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報告

 初めての部活を終えて、俺は愛奈さんの家に向かう。初めての部活は想像以上に馴染めた気がする。先輩がたがやりやすい空気を作ってくれたからというのもあるが、綾香さんとの交流のおかげで、人とうまく話せるスキルが俺にも身に着いていたようだ。

 まあオメガバースはちょっと引いたけど。だって、男性が妊娠するって何⁉ マジで理解できない。詳しく話を聞いたところ、オメガバースには男と女だけでなくオメガとアルファとベータという性別があるらしい。それを知ったからなんだって話だけど。あとで綾香さんにも聞いてみよう。

 そんなことを考えながら愛奈さんの家に到着する。インターフォンを押すと、綾香さんが顔を出した。


「おかえりなさい」

「ただいま。であってる?」

「毎日のことだから、ただいまでいいんじゃないかしら」


 ずいぶんと俺も綾香さんに歓迎されるようになったものだ。最初の頃は目の敵にされていたような気がするが。家の中に入り、愛奈さんに挨拶をする。愛奈さんは俺を見ると、薄く微笑み、首を縦に振った。


「いい顔をしているわ。男の子の顔になった」

「どういう顔だよ」

「格好いいってことよ」


 よくわからない。愛奈さんに背中を押してもらった手前、報告はきちんとする必要がある。


「部活に入ったんだ。漫画研究部」

「部活~。懐かしいわね。そうよ。高校生は部活に入るべきなのよ。バイトなんていつでもできるんだから」

「私はママを手伝いたいのよ。それに、唯斗と違ってやりたいこともないし」


 綾香さんは頬を朱に染めながら視線を泳がせる。


「ん? 今名前で呼んだ?」


 俺がそう突っ込むと、綾香さんは顔を赤くして喚き散らす。


「友達なんだから名前で呼ぶぐらいするでしょ!」


 そう言えば今まで名前で呼ばれたことあったかな。少なくとも記憶には残っていない。綾香さん、ずっと俺の事あなたとしか呼んでいなかった気がする。


「あなたは私のことを名前で呼ぶのに、私がダメってことはないわよね」

「別にダメじゃないけど。いきなり呼ぶからびっくりしただけで」

「これからは普通に名前で呼ぶわ。いつまでもあなた呼びはなんか違うし」


 まあ名前で呼ばれるぐらい、愛奈さんにもされていることだから特に反論はないけど。でも、正直意外だった。意地っ張りな綾香さんが自分から俺の名前を口にするなんて。

 まあ顔は真っ赤だからかなり勇気を振り絞ったのが伝わってくる。


「ありがとう、綾香さん」

「ふん、勘違いしないでよね。あくまで友達としてなんだから」


 そういえば綾香さんは友達作りに苦戦しているんだったな。頑張ってはいるみたいだけど、一度根付いた偏見を覆すのはかなり難しい。綾香さんはなまじ有名人だから、余計にそのハードルは高い。


「それで、部活はどうだったのよ」

「ああ、みんな優しい人ばかりで馴染めそうだよ」

「良かったじゃない」

「ただ、男子が俺だけっていうのは肩身が狭い気がするけどね」

「ん? 待って。男子ってあなただけなの?」

「そうだけど」

「それは大丈夫なの⁉ オタサーの姫ならぬ、オタサーの王子じゃない」

「なんだよ、オタサーの王子って」


 なんだかわからないけど、綾香さんが突然狼狽し始めた。


「だって男じゃないってことは部員は全員女子なのよね⁉」

「そうだけど」

「それってなんだかいかがわしいわ」

「ただ普通に漫画描いているだけなんだが⁉」


 確かに先輩方が描いている漫画の内容はいかがわしかったけど。


「まさか女子だけしかいないって知ってて入ったんじゃないでしょうね」

「そんなわけないだろ」

「わからないわ。あなた、ママや私ともナチュラルに距離を縮めてきたし、結構女好きなんじゃないかと私は疑ってるわ」


 とんだ汚名だ。俺が女好きなわけないだろ。どちらかといえば苦手にしているぐらいなのに。


「誤解だよ。俺は決してやましい気持ちで入部したわけじゃない」

「じゃあ確認しにいってもいいかしら」

「確認?」

「明日、私が漫画研究部に体験入部に行くわ」

「はい⁉」


 なんだかきな臭い展開になってきた。


「あらあら~、綾香ったら。可愛いわね」

「どこが可愛いんだよ」

「わからない? 唯斗くんを他の女の子に取られるのが嫌なのよ」

「違うから!」


 綾香さんは顔を真っ赤にして否定する。

 いや、そんなに赤面したら事実と言っているようなものだと思うが。


「私は唯斗が犯罪を犯さないようにチェックしにいくだけだから。嫌でしょ、友達が犯罪者になるなんて」


 その言い訳は苦しいが、とりあえずスルーする。


「安心してよ。俺にとって友達は愛奈さんと綾香さんだけだから」

「そういうことじゃないのよ」


 綾香さんは不満そうに頬を膨らませる。


「まあいいわ。明日見に行けばわかることだし」

「本当に来るの?」

「行くわ」


 綾香さんも頑固だから、言いだしたら聞かないだろう。大丈夫かな、綾香さん。先輩たちの描いたエロ漫画を見て、卒倒しないだろうか。俺はそこが心配だった。いくらBL好きとはいえ、男性器を描いた作品だけに心配だ。そんな俺の心肺はつゆ知らず、綾香さんは明日に向けて意気込んでいたのだった。

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