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ゆっくりとカーテンを開けると歩登がそこに立っていた……。
どうして病院に……
「あれ、満瑠。 今、処置中だったのか。 処置終わったのか」
「うん、今終わったとこ……って会いに来たの?あれほど病院には来ないで……って」
私があからさまに嫌な顔を歩登に向けたらその意味を理解したらしく歩登は弁解をする。
「ああ……いや、違うって。サチの見舞いに来たんだ」
「サチ?」
信じられない一言に私は言葉を失うんだ……
「伊崎 佐千は俺の可愛い甥っ子だ」
いきなり現れた歩登伯父さんを前に何がなんだか理解できなかった。『あれ、ミチル……』なんとかかんとかって言ってたけど……内容なんて頭に入って来なかった。困惑した永井さんといつもの調子の歩登伯父さん。
だけど親しげに話す彼女と伯父さんはどう見てもただの知り合いじゃない。それを彼女の伯父さんに対する言葉使いや態度でわかった。それだけなのに、それだけのことなのに何故か心が痛い。
確か……母ちゃんの話では歩登伯父さんはやっと結婚が決まりそうだと父とウキウキしながら話していた。
その相手が永井さん?
俺にはどうしても教えてくれなかったその名前をいとも簡単に『ミチル』と呼び捨てにした伯父さん。嫉妬で胸が焼け焦げそうだった。
「サチ、大丈夫そうなの」
「あッ……ああ、大丈夫だよ」
「ええーなになに?三角関係?!」
隣の女子高生の黄色い声でそういえばコイツらさっきまでイチャついてたんだ、と思い出した。永井さんも驚いて目を丸くしている。
「サチ、友達か」
「全然、知らない」
「そりゃ、冷たいんじゃないのぉ。せっかくとなりなのにぃ、ねぇ、カズちん?」
「ああ……まあな」
「君たち、この看護師さんはね、僕のフィアンセだから三角関係なんてありえないよ」
「えッ……うそッ!だってさっき、ねぇ~?」と言って男の顔を見る女子高生は「バカッそういうこと言うな」と言われてポコっと頭をこづかれていたけどそんなやりとり見せられたら俺たちがホントになんかしてたみてーじゃねーか!
「ミチル……?」
「え、えと、違うって!先生の処置が終わって包帯巻いてただけなんだから!」
「……だよな……ハハッ」
動揺したのかどもる永井さんだけど真剣に言う姿を見て伯父さんは安心したように軽くハハっと笑ったけどぎこちなかった。でも、永井さんが「馬鹿ね」と言って何気なく伯父さんの背中を優しく叩いたのが俺には気に食わなかった。
だから言ってやったんだ、わざと。
「『ミチル』さん、また明日来てくださいね」……って。にこやかに極上の笑顔を貼り付けて。目を丸くした二人は一瞬息を飲む。
「ミチル……やっぱりお前……」
「なに言ってんのよ!お腹に子供がいるのに浮気するバカは男だけよ!」
さっき、伯父さんの彼女っていうだけでもショックだったのに……子供……そりゃ、完全に俺の負け。ダブルパンチ、ボコボコ。
どんなに頑張っても彼女を奪える可能性はなさそうだ。
――――中学の時、一目惚れした大好きな女の子に告白
したけどキッパリと振られてやっと恋ができるかな、と思ったらコレかよ……
運命ってやつは残酷だね。
少しは脈アリかな、なんて思っていたのに。




