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第49話 バンガローの窓から

 お昼近くなってきたので、キャンプ場へと向かう。バンガローにもチェックインできる時間になったのだ。河童橋のちかくはものすごい人だ。おみやげ屋さんも食べ物やさんも人でいっぱいだ。

「ママ、まずは荷物をバンガローに置こうよ。それからお昼だね!」

 食べ物に釣られた私の視線を読んだのかルドルフが言う。老いてはいないが子の言うことには従おう。


 小川にかかる橋を通り、ビジターセンターの前を通過するとキャンプ場に入る。


 まだ午前中だがキャンプ場にはいくつもテントが立っている。テントの上に寝袋をかけて干している人、ガスバーナーでお湯を沸かしている人、マットをひろげて読書をしている人、それぞれの時間を過ごしている。標高1500mの上高地小梨平は、暑からず寒からず快適な温度だ。ゴールデンウィークに入ろうとするこの頃、東海村ならこの天気だと暑いだろう。それはそれで春から夏へと移り変わる喜びに満ちた空気であるけれど、この土地では初夏の日差しとまだ冷たい空気が混ざっている。

「午後はのんびりしようよ」

 修二くんの言葉に私は笑顔で同意する。


 チェックインしてバンガローに案内してもらう。案内の人は黒いゴム長を履いている。いかにも山で働く人らしい。


 キャンプ場の受付の北側はバンガローが立ち並んでいる。南側のテントサイトはところどころにキャンパーがいたが、こちら側は無人である。私達の足音が響く。


 バンガローに入ると少し湿った木の匂いがする。清潔で明るい室内は、これから2泊の快適な暮らしを約束してくれる。

「どうする、ちょっと休憩する?」

 私は修二くんとルドルフに聞いてみたのだが、二人が返事をする前に私のお腹が鳴った。

「お昼食べようよ」

と修二くんが言ってくれた。キャンプ場の食堂に行くことにする。食堂は来た道をもどり、キャンプ場受付の向かいの建物にある。


 食堂の建物は高床みたいになっていて、半地下になっている部分には乾燥室がある。そのほか倉庫としても利用されているようだ。十段くらいの階段をあがると食堂だ。売店も併設されている。

「ぼく、これがいい!」

 ルドルフは山賊焼き定食を選んだ。

「じゃ、私もそうする。どうする、修二くん」

「僕もそうするよ。じゃ、山賊焼き定食大盛り3つだな」

「え、私大盛りじゃなくていいよ」

「いや、違うよ杏。ルドルフのためだよ」

「あ、そうか」

「あはははは」

 ルドルフはさすがにちょっと恥ずかしそうだ。


 まだ時間が早いのかお客は他にいなかった。そのためか料理はすぐできた。


 山賊焼きとは長野のご当地グルメである。大きな鶏肉の竜田揚げみたいなものである。ルドルフはある意味北海道で山賊みたいな生活をしていたからネーミング的にはぴったりである。

「ママ、僕は人を襲ったりしないよ」

「ごめんごめん、わかってるって」

 ルドルフは私の思考を読んでしまう。

「生活がね、山賊みたいだってことよ」

 一応言い訳しておく。日高の山の中で、鹿をとったりクマと戦ったりして食料を得ていたらしいが、細かいことを聞く気になれない。まあ私もあっちの世界では騎士団に育てられたからサバイバル術は身につけてはいるだけに、想像するとあまりにリアルな光景が見えてしまうからだ。


 いずれにせよ山賊焼きはあっという間に私達の胃袋に収まった。大盛りのご飯はもちろんルドルフにわけてあげた。修二くんもである。おなかいっぱいになったためか、急に眠くなってきた。

「ごめん、眠くなってきた。二人はどっか行ってきたら。私、ちょっとお昼寝する」

「う~ん、ルドルフ、どうする?」

「ママと一緒がいい!」

「だよな、僕も行くよ」


 バンガローにもどる。私達の借りたバンガローは8人入れる大きなもので、二階建てである。二階に上がり布団を出し横になったらすぐ眠ってしまった。


 ちょっと寒い気がして目が覚めた。修二くんは布団に丸まって寝ている。ルドルフはと言うと、布団を蹴っ飛ばして寝ている。私が寒くなったのはルドルフのせいだろう。こいつはもとはと言えばドラゴンだから、布団など暑いのかもしれない。私は目がさっぱりと覚めたし、ルドルフに布団をかけ直してもまた蹴っ飛ばすに違いないからそのままに放置して、階下に降りることにする。


 コンロにヤカンをかけ、お湯を沸かす。それでもすぐにコーヒーを飲みたいので、ポットに入ったお湯でインスタントコーヒーを淹れる。少しぬるめのコーヒーを持参したシェラカップですする。シエラカップとは、ステンレス製のアウトドア用のコップで、平たい形状でお皿としても使える。バンガローには食器が完備しているのだが、このほうが山の中にいるのが満喫できる。

 窓の外を眺めながら2杯めを味わっていると、修二くんが降りてきた。

「ホテルもよかったけど、バンガローもいいもんだね」

「そうだね修二くん、修二くんもコーヒー飲む?」

「うん、もらおうか」

 ちょうどヤカンのお湯が沸いた。


 ふたりでしばらく窓の外を見ていると、近くの笹薮からウグイスが姿を現した。全身を膨らませて囀っているのを、二人でのんびりと眺めていた。

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