1話:史上最悪の出会い
つまらない、ある男は教室でただ一人、何度もつぶやいていた。
教室には誰もおらず、時計は5時を指している。すでに外は夕日の光に染まり、明かりが灯り始めていた。
男の名前は藤原勇斗。友達はおらず、成績は中間より少し下程度、不良でもなければ真面目でもない、中途半端な人間だ。
ユウトは外の夕焼けを少し眺め、座っていた椅子から立ち上がる。机の上に置かれ、枕代わりとして使われていたバッグを背負い、誰もいない教室を出た。
夕日に照らされアスファルトは光り輝く、アルファルトで舗装された坂をくだりながらもユウトは「つまらない」と呟き続けていた。
少ししてユウトは商店街の前に来る。いつものように夕食を買いに来たのだが、日はとっくに沈みきり、案の定、店のシャッターはすべて閉まっていた。
「これならもうちょっと早く帰るべきだったな」
自分の行動を少し後悔しながら商店街にユウトは背を向け帰ろうとした、その時だった。
「ヴゥ゙……ア……アガ……」
人の声とともに鈍い音が商店街に響き渡った。
骨が潰される音、聞いたことのないような肉がすり潰され、食いちぎられ、貪れるような音。
ユウトは恐る恐る振り向く、そこには猿のように変化した"ナニカ"かがいた。毛深い体、腕が以上に太く、常によだれが滴り落ちている。
顔は見えない、赤く光る目がこちらをみている。その異様な姿はユウトのなかに眠っていた恐怖の感情をむき出しにした。
ユウトはその場に尻もちをつき、息が荒くなる。
「悪……霊?」
耳元に心臓があるのかというほど心臓が大きな音を出している。
奴はゆっくり、一歩また一歩と前に出る。
ユウトは動けず、その場に座り込むことしかできない、奴の手がユウトの顔に触れようとした瞬間だった。
何者かがユウトの横から現れ、悪霊へドロップキックをかましたのだ。
赤いパーカーに短パンの少女、後ろ姿で顔は見えないがきっと自信に満ちた顔をしてるのだろう。
偶然か、必然か、はたまた奇跡か、この出会いこそ、世界を変えるターニングポイントとなるのだった。
「やーっと見つけたわよ!!悪霊め!あんたを成仏させて!ゼルネから金をむしり取るのよ!!」
悪霊はもはや言葉を発さず、獣のような唸り声をあげている。
地面を何度も叩きつけ、体からは赤い蒸気のようなものが滲み出ている。
次の瞬間、悪霊が咆哮を上げる。ガラス張りの天井にヒビが入りこみ、破片が落ちてくる。それでも少女は怖気づく素振りすら見せずに歩き出した。
「防御魔法第二段階……」
少女がつぶやくように言う。すると、少女に近づいたガラスが横に落ちていく。まるで避けているかのように横に落ちていくのだ。
少女が右手で指鉄砲の形を作り、前に突き出す。
ついに悪霊は走り出し、少女に拳を振るった。
「炎魔法第一段階!ファイアーボール!!」
一瞬のことであった。少女の指先に謎の文字列が現れたと思うと、そこから炎の玉が放たれ、悪霊の体が燃えたではないか。
悶え苦しむ悪霊の頭を少女が踏みつけると、悪霊は炎と共に黒い霧となって消滅した。
「へい!マーリン!!悪霊討伐したわよ一応情報送っといたから解析よろしく、あとゼルネに金振り込むように言っといて」
少女が振り向いた、上機嫌にガラケーを耳に当てながらマーリンという者と話をしている。
「あの……貴方は?」
ユウトの存在にグレイは初めて気付く……。
一瞬で顔は真っ青に染め上がった。手は震え、口をあんぐりと空けて静止している。
数秒がたち、ガラケーに一言。
「ごめん……マーリン見つかった」
そう言ってグレイは電話切る。
そう、これこそ、2人にとっても、世界にとっても、史上最悪の出会いである。




