Sweet dream
少し未来の番外編。
こんばんわ藤宮芽衣です。突然ですが、人生って何が起こるかわからないものですよね。
まぁトリップ経験したのでもう何が起きても驚くまいと思っていたのですが、まだまだでした。
家から帰ると玄関に死体が転がっていたのです。
確認するべきですよね、人として。それとも警察呼ぶべきでしょうか。
うーん、しかしこの物体見覚えがあるような…?
「あのー。大丈夫ですか? というか何でウチの玄関先に倒れてらっしゃるんでしょう?」
そうそう、ウチの家マンションですから、一軒家じゃないですからね。
声をかけてみるが反応なし。とりあえず脈と息を確認。
脈は正常、息は少し荒い…かな。
とりあえず顔を拝見。そろそろと手を近づける。そしてごろんと頭をこちらに向ける。
……あぁ、やっぱりか。
「カイト…;」
とりあえず起こそう。たとえ調子が悪かったとしても私では成人男性は担げない。
数秒くらいは意地でこらえて起きてくれ。
ぺちぺちと頬を叩いて名前を呼ぶ。目が開いた。しかしぼーっとしていて焦点が合っていない。
「カイト、カイト」
「うぃー?」
「いや、うぃー? じゃなくてですね。芽衣ですよ。というか何行き倒れてんですか人の家で」
「めいー?」
あぁ、ダメだ。まともな回答は期待できそうにないや。
「はい、めいですよー。ではカイトさん おっきしてくださいねー」
「うむ」
立った…。よしよし。
「ではこっちです。ただいまー」
とカイトの肩を支え誘導する。ドアを開けて荷物を放り投げる。行儀が悪いが人を担いでいて
もう教科書の束は持っている余裕などないのだ。
っと誰もいない…。おお、ラッキー…とはいえお母さんが買い物から帰ってくる前に私の部屋に入れてしまわないと。
カイトをベッドに運び布団をかける。
「ねぇ、怪我はしてない?」
「ないー」
ということは…。ひたりと手をおでこに当てる。…熱いな、風邪決定。
台所に行って冷蔵庫からポカリと冷えピタを持ってきて、まずは水分補給させてから、柔らかいグレーの前髪をよけて冷えピタをおでこに貼る。
「今日何か食べたー?」
「朝ご飯は食べた…」
少し意識が覚醒してきたかな…。そうかじゃあ昼ごはん抜きの上もう夜ご飯の時間か。
おかゆ作ったことないんだけどな、私。ネットで卵粥検索するか。
「わかった、ちょい寝てろ」
…卵粥。風邪の時の定番だと思っていたんだけど。
予想以上にグロイ。写真のせいかもしれないけど…。他のにしよう。
うん、トマトリゾットにしよう。
にんにくを細かく砕いて、玉ねぎはみじん切り、鶏肉を一口大よりは少し小さく切る。
この後は…。
フライパンを暖めて…ニンニクを炒って玉ねぎと鶏肉それとエリンギ
白ワインで香り付けてブイヨンとローリエを加えるっと。
うん、いい感じ。
煮立つまで放っておいて…。その次はどうすんだろとメモを見て。
煮立ったらトマトピューレを入れて塩コショウ。ご飯を入れてどろっとなるまで水を加えたり、味を見たりしながら煮詰めていく。うんまぁまぁ。
あ、チーズも入れとこ。即席トマトリゾット、かな。甘くトマトの香りが漂う。
いい匂い~。ついでに私の分も作りました、私の晩御飯です。
木ベラのスプーンとお皿に載せて雑誌をトレイにしてお茶もついでに。
とりあえずこれ持っていってカイトの様子を見に行こう。
廊下をペタペタと歩いて自分の部屋へと再度足を踏み入れる。そして後ろ手ならぬ後ろ足でドアを閉める。
勉強机にとりあえずご飯を置いて、と
ベッドの方へ向かって顔を覗く。よく寝てる…。
んー、先に食べよう。
うん、美味しい。たまにはこういうのもいいかな。自分のためだったら絶対作らないわ。
せいぜい納豆ご飯だよね。楽だし。ヘルシーだし。
部屋は暗くして私はブックスタンドを使って本を読みつつ。カイト様子を見ておく。
とりあえず20ページほど読んだものの…なんか入り込めない。
んー。なんかこの本気分じゃないな…と持っている本をケータイで光をともして物色していく。
パラパラと数ページずつ捲りながら今の気分にピッタリの本を探していく。あぁ、これこれ久しぶりにコレにしよう。未完の作品だけどこれ好きなんだよね。でもこの作家さん今の作品イマイチでなんか食指が働かない。今回の連載は無事完結したし、次回作にほどほどに期待かな。
あぁ、やっぱこれ好きだな。だけどここから本腰ってとこで終わってるんだよね。続きは商業誌だから売り上げが見込めないと無理だし。自費出版してやるくらいの作者の気概とかがないとダメだよね。それよりも新作書く方に力入れるタイプみたいだし…。そこそこ売れてる作家さんなんだし、編集さんに相談してみてくんないかな。けっこうこの作者の昔からのファンはコレの続き待望してると思うのにな。もう、この際出版社に手紙送ってみようかな。せめてここの謎が分かれば続きは妄想で補完できそうだから、そこまでは書いてほしいんだよね……。
「ん…。」
起きたのか?
「起きたー?」
「おう、おはよう」
少しすっきりしたみたいだな。よかった良く眠れたみたいで。
こちらなら長い時間休んでもあちらではせいぜい一時間程度だし、支障も少ない。
「はい、おはよう」
「久しぶり」
「はい、久しぶり」
一週間ぶり位かな。
「…………。」
?と カイトが不思議そうに首をかしげる。まぁ無理もないな。説明してあげましょう。
病人に鞭打つわけにもいかないし。
玄関の前に熱を出して死人さながらにぶっ倒れていたので私の部屋のベッドに運んだこと、それと最低限の処置をしたこと。それと、とりあえずご飯を作ったけど寝てたので横で様子見していたことを説明した。
「あぁ、そうなのか」
それだけか。まぁ受け答えができるくらいには回復したってとこか。
「ご飯食べれる?」
「あぁ、おなか減ったー」
ちょっと待っててレンジですぐ温めてくるから。
「はい、あーん」
とリゾットを木ベラのスプーンで掬って彼の口にそっと向ける。
定番だよね、これ看病ネタだと。
「………。いや、一人で食べれる」
と首を振られる。羞恥心は感じる程度に意識あり…か。残念。
じーっと食べてる様子を見つめる。ぜぇぜえと声が掠れて、少し痛々しい。熱の所為でほんのり頬が染まっている。それになんか気がいつもより抜けていて幼く見えて可愛い…。
「食べづらいんだが…」
なんだかいつもならスルーしそうなのにな、この程度の視線は。
だって美味しいかどうか気になるじゃないですか。それに状態も確認しないとだしね。
汗かいてるみたいだし着替えと濡れタオル用意した方がいいのかな。
この前買った大きめのTシャツあげよう。カイトの目に映えると思ったんだ。
「んー。口にあったかが気になって」
「うん、美味しい。久しぶりにまともな飯食った」
「………。」
久しぶり、か。忙しくてまた自分のことおざなりにしやがったな。
ユリウスがいればそこまでの状態になる前に注意しそうなものなのに、あの人も今回多忙だったのか。まぁ同じ職場だし、忙しくなる時期は一緒か。
「もう少し自分のことに気を使え、周りが心配する」
もちろん、私も。
「悪い」
と思ってもまたしそうだよな、多少は気をつけるだろうが。これに関してはいつでも私はカイトと会えるわけじゃないから、ときどき注意を促すくらいしか出来ないよなー。
カイト母にお願いしたとしても…、心配はしても自己責任。いい大人なんだから親が介入するべきではないという考え方の人だからな。無理だな。
「ご馳走様」
「はい、お粗末さまでした。よかった食欲はあるみたいだね」
これなら、回復はすぐかな。
「デザートいる?」
「んー? 何」
「りんごを擦ったやつ」
4分の1くらいでいいかね
「欲しい」
うん、これすぐ回復するわ。間違いなく。
でも、とりあえず…
「服脱いで」
「は!?」
あぁ、言葉が足りなかった。
「濡れ布巾で汗拭うから脱いで」
「あぁ、そういうこと」
と長いため息をつく。ごめん。
カイトがプチプチとボタンを外していく。そして片腕ずつ袖を引き抜いた
「はい、シャツは預かるから。洗濯しとく、今度来たとき持って帰って。後ろは私がやるから」
ベッドの上に乗って、カイトの後ろにまわる。ギシリとベッドが音を立てる。
大きい背中にゆっくりとタオルを滑らせて丁寧に汗を拭っていく。首も結構汗かいてるな。
「前は自分でして、それで拭いたらコレに着換えて」
とタオルを渡して、シャツを横においておく。じゃあ、私はりんご擦りにいこう。
「了解」
「うん、ちゃんと汗拭うんだよ。身体冷えちゃうから」
「わかった、わかった」
と手をひらひらさせて私を追いやる。私はというと台所にもう一度向かった。
ごりごりとりんごを擦って、小さいお椀に入れる。
私の分はウサギ型にした。デザートは必須。
「おまたー」
「こっちも着換え終わった」
うん、サイズも丁度いいみたいだし。よく似合ってるぞ。
「おう、偉いぞー」
とよしよしと撫でてやる。へへー良い子、いいこ…。
「子ども扱いすんなよ…」
となんだか居心地悪そうだ。でもな、
「食事をおろそかにするヤツは子どもでいい」
お金がない訳ではないんだからさ。
「う……。」
まぁ、年下にこんな扱いされるのは気まずいことだろうがたまにはいいだろ。
「はい、擦りリンゴ」
「お前も食べるのか。」
「まぁ固形だけどね」
「ただいまー」
あ、彼方帰って来た。
「「…………。」」
す、と御免と手で謝って、スくっと立ち上がる。
ドアを開けて、すぐ閉めて廊下に出て
「おかえりー。ねぇコレ買ったんだけど…」
と弟に漫画を手渡す。コレで30分は声をかけてこないだろう。
「おー、さんきゅ。机置いといて」
「んー。わかった」
「今日のご飯何ー?」
何だろう…。私は自分で作ったからな。
「知らない。冷蔵庫覗けば何かあるんじゃない。あ、お母さんが回転焼き買ってきてたよ」
「お菓子は主食じゃねぇぞ」
「わかってるよ。でも熱量じゃん」
「じゃあ私部屋戻るから。それとお母さん帰ってきてもTOEICの過去問やってるから集中力切れるから入ってくるなって言っといて」
念のため、念のため。
「えー。自分で言えよ」
この弟、ほんと最近姉を敬わないな。
「わかったドアに張り紙つけとく」
「おー、がんばれ」
はぁ……。とため息をついて部屋のドアを開ける。
「よ、おまたせー」
「弟帰ってきたのかー?」
「うん、まぁ入らないように釘は刺しといたから大丈夫でしょ」
とリンゴに手を伸ばしてシャクシャクと音を立てて食べる。ちと酸っぱい。
「そうか」
「お、完食? じゃあもう寝ときなさい」
回復にはまず睡眠だ。
「お前どこで寝るんだ?」
「床で毛布にくるまって寝るわ」
「んー、一緒に寝ないか? と言いたいところだけど風邪うつるしな」
一緒に寝るのは色々問題があると思うんだけど。まぁ何にも起こらないと思うけどね。
「一日くらいなら平気よ。毎日だと寝不足になりそうだけどね」
「でも、悪いな」
「過剰な遠慮は余計だ」
「……。わかった世話になるわ」
「いえいえ、あんたのほうが今は弱ってるんだから遠慮しないの!
ほら、おやすみなさい、カイト」
「あぁ、お休み芽衣」
そしてリンゴを食べ終わって後片付けをして部屋に戻ると
カイトは寝付いていた。
「おやすみカイト いい夢を」
とおまじないにおでこにキスをした。




