交渉
チェーロは逃げることを決めた。それは彼女にとっての大事な決断であり、変えることのないもの。
誰にも知られることのないように......しかし、王にだけは伝えておく必要があるのではと冷静になって考えた時に思い立った。
(本当は誰にも告げずに出てしまいたかったけれど、一応聖女という身ならば黙って出るわけにはいかないだろう。でも、なんか嫌な予感するんだよなあ。杞憂で終わればいいけど)
嫌な予感。その予感は当たってしまうことになった。
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「ならん。この国から出ることは許さぬ」
数分後、チェーロが王にこの国から出たいと告げた時の反応はそういったものだった。
はっきりと出ることは許さないと言ったのだ。
「なぜですか?私は確かに聖女という特殊な立場なのかもしれません。それが国を出てはいけない理由であるならば納得はできません」
チェーロは訴える。自分のお願いを聞き入れてくれない王に向かって。ただ、拗ねているわけではない。
なぜなのかを説明してほしいだけだ。そんな彼女に王は再度言う。
「自分で分かっているではないか。チェーロが聖女だからこの国から出ることは許さぬのだ」
「ではこちらももう一度言わせていただきましょう......明確な理由をお願いいたします」
彼女は言い返す。自分の意思を曲げるつもりはない。曲げてほしいのであれば理由を言えと思っている。
だから彼女は何度でも聞き返す。自分の納得できる理由を聞けるまで。
「君がこの国から出てしまえば結界はどうなる?それに騎士団の回復薬もお願いしただろう」
王は理由を言った。彼女の求める明確な理由を。
(ああなるほど。たしかに王は私に一ヶ月に一度の結界張りを要求していた。魔獣が入ってこないようにっするため、か。だから私をこの国にとどめておきたいのだろう。まあ、納得できる理由かな)
チェーロは頷き奥を見た。
「理由に対しては納得いたしました。ですが、私は自分の意見を曲げる気はございません。だって、ここを出たとしても結界を張ることはできるでしょう。なんの問題もないはずですよ」
彼女は知っている。結界を広範囲に張ることができる術を。それを知っているからこそ国を出てもいいと判断した。だから問題はないと返す。
「そうかもしれんが......」
王は言い淀む。彼女の強い意志を改めて感じて反論できなくなっているのだ。
しかし、と王は言う。
「無理に急いで出る必要はないのではないか?君はまだ幼い。護衛だって先日つけたばかりだ」
チェーロが幼いから出てはいけない。その言葉に彼女が納得することはない。
「王様、たしかに私は幼い。心配してくださるのは嬉しいです。しかし、私は私の護衛にも勝っております。力は申し分ないかと思います」
彼女はまた反論する。実際ストームにも勝っているのだ。修業をつけてもらっているソルにも勝った。
(幼いという点においては反論できないが力に関しては自信がついた。だから引き下がるわけにはいかない)
固い意志が覆ることはない。
王は分かりやすくため息をつき
「変える気がないというのならせめて一年後にするといい。急だと君の両親も心配するであろう」
と言った。
これ以上言っても無駄だと判断したのである。
「承知いたしました。本日は時間を取ってくださりありがとうございました」
笑ってチェーロはお礼を言う。
彼女はそれ以上反論することはなかった。せっかく出してもらった妥協案を断ればもうきっと駄目になると思ったから。
(一年なんてすぐだしそれぐらいなら私もまだ大丈夫。両親にはすでに確認を取っているから別に心配されることはない。けれど、王が出してくれた妥協案を断わるのもよくないだろうからね。本当は今すぐが良かったけど仕方ない)
内心でそんなことを考えながらも彼女はこれから一年どうしていくかも考え始めるのだった。




