14.初めての仕事とささやかな酒宴
オッサンは初めての仕事らしい仕事の依頼に慎重になるのだ。
「昨日は本当にありがとうございました」
ナルドと名乗った行商人は、改まった態度で頭を下げた。
あの時はシェリーが珍しく接近に気づかなかったらしく、かなり馬が危ないところだったらしい。
シェリーはそんな事は言っていなかった気がする……と、彼女に目を向けると即座に目をそらされた。
「ソウシさん。一つ提案といいますか、お願いがあるのですが」
「お願い、ですか?」
ナルドは頷き、最近は魔物が増えているらしく、比較的近場だからと油断していたら今回のような事態になった、できれば復路では万全を期すためにも人を増やしたい。そこで私にも護衛を引き受けてほしい、と切り出した。
「魔法がメインのようですし、ソウシさんの腕前なら、オズマさんとシェリーさんもご納得いただけるのではないかと」
いかがでしょう?と行商人は、私、オズマ、シェリーの顔を一人ひとり見回して提案してきた。
往路の護衛をしてきたオズマ&シェリーの探索者親子は、特に異論はないらしく笑顔で首を縦に振った。ううむ、これは断れない流れか。
正直なところ、いつまでも教会に世話になり続けるのも心苦しく感じていたので、この辺で村を出るという選択肢は考えないでもなかったのだが……。
「……そうですね。私はこの村から出たことがないので、日程などの詳しいことを教えていただけますか? 何もわからないままではお答えしかねますので」
私の返答に満足したように頷くと、ナルドは詳細の説明を始めた。
目的地はこの村から馬車でニ日ほどの場所にある町「イニージオ」荷物はこの村で仕入れた少量の商品。簡単な携帯食は行商人もち。報酬は一人百五十G。
「なるほど……駆け出しにとってはなかなかの好条件ですね」
「ええ、今回は用心のためにも、しっかりと働いていただかなければなりませんからね」
大事なところでケチったりはしませんよ、と彼は笑う。
「町のそばの魔物は、どんなものがいるんでしょうか?」
私が質問すると、基本的には森のそばであれば「スマイル」平原の方では「ストライクラビット」がおり、ストライクラビットはフォレストウルフより少し小さいウサギで、器用に蹴り技を使う、と説明してくれた。
首を一撃ではねてくるウサギじゃなくてよかった。
ここまでは特に問題のない依頼だと感じるが、何か見落としがあるだろうか?
「……あ、テントや毛布などは必要ですか?」
「それらは馬車に常備してありますので、用意していただかなくて結構ですよ」
これで、もう抜けはないだろう。
「わかりました。引き受けます」
出発は明日の朝ということなので、午後の狩りは取りやめて旅の準備をすべく、万屋へと向かう。オズマとシェリーも午前の戦利品売却もかねて、同行してアドバイスをしてくれるそうだ。ありがたい。
「ほー、今日は三人で狩りに行ってきたのか」
「ええ、色々と勉強させてもらいました」
店主に応えた私の言葉に、シェリーが苦笑いしながら「こっちはすごい驚かされたわよ」とつぶやいた。蒸気爆発のことだろう。あれは自分でも驚くレベルだったから、彼女がそう言うのも当然か。
「相変わらず、半日で十分な戦果を持ってくるなあ」
午前の戦果はスマイルの魔石七つとシート二枚、そしてフォレストウルフの魔石三つに毛皮三枚だ。普段、私が使っていたルートとは別に、シェリーが耳で見つけた魔物もいたので、十分な戦果といえるだろう。
「で、今日はなんか買っていくのか?」
「ええ、今日は……」
店主のいつもの台詞が飛び出したところで、明日からの仕事のことを話し、買おうと思っているものを挙げていった。その内訳は以下のとおりだ。
・槍
・フードつきの外套
・革鎧
・水袋
・包帯
・火口箱
・砥石
・タオル
・コップ
・紙とペン
槍はこれまで手作りの石槍しかなかったのを、探索者としての仕事をするにあたり、ちゃんとしたものを持っておいた方がいいだろうと判断した。外套と革鎧も同様の判断だ。
それ以外のものは旅の必需品として探索者なら誰でも携帯している、とオズマに教えられたものだ。
「今回は必要ないが、一人で動くときは調理道具も一式持っておいた方がいいな」
「どうせだから、うちで買っていけばいいじゃないか」
「金物の質が高いのはわかるが、一人で使うにはでかいし町で買ったほうが安いぞ」
槍はしっかりしたものだから問題ないがな、と言うオズマに店主は苦笑いだ。店主が嫌らしい笑顔以外を浮かべてるの、初めて見た。
ひとまず買い物は終わり、荷物をまとめるため私たちは教会へを向かった。今日まで寝泊りするために借りていた部屋も、しっかり片付けて掃除しておかなければならない。立つ鳥跡を濁さず、だ。
それにしてもこれまで貯めていた金銭が一気に減ってしまった。今回の仕事が終ったら、町にあるという探索者ギルドに行ってみるべきだろう。
「そうですか、もう発たれますか。寂しくなりますな」
仕事でこの村を離れることになったと告げると、神父は残念そうに笑いながら別れを惜しんでくれた。それなりにいい印象を持ってもらえていたように感じてちょっと嬉しい。
正直、寄付くらいしかできる事はなかったし、来訪者に期待されるであろう知識に関しても何も伝えていない。せめて「水刃」の魔法くらいは詳細を紙に記して渡すべきだろうか。早速万屋で買ったものが役に立つな。
「最後ですし、酒場で夕食ご一緒しませんか? 色々お世話になりましたし、ご馳走しますよ」
「それはそれは、嬉しいお誘いです。せっかくですのでお言葉に甘えるとしましょう」
部屋の片づけを済ませてから誘うと、神父はにこやかに応じてくれた。
酒場ではオズマとシェリーも同席し、村に行商人の護衛で来るたびに世話になっているから、と酒を勧めまくった。
神父は清貧な暮らしをしている割にはかなり酒に強いらしく、食事会がお開きになるまでずっと上機嫌で呑みつづけていたし、口も滑らかになったのか、これまでの来訪者の様子なども饒舌に話していた。
中でも「調子に乗って失敗する者もいたから、気をつけて」と何度も忠告を受けたのが印象的だった。
なんにせよ、楽しんでもらえたようでよかった。
翌朝、教会で最後の朝食を頂いてから私、オズマ、シェリーの三人は村長宅へ向かい、行商人のナルドと合流した。
「お待たせしましたな。これが最後の商品です。お改めを」
少し遅れて現れた村長は、手に持ったロープを行商人に渡す。そのロープの先に繋がれているのは、私の部屋に盗みに入った男達だった。




