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15.犯罪者の末路

 オッサンは盗人猛々しいという言葉の意味を実感したのだ。




「てめえのせいで…!」

「クソ来訪者が!」

「おとなしく寝てりゃあいいものを!」


 ロープに繋がれた男達は私の姿を見るなり、口々に汚い言葉をぶつけ、身を乗り出してきた。


「黙れ馬鹿者どもが! ワシに恥をかかせるな! 貴様らはすでに犯罪奴隷なのだぞ!」


 それに反応したのは村長だ。商品として出荷したものが、万が一にも商売相手を害するようなことでもあれば面倒だと思ったのか、首に繋がったロープを力任せに引っ張ると奴隷たちを無理矢理ひざまずかせる。

 首が絞まったのだろう、男達はうめき声をあげるが、村長が気にした様子はない。


「申し訳ない、ナルドさん。身の程知らずの馬鹿ばかりで」

「いえいえ、お気になさらず。これくらい元気なほうが先方も喜んでくれるでしょう。なにせ鉱山ですからね」


 村長の謝罪にナルドさんがなんでもないことのように答え、その言葉に奴隷たちが青ざめる。


「い、いやだ!」

「鉱山だけは、勘弁してくれ!」

「それ以外ならなんでもするから頼む!」


 口々に慈悲を求めるが、行商人は何処吹く風と聞き流す。


「オズマさん、ソウシさん、積み込みを手伝っていただけますか」

「おう」

「はい」


 ナルドに請われ、オズマは先導するように奴隷たちの繋がれたロープを握り、私は彼らの最後尾に回る。

 いまだに青い顔で助けを求め続けている男達を無視し、オズマは先頭の男を馬車に備え付けられた檻の中に押し込んだ。


「な、なあ、あんた! あんたが言やあ俺たちを売るの止められるだろ!」

「頼む! このとおりだ! あん時のことは謝るから……」


 村長にすがっても無駄だと悟ったのか、今度は私に向かって自分勝手なことを言い始める奴隷たち。


「お断りします」


 当然、答えはNOだ。自分にだけ都合のいいことをした者達を許すなどという選択肢はない。だって怖いし。

 ごく端的に突っぱねてから、私はオズマとともに二人目、三人目と檻に押し込めた。


「お疲れ様です。それでは、出発しましょう」


 奴隷を積み終わり檻を分厚い布で覆うと、行商人は護衛である私たちにそう促す。その言葉に従い、シェリーは御者をつとめる行商人と共に御者台へ、私とオズマは荷台後方のスペースに乗り込む。護衛三人で前後左右を監視する形だ。


「またよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


 村長とナルドがにこやかに言葉を交わし、馬車はゆっくりと村の門にむかって進み始めた。




「なあ、ソウシ。この奴隷どもと何があったんだ?」

「ああ、それはですね……」


 村から少し離れた頃、オズマは檻を指し示しながら、そう問いかけてきた。私はそれに応え、村に世話になった初日にいきなり盗みに入られ返り討ちにしたことを話した。


「そいつは酷いな。情報を聞き出して計画的に犯行におよぶ、か……鉱山が妥当だな」

「鉱山ってどんな環境なんです?」


 納得したと頷くオズマに問いかける。なんとなく想像はつくが、私は鉱山の実情を知らないからだ。


「そうだな。俺も鉱山を見たのは随分昔のことだから、今も同じかどうかわからんが……」


 曰く、鎖に繋がれたまま刑期を終えるまで外に出ることはできず、暗く粉塵が舞う坑道で朝から晩まで働き通し。

 犯罪奴隷は刑期が十年単位のため、その末路はおおむね衰弱して死ぬか、胸を患って苦しみながら死ぬかの二択だそうだ。


 ごくごくまれに生きて出るものもいるが、その頃にはもう肉体的に衰えているためまともな職にも就けず、良くてスラムの住人。悪くて餓死だそうだ。ものすごく苛烈だ。


 でも魔物という明確な脅威がある世界で、人間同士が利己的に動くのを抑制できなければ、大きな戦争が起きるなどして下手をすれば文明崩壊なんてことになりかねないのではないか、とも思う。人間は戦争大好きだしね。


「ああ、実際そんな感じで滅んだ国も、大陸の東の方には結構あるらしいぞ」


 私がそういった懸念を漏らすと、あっさりオズマに肯定されてしまった。

 やっぱり、犯罪に対する罰が厳しいのには歴史的な事実の裏付けがあったようだ。私は絶対に罪は犯さないようにしよう、と心に誓った。怖い。本当に怖い。




 旅程は順調に消化され、その日は野営となった。奴隷たちも観念したのか静かなものだ。


「へえ……。ちゃんと野営用の場所が用意されてるんですね」

「ええ。一応、国の政策で作られた村への道ですからね」


 野営というとテントを張ったりして過ごすのだろうと思っていたが、それなりにしっかりした小屋と柵、厩や井戸といった一夜を過ごすには十分といえる設備が道の脇に用意されていた。


 国の政策云々というのは私が身を寄せていた村のことで、元々は森を開拓するとともに魔物の発生などを監視する役目を期待されていたそうだ。

 だが、近隣に大草原がありそちらの開拓が優先されたことや、森の中にはスマイルの領域がある事で危険な魔物が現れにくい事などから開拓は中止となり、現在は軽い監視という意味以外は持たない村になっているということだった。


「あとは何故か周辺に来訪者が現れやすいというのが、あの村を維持している大きな理由の一つでもあるそうです」


 とナルドは説明を締めくくった。

 なるほど、そのおかげで私は救われたということだ。たまたま村に向かう方向を選んだというのが最大の幸運ではあるが、そこに村がなければどうにもならないのは明白だ。

 村ができる以前にこの世界に飛ばされた来訪者がどうなったかはわからないが……。


「では私は休ませていただきます」

「ソウシ、シェリーに手を出すなよ」

「ちょっと父さん、なに言ってんのよ!」


 食事を済ませ、ナルドとオズマは小屋へと入る。オズマの言葉には「出しませんよ」と返しておいた。


「まったくもう……!」


 シェリーは憤慨しながら焚き火に小枝を放り込む。乾いた木皮が熱せられてパチパチと乾いた音を響かせた。

 周囲からは虫の音やフクロウらしき鳴き声が聞こえてくるが、実に静かな夜だった。日本の夜とはあまりに違う、暗く静かな闇ときらめく星空がそこにある。


「はい、お茶」

「ありがとう」


 シェリーが差し出すカップを受け取り一口ふくむと、紅茶に似た風味が口の中に広がった。落ち着く香りだ。

 さあ、夜番をきちんとこなそう。


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