おめかし、オメカシ、御粧し
少し、クリスマスっぽい…かな?
宴のための準備中
今回は少し長めです。
そして足から手錠がカチャリと金属音を立てて床に落ちる。とはいえ先ほどから足がずっと固定されていたのだから動かすのに少しの違和感を感じる。
ふと、周りの様子を見ればカイト以外は何がしかの準備を行っているようで進んでいく時間に自分だけが取り残されたような気がして、少し焦る。
「…あ、あの。このあとは」
「おう、じゃあこっち」
といつも以上におずおずとした声が出たことに自分で驚いていると、にゅっと手を引かれ部屋の戸の方へ連れて行かれる。
えぇ? と疑問符を頭に浮かべながらもとてとてと音を立てながらも、ぎこちなくもそれに従う。
そして廊下に出て足の指先にひんやりとした大理石の感触。それが一瞬にして下から上へと全身に伝わる。
あ……、私裸足のまんまじゃないですか。とはいえ今更かなぁ、というか優先順位をどれを一番にすればいいのかがわからなくて、冷たさを足に感じたまま足を動かすも、それを彼に伝えていいものか悩んでいるうちに景色が少しずつ変わっていく。
そして、いつのまにやら目的地に着いたようでカイトが足をざっと止める。それを切欠に少し息をついた瞬間にまたぐいっと手を引かれ、扉を開けてその部屋に連れ込まれる。
ーーなんだか思考をめぐらせる暇がないのですが。
「はい、これに着換えて」と部屋の右端にあるベッドの上にあるドレスらしきものを示されるが、その前に落ち着かせて欲しい、切実に。
展開が速すぎてついていけない。こちらに来てからの流れには自分が中心付近に組み込まれていたのでその速さには納得するとともについていけたが、これはいただけない。……何が何だか。
「じゃあ、俺部屋の外出てるから準備できたら呼べな」
「………。」
……着換えるか。というかこれ着るの難しそうなんですけど。
とは思いつつもこれを着ないとダメなんだろうとはわかるので一応ベッドの上でそのひらひらしたものを広げてみる。モノトーンでノースリーブのロングテールのドレス。
こんな床に裾が明らかに着いてしまうドレスは着たことないのだが。しかもフードがついている。変りダネ…?
可愛いけど。そりゃあこういうの好きだけど。下着は……、とコルセットの様なものが籠の中に入っている。カイトこれ置くのに恥ずかしさを感じなかったのだろうか。いや、考えるまい。
とりあえず今来ているものをショーツ以外取り除き籠の中にブラを見えないように服で来るんで入れる。誰も見ていないのだからサクサクと着てしまおう、
と頭から下着をバサッと被りキュッと腰を縛り軽くくびれをつくる。よかった、これ柔らかめのヤツで。更にこれは後ろで締めるタイプじゃなくて横で行うものなので一人でも着用が可能だ。カイトの母の気遣いだろうか、有難いなぁ。
昔コルセットって身体に悪くないんだろうか、と思って図書館で調べたら、あれって“華奢な肩や綺麗なくびれは少女のあかし”というヤツで肩や腰を骨から矯正するもので、
例を挙げれば足の指を折ってしまう纏足のようなものだという記述があって背筋がぞっとしたものだ。つまり自然な成長を阻むものだということで、
――ぎゃあぁぁあ…! それが当たり前だという風潮が怖い。いや、知らなかったからというのもあるだろうけどさぁ、でもものすごい力で締めるんだよね。アレ。
これは、そこまで強烈なものじゃないよね…? と思いたい。怖い……!!
それに今日一日の辛抱だ。大丈夫、大丈夫。
そして次に白いタイツを足に通し、そしてドレスに袖を通す。
しかし背中のジッパーに手が届かない…。なんというか、最後に試練が。
胸の前でドレスを押さえベッドの上に腰を落とす。どうしたものかなぁ、と思っているとコンコンとドアを叩く音とともに「終わったか…?」と声が掛けられる。
「……、微妙。」
と小さくつぶやくもそれは聞こえなかったようなのでもう少し大きい声で
「とりあえず入ってー!」というと、カチャリとドアを開ける。
「…うぉ、って終わってないじゃないか、俺外で…」
と私の今の状況を見て回れ右をしようとするカイトにすぐさま
「ストーップ、待て! お座り!!」
と命令口調で鋭く言い放つ。するとビクリと足をとめるもこちらを振り向かない。
「…後ろ、」
「は…?」
「後ろが手が届かないの! だからよろしく」
と投げやりにいう。手を借りるしかないではないか、カイト以外はほぼ初対面の男達なのだから、
その辺の女性でも私を視認出来ないのだし。
「……あぁ、なるほど。ちゃんと前押さえとけよ」
とこちらに向かってくるので背を彼に向ける。
「らじゃー」
肩に手が乗せられて、ノースリーブなので肌に手袋の感触と微かに体温が感じられる。
「……ん」
ゆっくりと布を噛まない様にジッパーが上げられる。
「終わったぞ」
「……ありがと」と礼を言って、
くるりと身体を回し、ギュウっと腰に腕を絡める。するとカイトの手が頬に触れられて
ゆるく撫でられる。ふふ、と微笑みがこぼれてそして、お互いに体温を分け合う。
「…これ、カイトのお母さんの?」
このドレス。新品みたいだけど。それに若い子向けな感じのデザインなんだけど
「あぁ、それで買ったものの着なかったやつだ」
あぁ……、可愛い!と思っても着ていく場所なかったり、あわせる服がなかったりね。
あと、衝動的に買ったときとか。もう最近は試着なしでは買わなくなったけど。お金は無限にはないもん。
「もったいない」
「そんなもんだろ、買うときはある程度多めに買うんだ」
カイトの肩に頭を預けて尋ねる。
「それが普通?」
「そりゃあ、なぁ。その時の流行もある程度追うためには少しくらいは余分に服がないと難しい、だそうだ」
まぁ、わからなくもない。それもお金がないと出来ないけど。
「それ、母親談…?」
「当たり」
と肩を竦めて、くるくると私の髪を弄ぶ。そして、するすると何度も手を髪に通す。
「………」
「………、」
そういえば、ここってカイトの部屋、だよね。
生活感感じられるし、女の子の部屋っぽくはないし、壁にいつもの制服が掛けてあるから
確定だなぁ。
なんというか一人暮らし用サイズ。ベッドと机が入ればいいやって感じ。
浴室もなさそうだし……。窓に目を向けると雪が降っている。この程度だと積もらないだろうけど。
……寒いわけだなぁ。
「こら、何みてんだ」
と目を手で覆われる。あ、ヤバイ手が…!
うぁ、ヤラれる。久しぶりだと破壊力があるなぁ……。
「……っ、いや。ここカイトの部屋かなぁと」
「そうそう、王宮で与えられた部屋。一応実家にも俺の部屋あるけど。
滅多に帰らないからここの方が本拠地か…?」
「へー、そういやこの後どうするの?」
「そのうちヒューイが俺の部屋来ると思うから化粧して、髪整えてもらって
俺もここで最後の仕上げ。それで執務室で集合」
「なるほど」
「…あ、そういえばコルセットってここでは必須なの?」
「あぁ、でもお前に渡したの子供用の弱めのやつだから、楽だろ」
子供用だったんですか、コレ。
「あちらではきっちりしたものつけそうにないだろうと思ってな。
服装も凝っているものも多かったけど基本動きやすさ重視だったし」
そりゃあこちらに比べれば動きやすいですよね。カイトの衣装も絶対運動には向きませんよ。
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ、どう致しまして」
コンコンとドアが叩かれて
「カイト先輩、ヒューイですけど入ってもいいですかぁ?」
と甘めの声が聞こえる。仕上げにきてくれたのか。もう少しゆっくりしたかったけど。
「あぁ、入れ」
「……、あぁ、ちゃんと用意できてますね。
というか寛ぎ過ぎですよ。お二人さん」
……。そうかな?
とカイトと顔を見合わせお互いに首を傾げると、小さくヒューイさんにため息を吐かれる。
「じゃあ、カイト先輩はあとは一人で出来ますよね。
僕は芽衣さんの仕上げをしてしまうのでちょっとそこから退いてくださいねー。」
わぁ、ふわふわしている雰囲気からは想像できないくらいきっぱり言う子だなぁ。
「じゃあ失礼します。顔かしてくださいね」
それ”焼きいれますよ”とかの先輩からのお呼び出しの時の常套句みたいです。
少し熱いですけど我慢してくださいね、と熱タオルが顔に当てられ軽く拭われて、
化粧水と乳液らしきものを肌に馴染ませる。それが終わると軽く粉をはたかれて、
ぐいっとあごを上げられて目を閉じるようにいわれる。すると目の辺りに筆で色を乗せてもらう。
……手際よすぎ。
「少し目を開けてもらえます…?
はい、大丈夫ですね。少し空けたまま僕の頭でも見ててください」
「……うん」
そのまま目を開けて頭に視線を向ける。目にラインが入れられまつげを整えられる。
しかし男の人にメイクされるのって照れるシチュエーションだなぁ。
「よし、上出来。」
と真正面で間近でじっくり確認される。この子恐い。ナチュラルにこれができるって恐い。
「口半開きにしてください」
あぁ、口紅ね、と口を軽く空けて目を閉じる。
一応私も持ってるんだけどね。ポーチに入ってるし。まぁ、今回は全部ヒューイさんにお任せしましょう。変だったらどうしようかな。自分でやり直すのも失礼だよね、こちらの流行もわからないし。
……鏡見たいなぁ。どうなってるんだろ。
「……終わりました。可愛いですよ、芽衣さん」
と可愛らしく微笑まれて下心とかお世辞を感じられない直球の言葉を送られる。
「……。」
――あ、この人天然たらしだな。間違いない。
ギリギリクリスマスに投稿できました。…よかった。
それっぽい番外編よりも本編かな。と
Merry xmas & Happy New year!




