80日目・流れの感覚
「じゃあ、アーサーを止めても意味なかったって…こと?」
「そう言うことには、なるな…」
「梶原さんっ!」
先ほどまで横たわっていた梶原も話を聞いていたようで話しかけて来た。
このゲートは異世界と繋がっているが、それを閉じるためには多くの人魔力を注がなければいけない。
その事実が今発覚したことで犠牲を一ミリも出さずに終わらせるなんて不可能なのだということもわかったのだ。
「っわかった…なら私がゲートに入るよ」
「正気ですか?」
そんな冷たい空気が吹いてばかりの空間でマリアは口を開いた。
ゲートに入る、それはすなわち自分が贄となり犠牲になると言うことだった。
「マリアお姉ちゃんの今の魔力量じゃきっと足りない…それに第一そんなことダメに決まっふにゅぅ」
「いいんだよ」
反論をしようとするエリスを黙らせるようにマリアは人差し指でエリスの唇を押し、穏やかに笑った。
「はぁ……なら俺もだな」
「はぁっなんでアーサーまで一緒に?」
「良いだろ?お前に全部を決められる権利はない」
そう言われると正直マリアも何も言えなくなってしまう。それならばとエリスも希望したが、あっけなく反対された。
「今まで地獄にいたんだ、大地獄に落ちたって変わりはしないだろ?」
「っ…アーサー…」
マリアもなんと声をかければ良いのかわからないままだったが、初めて本当に心を開いた気がしていた。
「でもっやだよ、マリアお姉ちゃんに折角また会えたのに…また、置いてくの…?」
マリアの服の裾をギュッと握りしめながら涙目で言うエリスをマリアは何度も見たことがあった。
エリスの手から不安が体にしみじみと伝わってくる。
「…ごめんね」
たった一言、そう言いながらマリアは感覚が少しでも長く残るようにと一生懸命にエリスの頭を撫でた。
「エリちゃん今どのくはい魔力余ってる?」
「え、えーと6割くらいかな?」
「わかった、じゃあアーサーと私にギリギリまで注いで」
魔力は人の体内から生まれるエネルギー、具現化して見えるものではないがそれは体から体へと伝えて流すことはできるのだ。
人にある魔力を保管できるタンクのるようなものは限界がある、だがそのタンクが大きい魔法使いマリアの限界ギリギリまで注げば何十人分かにはなるはずだと考えた。
「でも、やっぱりマリアお姉ちゃんがいなくなるのは………」
「エリスっ!」
「っ!はい」
あだ名以外では初めて名前を呼ばれた。
体に稲妻が走るような、痺れる感覚がジンジンと残るような気がした。
「贄って言ってもこのゲートは異世界に繋がってる、だからきっとまたいつかは会える」
「で、でも…」
「しっかりしなさい貴方は私の一番弟子、
エリス・ノアなんだから!」
「っ………はい」
覚悟を決めたようにしてエリスは顔をぺちぺちと叩き、ふぅと息を軽く吐いた。
「お姉ちゃん、アーサー、背を向けてください」
「あぁ」
そう言って2人は背中をエリスへと向けて座った。
するとエリスは2人の背中にピトッと指を触れさせて目を瞑った。
(体の流れを意識して、昔お姉ちゃんに教わったように…)
自分の腹の奥底にある熱いエネルギーを手から伝わせて体に流す。集中しなければいけないがとても簡単なことだ。
「出来ました………!」
「うんっオッケーありがとうエリちゃん」
「…うん」
最高はしたものの、魔力は吸い取られるばかり。
八重森や京香たちを救うためには、1秒でも命取りとなってしまうこの状況下で、いち早くゲートへと向かい閉じなければいけないということは分かっていた。
「……お姉ちゃん」
そう呟いてマリアの背中からエリスは抱きついた。
後ろからはエリスの鼻を啜る音が聞こえてきていた。
「大丈夫、ずっと一緒だから…
もし寂しくなったら、今度はエリちゃんが私を見つけてね」
そう言ってマリアはアーサーと立ち、ゲートを見つめた。
「アーサー、終わらせるよ」
「分かってるっつうの」
マリアは杖を振り、自分たちの体を空へと浮かせた。
時間が経っているせいか先ほどよりも空が黒く染まっていた。まるで世界の終わりを告げるかのようなそれはなぜか安心感があった。
あと数話で完結します




