどその計画を達成するには10年以上の月日がかかる、らしい。
もちろんその間に農地を取り上げられた農民は収入源を失って、奴隷なみの生活を虐げられ、死んでいく。
その上食料の供給源も減る。
建物の工事に農民を使うことも出来るがそれで全員が救われるわけでもないし、その上薄給。
ここで利益を得られるのは元締めだけだ。
そしてまぁ、それを却下したわけである。王子様権限(国王への相談という形)で。
「マリアの大切な子ってやっぱりシンか」
「でも何でセシル様じゃなくて俺が狙われたかっていうと」
「うん」
「マリア、俺のこと何ていってた?」
「えーっとだな。確かカイトには一度会ったことがあるらしい」
「おう、呼び捨てかよ」
「……駄目なのか?」
「いや、俺に関しては別に構わないけど。他は気をつかえ」
「おう、んで。一度お前に保護されかけたことがあるらしい。んでそのとき丁度俺が監禁されたもんだから」
「こりゃいいや、とばかりに俺の所為にされた、と」
「正解」
「それを信じるマリアもマリア…。っていうか俺職務を全うしただけじゃねーか。騎士として」
「いや、俺が居ないと一気に箍が外れるんだ。アイツ。本能のままなんで、まぁ間違っててもその後考えればいいよ、とか思ってたんだと思う」
「…………。」
軽い。確かに情緒という面で教育が必要なようだ。
「そういや、俺らこのままでいーわけ」
「あぁ、そうだ芽衣とともに教育を施せとのことだ」
「え、私も?」
「帰れないんだろ?」
「まぁ、今のところは」
「セシル様の状況を見れば、手駒が欲しいところなんだよな、しかもできるだけ裏切らない奴」
「へぇ……。」
なんかきなくさいですね。
「まぁ、マリアもシンも将来有望そうだし、確保だ。人材確保」
「有望……?」
マリアが人形のような無表情で首をかしげた。
こんな可愛い顔をしてあんな風に剣で舞えるように動けるのだから、人は見かけによらないものだ。




