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第54話 ルドルフのお嫁さん

 私達女子がトイレに行っている間に、新発田先生・修二くん・ルドルフは何か買い物をしていたらしい。

「るーくん、何それ?」

 みほちゃんが尋ねると、ルドルフは嬉しそうに白いビニール袋を開いた。

「これ、みんなでつけようよ」

 そう言ってルドルフが取り出してきたのは、長さが10センチ位のカッパのマスコットだった。紐がついている。

「リュックにみんなでつけようよ。おそろいだよ!」

 みんな喜んで、わいわいとリュックに取り付け始めた。


「修二くん、ちょっと」

 私は修二くんを脇に呼び出した。

「あのマスコットさ、修二くんのアイデア?」

「いや、ルドルフがさ、買いたいって」

「そうなの?」

「うん、一つかと思ったら、4つだよ4つ」

「だよね、しかしルドルフ、あの中に本命、いるのかしら」

「う~ん、わからん。まったくわからん」

「だれを選んでも、たいへんなことになりそうね」

「うん、ぼくはあんなふうに女の子に囲まれたこと無いから、よくわかんないけど」

「なにそれ修二くん、女の子に囲まれたいの?」

「い、いや、僕は杏がいれば、それでいいんだよ」

「うん、わかった」


 まあ修二くんも男だから、女の子に囲まれたら悪い気はしないだろう。ただし、その場合私の機嫌はどうなるかわかったものではない。下手したらこっちの世界でも何らかの魔法を発動させてしまうかもしれない。


「ママ、どうしたの?」

 私の中にわきおこる黒い感情を霧散させたのは、ルドルフの無邪気な笑顔だった。

「ん、なんでもない」

「そう、ならよかった」

 ルドルフは女の子たちの方に戻っていった。

「修二くん」

「何?」

「もしかしてさ、ドラゴンって、一夫多妻なのかな?」

「う~ん、あっちでもドラゴンの生態、知られてないからな」

「そうよね、でもあの感じ見てると、そんな気がしてくるね」

「でしょ」

「ま、僕は人間でよかったよ」

「どういうこと?」

「僕は杏がいればそれで幸せだからさ」

「うん、修二くん、大好き」

「あの、僕もいるんですけど」

「あ、先生、すみません」

 新発田先生もいることを私達はすっかり忘れていた。


 一旦荷物を置きにバンガローまで移動する。河童橋の前は大変な人で、通過するのがちょっと大変だった。ルドルフ、まほちゃん・みほちゃん・あかねちゃんの3人で新発田先生のダッフルバッグを交代で持ってくれた。私と修二くんが持つと言ったのだが、子どもたちが持ちたがった。いい子達だ。その御礼代わりに、修二くんがスマホで子どもたちの写真を撮りまくり、東海村の新発田家・榊原家に送っていた。

 

 バンガローに荷物を置いて大正池を往復した。

「僕は近所をぶらぶらしているよ」

 脳梗塞の後遺症で足が悪い新発田先生はそう言って私たちを送り出してくれたのだが、大正池から帰ってくると子どもたちの荷物をきれいに整頓していてくれた。

「良いパパなんだね」

と修二くんが言う。私もそう思うし、修二くんも同じようにいいパパだと思う。ただ自分が良いママかというと全く持って自信がない。家事も子育ても研究も、新発田先生ご夫妻・榊原先生ご夫妻・宮崎先生にお世話になりっぱなしだ。いつもいつもバタバタ走り回っている気がする。

「杏」

「何」

「どうせ自分はいいママじゃないとか考えているんだろうけど、僕やルドルフは杏といると楽しいよ」

「でもさ、いろんな人に迷惑かけてるからね」

「うんそうだけどさ、それは後輩研究者たちに返せばいいんだと思うよ」

「それは理屈ではわかるんだけどね」

「気持ちの問題だと言いたいんだろ、だけど現実問題、どうにもできないんだからくよくよしてもしょうがないよ」

「うん、わかった」


「聖女様」

「はい、先生」

「風呂行こ、風呂。子どもたち頼むよ」

 するとまほちゃんが横から口を出してきた。

「お風呂って、温泉?」

「ううん、キャンプ場のお風呂は普通のお風呂だよ」

「そうなんだ、残念」

 そういえば20分くらい歩けば温泉がある。

「先生、明日温泉行いきますかね」

「ああいいね、そうしよう。帰る前に汗を流すとさっぱりするだろう」

 キャンプ場のお風呂は小規模な銭湯みたいで、あかねちゃんの髪を洗ってあげたりして楽しかった。みほちゃん、まほちゃんはお互いに洗いっこしていて楽しそうだった。お風呂から出ると、山登りしてきた宮崎先生がちょうど到着したところだった。先生にはお風呂に言ってもらい、その間夕食前だけど、お風呂の向かいにある食堂でみんなでアイスを食べた。


 夕食はキャンプ飯の定番、カレーにした。

「神崎くん、これ、うまいな」

 宮崎先生がほめてくれたので、説明する。

「そうですか、トマト缶、入れてみたんです」

「うん、登山のあとはこの酸味がいいよ」

「よかったです」

「レシピあるの?」

「いえ、思いつきで」

「ああ、修行の成果だね」

 先生の仰る修行とは、ノルトラントの森の魔女様のところでの修行のことだ。宮崎先生にはそのあたりの事情は話してある。その成果として私は聖女効果を克服し、創作料理もできるようになったのだ。


 その夜は私も含めみんな早く寝てしまった。そのせいか私は夜中に目が覚めてしまった。そのあと全く眠れない。しかたなくお湯を沸かしてそれを飲んでいた。満月らしく外はうっすらと景色が見える。

「杏、寝れないの」

 修二くんだった。

「うん、なんかね。お湯だけど飲む?」

「ああ、もらおう」


 修二くんとテーブルを挟んで座る。修二くんを見ているだけで幸せな気持ちになる。それをそのまんま口にすると、

「僕も全く同じだよ、いや多分、僕のほうが幸せだよ」

と嬉しいことを言ってくれる。照れくさくて話題を変えた。

「あのさ、修二くん、ルドルフの本命って、だれなんだろうね」

「それだけどさ、杏は一夫多妻かもって言ってたじゃん」

「うん、だけどだよ、あっちの世界ならともかく、こっちだと完全にまずいよね」

「あのさ、あっちでもそんなの認められるの王族くらいだよ」

「ん、修二くん、まさか側室娶るとか言わないよね」

「いやいや、それはありえない」

「子供できなかったらどうすんの」

「それなんだけどさ、あっちでもルドルフ、養子にしようよ。僕たちに子供ができようができまいがさ」

「あ、それいい。すると一応、ルドルフも王族になっちゃうのよね」

「そういうことだね」

「だけどさ、ルドルフには王室の血は入ってないよね」

「そうだね。あ、やばいこと思いついちゃった」

「え、何?」

「ステラとルドルフが結婚すれば、その子は完全に王室の血をつぐことになるよね」

「そっか、その手があるか」


 ステラはむこうの世界で修二くんの兄ミハエル王子とヴェローニカ様との間に生まれたお姫様だ。王女であるから将来は政略結婚する可能性が高い。私としてはなんとなくヴァルトラントのエルハルト王子あたりが第一候補かと勝手に思っていた。


「ま、本人の意思が大事だけどね」

 修二くんは王子でなく、父親としての気持ちを口にしてくれた。

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