↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

入学準備

魔法。それは、人が人ならざる力を使う術である。



「バエス魔道学園……ここが今日からボクが入学する学園か」

屋敷のような広大な敷地、城のような仰々しい建物に感心しつつも、レン・モーリスは周囲を観察するように歩いていた。

初めて足を踏み入れる土地を入念に観察するのは彼の癖のようなもので、特に意識はしていなかったのだが、敷地を取り巻いている結界以外は、あまりにセキュリティが凡庸、むしろザルすぎて拍子抜けしていた。


「あくまで自分の身は自分で守るという事が前提にあるのかもしれない」


帝国では最高峰の魔道学園という事で、要塞のようなイメージを持っていたのだが、どうやらそんなことはなかったようだ。

結界さえ抜けてしまえば破壊工作自体も容易にできそうな施設構成であった。

ただ、今回彼に与えられた任務はそういった施設の破壊や要人の暗殺を目的としたものではない。もっと平和的なものである。


バエス魔道学園に入学し、無事卒業を修める。それが今回レンに与えられた任務であった。

「まずは学園長室に向かわないと」

とは言っても、事前に内部の地図を渡されていた訳でもないので、手探りで探す必要がありそうだった。


ざっと周囲を見渡すと、恐らく大勢で座学を受けるのであろう広い部屋組の建物と、個人レベルで使われるであろう部屋が揃っていそうな建物があった。

そうなると、学長室は恐らく後者の建物にあるだろう。そう思い、建物の壁を駆け上がった。

「学園長という事は学園で一番偉い人間だ。なら最上階の……この辺りかな」

ひとまず簡単にアタリを付けて、窓の外から内部を覗き込んでみる。すると、自分と同じ年ぐらいだろうか、女子生徒が着替えをしているのが目に入った。


「……は?」


制服に着替えようとしていた女子生徒があんぐりと口を開け、目を見開いている。

ピンク色の長い髪にルビーのような赤い瞳、女性にしては平均的な身長だが、胸はかなり発育の良い方だろう。

学園長室を部屋ごとにしらみつぶしで探すのは時間がかかるので、この女子生徒に場所を聞いてみるのが手っ取り早いだろうと考え、窓を開けて部屋に侵入する。


「ねぇ君、学園長室を探しているんだけど、どこか知らない――」

「変質者ーー! ”フレイムバースト”!」


女子生徒は立てかけてあった杖らしきものを手に取り、魔法を放つ。

フレイムバースト、高火力の炎を対象に対して放ち、燃やし尽くす強力な魔法だ。

レンは魔法の発射前に軌道を予測し、回避しつつも女子生徒の懐に潜り込み、頭を掴み首筋にナイフを突き立てる。


「いきなり魔法なんて危ないな。この学園は原則、人に対して魔法を使ってはいけないんじゃなかったのかな?」

首筋にナイフを当てているのに、なお魔法を使おうとしたので、グッとナイフを持つ手に力を込めると、薄皮が切れ、軽く血が流れる。

流石にレンが本気なのが伝わったのか、女子生徒は握っていた杖を落とし、降伏の意を込めて両手を挙げた。


「……何が目的なの?」


それでも心は屈しないといった様子で、女子生徒は強気に尋ねる。

「学園長室を探しているんだけど、どこか知らない?」

「あたしを脅しても言わないわよ。アンタみたいなやつには、絶対に」


「そもそもこうしているのは君が魔法を撃ってきたからなんだけど……」

出会って有無を言わさず魔法を放たれれば、誰だって逃げるなり相手を抑え込んだりするだろう。

「学園長室に行って何をするつもり? 学園長を殺すの?」


「殺す? とんでもない。学園について色々と教えてもらわないといけないからね」

入学の手続きやら、学園の案内など、教えてもらわなければならないことは沢山ある。

「欲しいのはこの学園の情報ってわけね。なら、尚更学園長室を教えるわけにはいかないわ」


余計に警戒心を強めたのか、レンをキッと睨みつける女子生徒。

「どうしたのですか!? 魔法の発動形跡がありましたが――」

すると、貫禄を感じさせつつもパッと見は2~30歳程度に見える、若々しい姿の女性が慌てて部屋に入ってきた。


「やぁ学園長、学園長室が分からなくて困ってたんだ」

アナベラ・クライン。このバエス魔道学園の学園長である彼女は、レン達の今の姿を見てため息をついた。

「ママ、早く逃げて! この男、何か企んでいる!」


ママという事はどうやらこの女子生徒は学園長の娘らしい。確かによく見ると学園長の面影を感じる容姿をしている。

「……レン、ひとまずその子を離してあげなさい」

「学園長がそう言うなら離すけど。凶暴だよ、この子」


掴んだ頭と首筋に当てたナイフを離すと、女子生徒は杖を手に取り、いつでも魔法を放てる準備を整える。

「セシル、貴方もよ。一体何があったのか説明してください」

「説明も何も、いきなりコイツが窓からあたしの部屋に入ってきたのよ!」


「それで、見知らぬ相手にいきなり魔法を使ったのですか?」

「それは……でも、突然部屋に入って来たんだから、仕方ないじゃない!」

「学園内で許可なく人に魔法を使うことは禁じられています。例え不審者であったとしても、こんな魔法を使っていい理由にはなりません」


フレイムバーストで焼け落ちた部屋の壁を見て、学園長はセシルと呼ばれたその生徒にそう叱りつけた。

「そもそも不審な者が私の結界を抜けて侵入すればその旨の告知を出しますし、この魔法が直撃していれば相手は死んでいましたよ」

「……ごめんなさい」


セシルはしゅんとした様子で頭を下げる。

「本当にびっくりしたよ。娘の教育はしっかりとして欲しいな」

あの程度の魔法で殺されるレンではないが、平和的な任務と聞いていたため、驚いたのは本当である。


「レン、貴方もですよ。人の部屋にいきなり侵入するなんて、パニックになって魔法を使われても文句は言えません」

「学園長室を探していただけなんだけど、学園生のプライベートルームだったんだね。失礼したよ」

「そもそも、窓から侵入という点が常識外れです。普通に入口から入ってきてください。そうすればこんな事は起きなかったはずです」


「でも、中の構造が分からない以上、迂闊に正面から侵入するのは失策じゃないかな? 強襲されたらひとたまりもない」

レンがそう言うと、学園長は頭を抱えながらこう言った。

「ここはそのような危険な場所ではありません。全く……入口も変なところから入ってきたみたいですし、敷地の入り方から案内すべきでしたね」


確かに周囲に見つからないように目立たない外壁から感知結界と防御結界、どちらも偽装を噛ませて侵入したのだが、気づかれていたことにレンは驚く。

「やはり元七賢人(セブンス)。侮れないね」

「そういう事はいいですから。セシル、貴方はまず制服に着替えてください」


そう言われて、彼女はまだ着替えの途中であったことに気づく。制服のボタンは閉まっておらず、スカートもずり落ちてピンク色の下着が露わになっている。

「出ていけ―ーーーー!!!!!」

叫びながら突っ張りをしてくるセシルの手首をレンは掴んで止め、学園長を見ると一旦外に出ようとのことだったので、大人しくそれに従った。


「学園生というのはみんなこんなに荒っぽいものなのか?」

部屋の外に出て、レンは学園長に問いかける。

「貴方との出会い方に問題があったのだと思いますよ。あの子も普段はちょっと尖っただけの普通の子ですから」


人との上手な関わりはレンにとっても勉強すべき事柄であった為、あまり理解出来てはいなかったが反省すべき点なのだろう。

「それで、ボクは今日何をすればいいんだ?」

「まずは学園の案内と根本的なルールを教えましょう。貴方にとっては、とても重要なことですので」


「頼むよ。ボクにはどうも常識というものが欠けているみたいだから」

すると、着替えを終えたのかセシルが仏頂面で部屋から出てくる。

「セシル、貴方にも手伝ってもらいます。彼の入学のための準備に」


「はぁ? なんでこんな奴の手伝いなんてしなきゃいけないのよ。それに、転入ですって?」

「はい。明日から貴方と同じクラスメイトになる方ですよ」

「冗談じゃないわ! こんなやつとクラスメイトだなんて!」


セシルはレンをビシッと指さし不快の念を示す。

「もう決まったことです。それよりも、まずは部屋の方を直しましょうか」

レンたちはもう部屋を出てしまっているが、彼女の部屋はフレイムバーストを使った影響で窓側の壁が全て焼け落ちている。


学園長は部屋に入り、仰々しい鞄から水晶を取り出す。

彼女が水晶に魔力を込めると、部屋の焼け落ちていた部分がまたたく間に修復されていった。

「この屋敷は学園長が全て結界魔法で作ったのかい?」


「まさか。ベースはプロの方にお願いしておりますよ。素人が一から作ってしまうと欠陥屋敷になりかねませんから」

魔法とはいえ、作るのが物理的な物体であれば、当然物理法則が適応される。屋敷ほど広大なものを作るとなると、ちょっとしたズレが全体の崩壊を招くことだろう。

「では、行きましょうか」


「ちょっと待ってよ。私は認めたわけじゃないんだからね!」

セシルの部屋を治すと、学園長はレンとぶつくさと文句を垂れているセシルを連れて建物の外へ出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。