後悔
「はあ......結局こうなるのか......」
チェーロは自室のベッドに寝転がり一人呟く。自分の交渉でどうにもならなかったことを悔やみながら彼女は寝転がっているのだ。
交渉次第ではすぐに出ることができたかもしれないということが気になってしまう。
出るなと言われたのを一年後だと言わせただけでも彼女の成果だというのに。
「せめて半年とかにできればよかったんだが......まあ、あれ以上返せばこじれたかもしれないしこれで良かったのかな。一年間あまり関わらなければ問題はないだろうし」
関わらなければ問題はない。彼女はそう思っているが自分がこれまで関わってきた者たちがどれほど彼女に執着しているのか一切気がついていないからそのようなことを思っているのである。
彼女がそこにいる限り自ら向かってくる者ばかりなため、関わらないなど無理なことだ。
「さて、問題はこの紋章だよなあ......聖女の証というものを覆うようにして現れた黒いバラのようなもの。これが現れたから早急に離れないとって思ったんだよね」
知らない間に現れた紋章。それは彼女も不思議でたまらなかった。
だからこそ、早急にみんなと離れたいと願った。また面倒事に巻き込んでしまうかもしれないリスクを下げたいと願った。
「私だけが面倒事に巻き込まれるのはいい。だって慣れているから。けれど、自分のせいで何かが起きてしまうのではないかと怖い。組長なんて大層なものを経ても俺は弱いままだよ......」
チェーロはこの世界で生まれ変わってから弱音を吐いたことがあまりなかった。だが、弱音を吐かずにはいられなかった。その身に背負った業はもとより多かった。突然なれと言われた組長。そのことでの戦い。その時だって何度も弱音を吐いた。しかし、それは周りにその弱さを受け止めてくれる者たちがいたから。
今は一人だから強くあろうとした。かつての仲間の記憶を持っている人がいると知っても強くあろうとした。弱さを見せるのは自分の組の幹部たちだけが良かった。
仲間であり友人で、大切な誇りたちだけが良かった。
だから彼女はこれまで外で弱さを見せようとしなかったのである。
「類......ごめん、ごめんな。俺が弱くて......俺が強かったら今もそばにいて、巻き込んでしまうことがあっても君なら笑ってくれたのかな......真も、最後までいてくれたなあ。彼なら裏にいなくても生きていけたのに。遊さんだってそうだ。表で空手の選手として生きていけた。翔だって、あんなに小さかったのにいつのまにか頼もしくなって......強い人と戦いたいからってついてきたけど、稜さんを巻き込むのだって本当は気が乗らなかった。弥一だってもう縛るものは何もなかったはずなのに......零も、弥一がいなかったらついてくることはなかった。二人共すぐに開放すればよかったのに......」
チェーロは後悔を並べる。誰にも聞かれないようにちいさな声で泣く。
空の頃の記憶はいつになっても消えることはない。仲間との日々を忘れることはない。
一人で抱え込む。弱さを外に出さないように時々一人で泣く。一人で謝まる。
大切だからこそ巻き込みたくなかったという後悔は残り続けている。
それは彼女にとってはなくてはならないもの。
「今回こそ後悔しないように生きたいんだ。みんなに似ている人たちを巻き込みたくない。それがただのわがままだと思われようとどうだっていい。それが今の自分がしたいこと。だからやっぱり離れるよ。関わりも減らす」
先程まで流していた涙を拭き彼女は決意を新たにする。
巻き込みたくないというのは彼女の心の底からの願い。
それを叶えるために彼女は一年間を耐えようと思うのだった。




