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第七話 新兵器

久しぶりの、久しぶりの更新です。「新たな未来を求めて」の更新に専念していたらこうなりました。5ヶ月以上空くなんて。

待っていた人がいるかはわかりませんが、この話は全部戦いの話です。新たな登場人物やら武器やら兵器やら、「新たな未来を求めて」に関係するようなものがたくさん出てきています。

次はいつになるのかは心配ですが、とりあえず、主人公は最強とは必ずしも言い切れないという話でもあります。

「ライド。『熱風緋槍』!」


僕の叫びと共に服の色が変わる。赤からピンクに。そして、それと同時にその手には渦巻く炎から形成された一本の槍があった。


それを掴み全力で振り払う。


次に現れた光景はまさに地獄というべきだろう。


槍を振り払うことによって僕の前を扇状に灼熱の熱風が駆け抜けて異形達を焼き尽くしたのだから。いや、焼き尽くしたというのは語弊がある。


焼き尽くしたというより水分を蒸発させたというべきか。もちろん、異形の体中には火傷が出来上がっている。


「よし、これで」


「それでこそ、貴様は魔王を語る資格があるというものだ!!」


「『地縛失星』!!」


金色の鬼がその拳を振るってくる。その拳に纏われているのは土塊。


僕はすかさず『地縛失星』でその拳を受け止めた。


「目障りな敵は多数いれど、ここまで心躍る存在は今まで出会ったことは無かった。礼を言うぞ、魔王!」


「僕は魔王じゃない!」


振るわれた土塊を受け流し、鬼の腹に手のひらを押しつける。そのまま衝撃を鬼の体内で爆発させた。


鬼の体が後ろに吹き飛んだ瞬間に僕は拳を握りしめる。


「ライド。『熱風緋槍』!」


すかさず手のひらに渦巻く炎の槍を作り出す。そして、それを鬼に向かって投げつけた。鬼はそれを真正面から受け止めてさらに弾き飛ばされる。


この威力じゃ足りない。あいつを倒すには、さらに強力な力が必要だ。


僕は頭の中で使える手札の中で火力の高いものを思い出す。だけど、その大半が周囲で戦っている軍にも被害を及ぼすものだ。だから、使えない。


「それが魔王の武器か! 面白い機能だな!」


鬼の持つ土塊を渦巻く炎の槍で受け止めた。そして、力任せに弾き飛ばす。


「炎ならば我も炎を行くとしよう!」


その言葉と共に土塊が炎の塊に変わる。いくら『熱風緋槍』が僕の持つ一人一軍(ワンマンアーミー)の中でもかなり強力なものだとしても、あの炎だけは防ぐことはできないと考えることは出来た。


本当ならあれを使いたいけど、ここには周囲に人がいる。せめて、半径30km以内に誰もいない場所さえ作り出すことが出来ればよかったけど。


すかさず『地縛失星』に着替えて真正面から鬼とぶつかり合った。鬼の拳ははっきり言うなら遅い。だけど、相手に攻撃しても全く通じていないのが問題。


せめて、相手に真にダメージを与える攻撃があればいいのだけど。


「魔王を倒し、我こそが救世主になるのだ!」


「救世主? ふざけるな!! そんなことはさせない。だから、力を貸せ! 僕の力! オーバーロード!!」


その瞬間、周囲の大地が鳴動を開始した。その鳴動は周囲の大地を砕きながら一つの形となる。それは、巨大なゴーレム。


『地縛失星』のオーバーロードは周囲の大地を操る力。それを使えばこのようなことだってできる。


「お前が救世主となろうとするなら、僕はお前が言う魔王として、お前を倒す。僕にだって、守りたいものがあるんだよ!!」


そのまま鬼に向かって僕は殴りかかった。ゴーレムは周囲の異形を蹴散らすために動き出す。


鬼の僕に向かって殴りかかってきた。向かって来た拳を肘で打ち払いながら甲で鬼の頬を勢いよく叩いく


鬼の体は見事に回転して打ち上がる。すかさず飛び上がって膝を叩き込んでさらに打ち上げた。


「ライド。『緋炎天翔』!」


炎の色の服装に着替えてその手に握る炎の車輪を握り締め、それを鬼に向かって投げつける。そして、投げつけながら背中の翼を展開した。


『緋炎天翔』は飛翔の能力と共に背中の翼から炎弾を打ち出すことが可能なもの。炎を操ることが飛び抜けていて炎に関することなら何でも出来る。


ただし、極端に近接戦闘に弱くなる。


巨大なライオンの姿をした異形が飛びかかってくる。僕は反応が出来ない。だからこその『地縛失星』のオーバーロード。


異形が大地の拳によって打ち払われた。


このゴーレムは最大30分間やられるまで勝手に動く。だからこそのこの形態。


「ライド。『漆黒一閃』」


鬼が地面に落ちてくる。その鬼に対して僕は小さく呟きながら拳を握り締めた。


服装が変わる。光り輝く服装に。冗談ではなく光を放っている服装。この手に握るのは漆黒に染まる一本の刀。


かなり恥ずかしい姿だけどその一撃のみだけで言うなら最強。ただし、一撃だけ。


鬼が落下してくる。それに向かって僕は刀を振り上げた。


「鬼一文字」


漆黒の刃が鬼の体を飲み込んだ。






「せいやっ!」


その言葉と共に異形が数十単位で吹き飛び、さらには数十の異形がそれに巻き込まれて地面を転がる。


その群れに向かって銃が一斉に放たれた。


麻耶が小さく息を吐いて肩から力を抜く。


「麻耶はすごいね」


討ち漏らして突っ込んでくる異形を華麗な槍捌きでシノンが倒す。


麻耶はともかくシノンは無傷じゃない。シノンの体中いたるところに切り傷があって息は荒い。


「のんちゃんは大丈夫? 怪我が心配なんだけど」


「大丈夫。のんちゃんはまだ大丈夫。これが、異形との戦い」


異形は倒してしばらくしたら消えて行く。だが、消えた以上に異形は向かいかかってくる。


異形は強くはない。強くはないが数だけはある。だからこそ、こちら側の被害は少なくなかった。戦線を支えているのは麻耶と大和の二人。


麻耶は人間離れをした力で近づいてきた異形を吹き飛ばして動きを止めている。対する大和は華麗な剣捌きで向かってくる全てを切り裂いていた。


「ちっ、子供のお守りの必要はなくなったが、異形がここまでうざいとはね。自衛隊はそれほど使いものにならないし」


自衛隊は完全に腰が引けている。アメリカの軍隊が何とか戦線を支えているという状況だ。


「大和、そうは言ってられないと思うけどね」


まがそう言いながら拳を握り締める。そして、小さく息を吐いて腰を落とした。その姿を見たシノンと大和の二人や一部の人が一歩後ろに下がる。


麻耶の手はまるで刀を抜刀する体勢で止まっている。ただ、その手には何かの揺らぎがあった。それに異形は気づかない。


「全力全開。それが普通だよね!」


その言葉と共に腕を振る。それはまるで刀を地面に叩きつけるように。


それと共に、


前方にいた異形全てがまるで叩き潰されたかのように轟音と共に潰されていた。


もちろん、その中には金色の鬼や京夜の姿もあった。京夜はとっさに『地縛失星』にしていなければ近くの異形と共に同じ潰れていただろう。


金色の鬼は地面に叩きつけられただけで目立った怪我はない。


麻耶は自分の手を見つめる。それは、自分が何をしたのかわからないとでも言うかのような行動だった。


「こいつはデカい掘り出し物だな、おい。まさか、異形に対する最終兵器が義理の兄妹かよ」


大和の声に麻耶は自分の拳を握り締める。


今まではずっと京夜の背中を見ることしか出来なかった。ずっと京夜が戦っている姿を、様子を、報告を、見て聞いているだけだった。


でも、今の力を使いこなせるようになったなら話は違う。


「戦える」


麻耶は小さく呟く。呟いて空を見上げた。空では宙を飛ぶ数少ない異形に対してフュリアスが攻撃を仕掛けていた。


「お兄ちゃん。私は必ず、お兄ちゃんの隣で戦うから。だから」


一足先に動き出した金色の鬼が麻耶に向かって地面を蹴った。だが、地面を蹴った鬼の足を京夜が掴み、そのまま反対側の地面に叩きつける。そして、そのまま蹴り上げながら空中で服装を変えつつ炎の槍で殴り飛ばした。


異形達はまだまだ生まれている。でも、こちらも兵はどんどん増えている。


いつ終わるかなんて麻耶は考えなかった。何故なら、京夜がいるから。京夜ならどんな数でも倒してくれると信じているから。だから、麻耶は向かってくる異形に向かって一歩足を踏み出した。






「ライド。『地縛失星』!」


鬼の拳を手のひらで受け止める。そして、上手く捻ってそのまま関節を力任せに逆に曲げた。


だが、折れる感触はしない。まるで、ゴムのようにしなっている。


僕は小さく舌打ちをして鬼を蹴り飛ばした。


「やはり、魔王の配下としては相応しい者達が集まっているようだな。我ら勇者及び勇者の仲間でもここまで苦戦するとは。シナがハイゼンベルクなるものを正面突破出来ない理由が理解出来た」


「シナ? お前達は仲間もいるの?」


「何を当たり前のことを」


鬼の蹴りが僕の体を50cmほど後ろに下がらせた。僕は足に力を込めて逆に蹴り返す。


鬼の体は3m程度下がるが、このまま殴り合っても完全な不毛な戦いになるだろうね。


僕は拳を握り締める。本当ならあまり使いたくない服装をいくつも使っている。切り札は残してはいるけど、やはり、危険だとは思う。


せめて、『失落楽園』さえ使える環境になってくれれば良かったけど。


「そろそろ終わりにしようか。我が力の前に魔王はひれ伏す運命にある。それは当たり前のことだろ?」


「当たり前? なら、言わさせてもらうよ魔王」


僕は拳を握り締める。僕の魔力に反応するように栄光が光り輝いていく。


「僕は勇者だ。勇者は、負けない」


一歩目から全速力。拳を叩きつけながらすかさず鬼を蹴り上げる。例えガードされていても打ち上げる。打ち上げて蹴り飛ばす。地面に着地をしたらさらに追い討ちをかける。


止まってはいけない。全力で、全速力で、全開でひたすら攻撃を加えていく。『地縛失星』を身につけたまま最大の攻撃力で拳を振り下ろす。


だけど、その拳は受け止められた。青色の鬼によって。


「えっ?」


僕が反応するよりも早く、青色の鬼の拳が僕の体を抉り込んだ瞬間、僕は胃の中にあったものを吐き出していた。


ダメージが抜かれた? 『地縛失星』で?


『地縛失星』は物理的な攻撃とあらゆる攻撃に対する防御力を見るなら最強と言ってもいい近接型の服装。でも、今の痛みは、完全に抜かれている。


『地縛失星』の力を破壊することなく。


「無事か。器のジェガン」


「レザリウスか。勇者は我だろ?」


「器ごときでは相手にはならない」


何かによって首を掴まれる。そして、そのまま持ち上げられた。持ちあげれらて青色の鬼と同じ高さになる。ただし、両足は着いていない。


これには『地縛失星』効果が表れているからかダメージは無い。でも、痛みのあまり動けない。もしかしたら、骨を何本も折ったのかもしれない。


青色の鬼が笑みを浮かべる。奴らの言葉に従うならこいつの名前はレザリウス。対する金色の鬼はジェガン。


レザリウスはそのままゆっくりと腕に力を込める。だが、痛みは無い。


「なるほど。無効化か」


「だが、いつか我がその無効化を」


「無理だな。例えば、そう」


腕が離される。そして、レザリウスが勢いよく足を振り抜いた。何とか寸前で腕を動かしレザリウスの足を大きく上に弾き飛ばした。


そして、着地して走り込もうとする。


「残念だ」


だが、目の前にはレザリウスが拳を放っていた。


受け止められない。


レザリウスの拳が顎をかする。何とか後ろに下がって直撃は避けたけど、天地がひっくりかえるような感覚に僕はその場に転がってしまった。


脳震盪?


その考えに至りながらも体は上手く動かせない。


「例えば、器のジェガンが我が速度を超えない限り」


そして、レザリウスの拳が僕に落下した瞬間、僕の意識は一瞬ではぎ取られていた。






「お兄ちゃん?」


麻耶が動きを止めて青色の鬼の拳によって動かなくなった京夜の姿を見た。


一人一軍(ワンマンアーミー)がやられるような敵。そんな新たな敵の存在に誰もが完全に後ずさっている。一人一軍(ワンマンアーミー)は世界最強の存在。だからこそ、今、ここで戦っている部隊は一人一軍(ワンマンアーミー)の力によって負けていないと言っても過言ではなかった。


だが、一人一軍(ワンマンアーミー)は負けた。新たに登場した。鬼によって。


「お兄ちゃん」


麻耶は前に一歩を踏み出す。それに気付いたシノンが麻耶に近づこうとするが、異形の群れが襲いかかってきたため自分の戦いに専念するしかなかった。


大和も麻耶を守ろうと前に出ようとする。だが、異形の勢いが強すぎる。


「お兄ちゃん」


麻耶にカマキリの異形が飛びかかる。だが、麻耶が無造作に放った拳によってカマキリの異形は吹き飛ばされ、50mほど他の異形を巻きこんで後方に吹き飛んだ。


それは完全におかしな光景。そんなおかしな光景の中で麻耶はさらに前に踏み出していた。


「ちっ。おい! 麻耶! せめてお前の獲物の剣でも持ってけって、聞こえてんのか!? おい!」


大和の声は今の麻耶には届かない。麻耶が見ているのは京夜だけ。だから、その前を塞ぐ障害はなんであろうと叩き潰す。それが今の麻耶だった。


レザリウスやジェガンですらも。


「死ね」


麻耶の認識ではいつの間にか目の前までやって来ていたレザリウス。実際は歩み寄ったのだが、京夜しか見ていない麻耶とっては一瞬で来たようにしか思えなかった。


だから、振るわれた常人では見きれない拳の速度に麻耶は反応する。


パシッと音が響き渡った。それは、麻耶の手がレザリウスの拳を弾いた音。レザリウスが目を見開いた瞬間、レザリウスの体に麻耶の拳が突き刺さった。


レザリウスは体をくの字に折り曲げてたくさんの異形を吹き飛ばしながら転がっていく。その姿に異形の侵攻が止まった。


そう。止まったのだ。まるで感情が無いかのように突撃してくる異形の全てが完全に動きを止めた。それは完全に麻耶の力を恐れているようだった。


もちろん、シノンや大和達も動きを止めている。


あの一人一軍(ワンマンアーミー)が負けた相手に対して麻耶は圧倒的な力を見せて勝ったのだ。それは特筆に値するどころか恐れを抱くには十分だった。ただし、シノンは違う。シノンだけは嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「それが、麻耶の力なんだね。お兄さんの隣に立つための力なんだね」


近くにいた異形が飛びかかる。だが、それは一瞬にして麻耶の拳によって弾き飛ばされた。真正面からはクマの姿をした異形。その太い腕が麻耶を薙ぎ払おうと振られる。だが、その腕を麻耶は簡単に受け止めていた。


そして、麻耶が拳を放った瞬間、クマの異形は上半身と下半身を分離させて吹き飛んでいく。


「な、なんて力。レザリウスですた対抗できない力。面白い。本当に面白い。その力こそ、我の敵になるに相応しいちか、らぎゃっ」


麻耶の前に立ったジェガンが無造作に振られた拳いよって吹き飛ばされる。ジェガンの体はたくさんの異形を巻きこんで転がっていく。


「お兄ちゃん」


麻耶は倒れている京夜を抱きしめた。その背中を狙うように様々な異形が狙いを定める。だが、その狙いを定めた異形の全てが見えない拳によって叩き潰されたかのように潰されていた。


麻耶は顔を上げる。その視線の先には京夜を倒したレザリウスの姿。


腕の中で弱々しく息をしている京夜を抱きしめながらレザリウスを睨みつける。レザリウスも麻耶を睨みつけている。


「許さない」


麻耶の言葉が周囲に響き渡る。その声に籠もっているのは怒り。


「許さない」


「その力」


レザリウスが小さく呟く。その呟きですら麻耶の耳には聞こえていた。


「お兄ちゃんの仇は私が」


「落ちつくのじゃ」


その言葉と共に麻耶の前にリズィが着地した。その手にあるのはアル・アジフ。


周囲にいる異形が一歩後ずさった。何故なら、アル・アジフの周囲にはいくつもの巨大な剣が浮かんでいたからだ。その一本一本が強大な力を持っているとわかるほどの力。


「ここからは我も戦わさせてもらおう」


その言葉と共にリズィが笑みを浮かべる。対する麻耶は驚いてリズィを見ていた。


「えっと、リズィさんって魔術師、だよね?」


「そうじゃな。魔術師じゃ」


巨大な羽虫の異形がリズィに飛びかかる。だが、剣が無造作に一閃され、羽虫の異形は塵芥となって消え去った。


その光景を見ながら麻耶は呆然としている。


「じゃが、魔術師は魔術師の戦い方があるのだぞ。例えば」


リズィが腕を振った瞬間、剣が同じように振られ、周囲にいる異形を散らす。まるで、剣がリズィの動きに反応しているようだった。


麻耶はそれをしっかり見届けて、そして、頷く。


「さ、ようやく準備は揃ったからの」


だから、リズィは笑みを浮かべた。


「援軍が到着したところじゃし、我ら人間の最終兵器の共演を始めるとしようかの。さあ、反撃の時間じゃ」






『反撃の時間じゃ』


その言葉が聞こえた瞬間、優奈は小さく頷いて握り締めていた右のレバーを大きく前に突き出した。


出力を最大から上限突破まで。全ての出力を最大限を越えるほどにまで上昇させる。


「クラスターエッジ接続確認」


そして、両手のレバーとペダルを動かして機体を安定させる。試作型『悠遠』の手に握られているのは巨大なライフル。そのライフルにはいくつものエネルギーライフルに使われるカートリッジが接続されていた。


さらには、そのライフルはまるで地面に固定されるかのように様々な場所から放たれた杭が地面に突き刺さっている。


「エネルギー充填率98%。目標捕捉」


しっかりと正確に狙いを定める。狙う場所は特異点である黒い渦を巻く雲の中に現れた巨大な門。そこに砲口を向ける。


それに気づいた異形が狙いを定めて試作型『悠遠』に襲いかかる。だが、それは近づく前にはアメリカ軍が横一列になって放った銃弾によって倒れて行く。


「出力安全装置解除。試作型『悠遠』のオーバードライブ起動。出力130%まで上昇」


レバーを握る優奈の手が汗ばむ。この出力までは理論上出すことは可能だが、それを実際にやったことはない。そもそも、試作型『悠遠』は実戦を初めて経験する機体でもある。


だから、優奈は怖かった。失敗することが。でも、この武器が届き、援軍と共に準備が整った時、京夜がレザリウスに負けたシーンを目にしてしまった。だから、優奈は憎しみの目で睨みつけながら巨大な門に狙いを定めた。


「上昇限界133%。上昇停止。全安全装置解除。クラスターエッジ射出20秒前」


ライフルの中でエネルギーが収束するのがわかった。微細な振動が試作型『悠遠』襲っているから。その微細な振動を感じながら優奈は小さく息を吐く。


「19」


異形が前に進もうと動いている。でも、銃弾の壁が完全に道を塞いでいる。


「18」


ハリネズミのような異形が前に跳び出した。どうやらその背中にある針が銃弾を防いでいるらしい。


「17」


その異形は凄まじい勢いで距離を詰めようと動いている。


「16」


軍の動きに動揺が走る。


「15」


ハリネズミはさらに加速する。


「14」


そして、異形は軍に飛びかかった。それと同時に攻撃が弱まる。


「13」


ハリネズミの異形が軍に傷つけようとした瞬間、軍の中から伸びてきた剣が針を砕き異形に突き刺さった。


「12」


剣を握り締めた一人の少年が前に出る。そして、ハリネズミの異形を叩き斬った。


「11」


それと同時に軍の攻撃が再開する。だが、相手もバカじゃない。


「10」


ハリネズミの異形を盾にするように異形は動く。ハリネズミの後ろを走るように異形は走る。


「9」


だが、その頼みの綱であるハリネズミの異形が空から飛来した光の矢によって撃ち抜かれた。


「8」


空にあるのは滞空しているヘリ。その中に弓を構えた少女の姿がある。


「7」


その少女が弓の弦に手を触れた瞬間、そこに魔力が収束して矢となった。


「6」


その矢を少女は異形に向かって放つ。


「5」


異形は空を見上げるだけで何もできない。飛べる異形は全て試作型『悠遠』の構えるライフルの先にある巨大な門の前を守るように展開したからだ。この門だけは体を張ってでも守るかのように。


「4」


だから、地上の異形の動きは総崩れになる。空からの射撃と連携の取れた攻撃。その中を進む者がいたとしても少年とその手にある剣がどんな鎧も斬り裂いて倒している。


「3」


だから、異形はただ単にやられているだけだった。


「2」


そんな様子を見ながら優奈は最後のカウントを行う。


「1」


すでにライフルの振動は大きくなっており、照準を合わせるのに優奈は神経を集中した。


「クラスターエッジ、第一波、射出!」


その瞬間、方向から溢れんばかりの光が放たれた。光は空を舞う異形を砕き、そして、道半ばで複数の弾丸に分裂する。


轟音。


分かれた弾丸が異形に突き刺さった瞬間、巨大な爆発となって門への道を塞ぐ異形の大半を薙ぎ払っていた。


「第二波、射出!」


続いて光が放たれる。放たれるごとに試作型『悠遠』は大きく後ろに下がっており、それをするごとに優奈は照準を正確に合わせている。


放たれた第二波は轟音と共に異形を呑み込む。そして、道を塞ぐ異形の姿は完全に消え去っていた。


「第三波、射出!」


優奈は門に狙いを定め、引き金を引いた。方向から放たれたエネルギーは道半ばで分裂し、門に突き刺さった瞬間、巨大な爆発を起こす。


それと同時に門が震える。まるで、門から何かを吐きだすかのように。だが、それは門が最後の力を振り絞っていることと同じだった。すでに、門はひび割れている。


「私達を、人間を、舐めるな!」


だから、優奈は最後の引き金を引いた。放たれるエネルギーの塊は同じように分裂して爆発する。そして、何かが砕けるような大きな音が鳴り響いた。


それと同時に門があった場所から何かが飛び散っている。それは門の破片でもあった。


「やった」


優奈が小さくつぶやいた瞬間、爆煙の中から何かが飛び出してきた。それはまるで、伝説上にしか存在しないとされている幻想の種、ドラゴン。


それが試作型『悠遠』狙って急速に近づいていた。


「今はクールダウン中なのに。シークエンス全破棄。強制起動、きゃっ」


試作型『悠遠』が横倒しになる。強制的にクールダウン期間を無くしたためによる機体のオーバーヒート。だが、そんなことは焦っている優奈にわかるわけがなかった。


ドラゴンが一目散に試作型『悠遠』を狙う。優奈はそれを見ながら必死に再起動を試みている。


間に合わない。


優奈がそう感じた瞬間、無数ともいえるエネルギー弾がドラゴンの体に直撃し、そして、穴を穿つ。


「誰?」


ようやく再起動が起きたものの、オーバーヒートによりいくつもの回線が焼き切れた試作型『悠遠』をg子ちない動きで振り返らせながら優奈は尋ねた。


そこにいるのは蒼鉛の色をした機体。試作型『悠遠』よりも人型に近く、ストライクバーストよりも小さいような気がする。ただ、その背中には数十にも及ぶ砲口を持ったいくつもの機械の翼があった。


まるで、天使をイメージしたかのような機体。


『どうやら、間に合ったようですね』


その言葉と共に通信が開かれる。画面に映ったのは柔和な笑みを浮かべる少し年を取った女性。


「あなたは?」


優奈は尋ねた。女性は笑みを深くして答える。


『私はフローラ。フローラ・アストラル・エヴァールン。このフュリアス、イグジストアストラルのパイロットです』






頭上で今まで異形を吐き出していた門が破砕される。その様子をリズィは笑みを浮かべながら見ていた。前にいるのは金色の鬼であるジェガン。


ジェガンは信じられないような表情で空を見上げている。


「まさか、ゲートが破壊されただと!?」


「そなたらの武器である物量。その物量は今途絶えた。さらには、アメリカ本土から凄まじい額の予算をつぎ込んで作られたフュリアスも到着した。そなたらに勝ち目はないぞ」


「ぐぬぬぬっ。だが、我らは負けたわけではない」


「そうじゃな。我も勝ったとは思っておらんぞ」


ジェガンは前に踏み出せない。踏み出したなら確実にリズィの周囲に浮かんでいる剣によって叩き飛ばされるのはすでに何度と経験しているからだ。


リズィの周囲にある剣は周囲の異形を斬り裂いている。だからこそ、その威力は尋常じゃなく高いと言うのは目に見えてわかっていた。


「魔王すら倒すことが出来ないとは。これも勇者の力が未熟なばかりに」


「ふむ、勇者か。そなたらにも文化というものがあるようじゃな」


「当り前だ。我らこそがこの世界を救うための存在。だからこそ、我らは負けられるのだ」


だが、とジェガンは言葉を続ける。


「あのもう一人の魔王はなんだ?」


ジェガンの視線の先には京夜を背負ったままレザリウスを簡単にあしらいつつ、迫りくる異形を倒している麻耶の姿があった。


確かに、異形からすれば魔王ではあると思いながらリズィは笑いを堪えるのを必死に答える。


「我らの秘密兵器じゃ。そなたら、我らに勝つということはあの二人に勝たねばならんのだぞ」


「ぐぬぬぬっ。ここは物量で押すしか」


「では、そろそろ幕引きとしようかの」


リズィがアル・アジフのページを捲る。そして、笑みを浮かべた。


「断罪の剣よ、今ここに。全てを破壊し創生の道を作り力をここに来い!」


その言葉と共にリズィを中心に魔力が集まる。そして、それが形となった。


「ジャッジメント!」


光の嵐が異形を砕く。広大な範囲内にいる異形の全てがアル・アジフの力によって再現された魔術によって跡形もなく砕かれていた。その威力はまさに魔王という名にふさわしい力。


ジェガンが一歩後ずさる。


「さ、三人目の魔王だと」


「ふむ。京夜と同列か。いい気分じゃ」


「くっ。レザリウス! ここは撤退だ!」


ジェガンが走り出す。走り出す先は麻耶の攻撃によって吹き飛ばされるレザリウス。ジェガンはレザリウスを受け止めてさらに走り出した。それを見ながらリズィは小さくため息をついた。


「何とか、一発限りの魔術で引いてくれたの」


周囲の異形は我先にと逃げようと道を探っている。だが、その異形に自衛隊とアメリカ軍がともに襲いかかっていた。


その光景を見ながらリズィはアル・アジフを閉じる。


「我の出番も終了じゃな。さて、京夜と麻耶の二人を助けに行くとするかの」


周囲に浮かぶ剣を従え、リズィはひたすらに戦っている麻耶の下に急ぐのであった。

主人公が負けちゃいましたが魔王が二人ほど降臨。さらにはイグジストアストラルまで登場と物語はだんだん混沌となる予定です。ついでに「新たな未来を求めて」の第七章以降で意味を成す言葉も出ています。ネタバレではないので強行しました。

というか、第七章にたどり着くまで後何年かかるのだろうかと思いつつ。


次は戦闘は無い予定です。どうなることやら。というか、いつ更新出来るだろうか。

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