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第51話 王子様と聖女様

 お風呂から帰って、さっそく夕食作りにとりかかる。とは言っても荷物をあまりたくさんは持ち込めないしゴミも出したくないのであまりむずかしいものを作る気はない。


 お湯を沸かしながらにんにくと玉ねぎを刻む。厚切りのベーコンを角切りにする。

「ルドルフ、レタスちぎって。修二くんはパスタお願い。規定時間マイナス2分でね」

「「はいは~い」」


 キャンプメシと言えばカレーが定番だが、それは小さい子が増える明日にとっておく。


 私はオリーブオイルを鍋に入れ、にんにくも入れる。いいにおいがする。玉ねぎとベーコンもぶち込む。エリンギもちぎって入れる。だいたい火が通ってきたところでカットトマトの水煮を投入する。

「パスタできたよ」

 修二くんからそのパスタを受け取り、トマト煮の鍋に入れる。パスタの茹で時間を短くしたのは、トマトの鍋のなかでさらに火が通ってしまうからだ。ごく短時間一緒に加熱して、すぐにお皿に移す。


「いただきま~す!」

 

 ルドルフは器用にフォークにパスタを巻き付け食べている。

「ママ、トマト、散ってるよ」

「あ、これ、落ちないんだよね」

「ははははは」

 こんなこともあろうかと、私は古いトレーナー着ているから実は大丈夫だ。修二くんの服は無事だが、ルドルフはいくつも赤いシミを作ってしまっている。

「ルドルフ、やっぱあんたは私の子だわ」

「う~ん、ママの子であることはうれしいんだけど、この理由は嬉しくないな」

「ははははは」


「杏、考えてみればこの3人での夕食って、あんまないね」

「そだね、平日のルドルフはほとんど新発田先生のとこだし、土日は土日で榊原先生のところ行ってることが多いもんね」

「ぼくはそれで幸せだけど、パパママと3人だけの食事もいいもんだね」

「そのうち4人になるかもよ」

「え、杏、できたの?」

「いやいや、修二くん、さすがにまだだって」

「あ~びっくりした」


 食後のデザートは、バスターミナルで買ったお菓子を食べる。りんごの入ったパウンドケーキだ。

「ママ、パウンドケーキって、なんでパウンドケーキって言うの?」

「え、知らない。のぞみに聞いとく」

「あ、それ僕知ってるよ。材料のね、小麦粉・バター・卵・砂糖を1ポンドずつまぜるからだって」

「へ~、修二くんよく知ってるね」

「ああ、母さんがたまに作ってくれたんだよ」

「じゃあ私、お義母さんに作り方教わろ」

「いいね」


 そんなふうにお話したり片付けしたりしていると、バンガローのそとでズシっと音がした。ドキッとした。

「修二くん」

「うん。かぎかかってるから大丈夫だと思う」

 私は先程使った包丁を目で探した。修二くんはバンガロー備え付けの箒を手に取っている。するとルドルフが笑い出した。

「パパ、ママ、そんな武器じゃクマには勝てないよ。そもそもさ、クマは聖女様と王子様に挨拶に来ただけだよ」

「え、ホント?」

「うん、会ってあげてよ」


 深呼吸する。はっきり言って腰が抜けていると言うか膝に力が入らない。

「ママ、大丈夫だよ。いざというときは僕がいるし、ママは魔物と戦ったことあるんでしょ。そもそもクマに敵意ないから」

「う、うん、わかった」

「窓越しで大丈夫だよ」

「う、うん」


 ルドルフに言われて窓から外を覗くと、バンガローのデッキ部分に1頭の黒いクマが座っていた。

「こんにちは、あ、こんばんわか」

 クマは頭を下げた。

「あなたたちの領域でうるさくしてごめんね。私達にあなた達を攻撃する気はないのよ。なるべく距離をとるので、少し山ですごさせてね」

 クマは再び頭を下げ、去っていった。私はこの世界では初めて窓際に跪き、向こうではよくやっていたように神様に山の平和、山の生き物たちの幸せ、そして人間の安全を祈った。


「久しぶりに聖女様としてのアンを見させてもらったよ」

「へへ、あだ名だけじゃないのよ」

「ああ、わかってるよ」


 私達大人はコーヒー、ルドルフはジュースを窓際で飲む。


「そう言えばルドルフ、自衛隊のお弁当、よく知ってたね」

「え、何それ」

「あったかくなるやつ」

「あ、戦闘糧食ね。でも僕、なんであれがあったかくなるか知らないよ」

「修二くん、知ってる?」

「あれはね、生石灰と水が反応して……」

「生石灰?」

「あ、酸化カルシウムね」

「消石灰というのもあったっけ?」

「それは水酸化カルシウム」

「私やっぱ、化学は弱いね」

「ははは、ま、僕も受験勉強でむりやり覚えた口だけどね」

「それはともかく、その生石灰があればあっちでもあったかい食料を兵士に食べさせられるわね」

「そうだけど、防水が問題だよ。あっちにはポリ袋とか無いし」

「そっか、それでもなんか工夫のしようはあるでしょ」

「う~ん、油紙かな~?」

「あとそれと、その石灰関係の産業はどうなってたっけ?」

「う~ん、それは僕より杏のほうがくわしいんじゃないの? 戦争のとき経済関係調べてたろ」

「そうだけど、ごめん、忘れた」

「じゃ、緒方さんか木下さんに聞くか?」

「そうだね、今度聞いとく」


 そんな話をしていたらルドルフが言った。

「今夜のパパとママは、王子様と聖女様だね」

「そうかもね」

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