第一審 『記憶無き正義心』
初めまして。失踪と申します。
これからは自分が書きたい作品を好きなように投稿していきたい、とは思っています。
残酷描写に関しては、たまに入れようかなみたいな感じなので、そこまで気にしなくて大丈夫だとは思いますが……。(かなりキツイのを入れたりするかも)
少なくとも今回は大丈夫です。誤字や漢字が読めないなどあれば気軽にお知らせください。お楽しみいただければ幸いです。
「寒い……」
「誰か……いない……のか……」
「誰……か……」
ℵ
「た、頼む!殺さないでくれ!」
「お前程度、殺すつもりなんてない。さっさと失せろ」
酷く憔悴した表情をこちらに向けると、一心不乱に走り始めたそいつを一瞥しつつ、僕は大きくため息をついた。
杖のように鞘に収まったままの刀を地面について、近くの地面に座り込み、腕にできた傷を撫でて、顔に着いていた血を拭う。
もう、ここに来てからどのくらいになるのだろうか、などと無駄な疑問が浮かぶが、そんなこと考えたところで答えは出ない。
「……飯はどうしようか」
そう呟いた瞬間、上げた目線の先に、腰の下あたりまである長い白髪を靡かせる何者かがいることに気がついた。
一切気配は感じ取れなかった……。その和服の女は先程僕が殴り飛ばして気を失ったやつの前に屈みこんでいる。
僕が口を開く前に、そいつはこちらに視線を向けることなく問いかけてきた。
「これ、全部君が?」
「え?……まぁ、そうだ」
「ここに転がってる人達、全員『妖者』だったのかな?だとするなら大した実力だね。君、名前は?」
そう問われて答えるのに躊躇してしまうが、敵意はないことは感じ取れる。加えて、こいつからは不思議な雰囲気が醸し出されていた。一体何者なのだろうか。
「……『ハルサ』だ。苗字は忘れた」
「そうか。君はなんでここにいるんだい?これほどの実力があればこんな場所で生活しなくても良さそうに見えるけれど」
「……分からない。気づいた時にはここにいたんだ。だからなんでここにいるのか、どうやってここに来たのか、ここに来る前何をしていたのかも分からない」
「それは……ここに来る以前の記憶が全て欠落しているということかな?」
「そうだな……思い出せるのは名前だけ、親の顔すらもすっかり忘れてしまった。僕からも聞くが、お前はなんでこんなところにいるんだ。このスラム街じゃ、見たことの無い顔だが」
問いかけると、そいつは立ち上がり、こちらに向き直ってそれへの回答を述べ始める。
「私はある目的があってここに来た。とある噂が流れてきたんだ。『和服で白髪が特徴の、スラムで生活している実力者』のね。どうやら噂は本当だったみたいだ。ハルサと言ったかな、私が探していたのはどうやら君らしい。私の所で働かないかい?今よりもいい生活と、職場を提供しよう」
ℵ
この世界には異能力と言うものが存在する。
人によって種類も様々で、戦闘向きなものであったり、日常生活向きなものであったりと。
そして、異能力を持つ人間は『妖者』と呼ばれる。
でも、僕が知っていることと言えばそれくらいしかない。目を覚ました時にはあのスラム街で地面に座り込んでいた。
その以前の記憶は欠落しており、ほとんどのことは全て目を覚ましてから学んだことだ。それでも自分のことは欠片も思い出せはしなかったが。
やらなければやられる環境。そんな場所で今まで生活していたからこそ、戦闘面ではある程度自信がある。しかし、逆に言えばそれ以外の技術はあまりにも乏しい。
そして今、そんな僕は見知らぬ女にどこかもわからない部屋の中に案内され、椅子に腰かけて彼女と対面していた。
しかし、見慣れない環境に加え、こういう雰囲気はどうにも慣れない。落ち着かない様子の僕に、彼女は話を切り出す。
「君について、幾つか聞きたいことがあってね。別に嘘をついてもらっても構わないよ、返事によってどうこうということは無いからね」
「あぁ、聞こう。ただ、答えられることも多くは無いと思う。出来ればその前に名前を教えてくれるとありがたいんだが……」
「構わないよ。『ルナ』と呼んでくれ。まず、記憶が欠落していると言っていたね。現状、思い出せるものはどのくらいある?」
「自分の名前、だけだな。それ以外のことは欠片も思い出せない」
「なら、自分の異能力についても覚えていないのかい?」
「あぁ、思い出せない。そもそも、妖者であったのかすらも」
「じゃあ、君はあのスラム街で能力を一切使わずに生き延びてきたってことなのかい?」
「まぁ……そうかもしれないな。腕っ節とこの刀だけで今まで厄介事は乗り切ってきた」
「でも、噂によれば、鞘から抜いていなかったんだろう?」
「あぁ、ほとんどの場合はそうだ。抜く必要がなかったからな」
「大したものだね……。それと、この質問の内容からあらかた察したかもしれないけれど、うちの組織は荒事専門。つまり君は戦場に駆り出される訳なんだけど、それに対して異論はあるかい?」
「いいや、全く。むしろありがたいくらいだな。僕の取り柄は戦闘だけ、それ以外を頼まれる方が困る」
「なるほどね。なら早速初任務と行きたいところなんだけど、先にこの建物の案内から済ませてしまおうか。ここからは選手交代だ、入ってきていいよ」
そう彼女がドアの外に向けて声をかけると、ガチャリと扉が開いて、現れた何者かがその隙間から頭だけを出してこちらを覗く。重力に従ってその長い黒髪が揺れた。
その人物は、僕と目が合うや否や近寄って、満面の笑みで声をかけてきた。
「初めまして!私は『硯 ホタル』。サポートチームのメンバーだよ!これからよろしくね!」
上手く状況が読めず首を傾げていると、視界の外からルナの声が耳に入ってくる。
「この子は言わば君の同期にあたる人物。組織に加入したばかりでまだ経験も薄いから、仲良くしてあげてくれ。建物の案内はホタルに任せるから、お願いね」
「はーい、任せて」
さらに困惑して固まっていると、目の前まで距離を詰めてきた彼女は唐突に僕の手を取った。
「ほら、ぼーっとしてないで、早く行こ!」
言われるがまま手を引かれる僕は去り際にルナの方を見るが、揶揄うように微かに笑顔を浮かべて、手袋をした片手を振っていた。
ℵ
「改めて、私の名前は硯 ホタル。サポートチーム所属、まだ加入したばっかりの見習いみたいな感じかな」
「僕はハルサ、苗字は忘れた。自分のことはスラム出身ということ以外何も分からない」
「ルナから聞いてはいたけど、ほんとに自分のことも覚えてないんだね」
建物の廊下を歩きながら、先程と変わらない様子で僕に語り掛ける彼女は、一貫して機嫌が良さそうだった。
そうやって建物内を歩き回り、一通り見終わったあと、僕は気になっていたことを問いかけてみる。
「さっきから気になってたんだが、サポートチームってなんだ?まだその辺の説明は受けていないんだが」
「サポートチームって言うのは、簡単に言えば戦闘が専門じゃない人の集まり。その中でも私は医療担当。サポートチームの中でも、任務で出張することが多い役職だね」
そう言うと、そいつは顎に手を添え、僕の体を上から下へと眺める。
「君は……見るからに戦闘系って感じ、多分というか、確実にアクトチームに配属されるはずだよ。アクトチームって言うのは、サポートチームと逆。任務で直接現地に赴くことが中心の人達のこと。場合によっては私みたいなサポートチームの人が一緒になって任務に出向くこともあるから、一緒に任務に行くこともあるかもしれないね」
そう言って僕に笑顔を見せるホタル。
話しているうちに、僕たちはとある部屋の前で足を止めた。
ホタルはその部屋の扉を開けて中へ入って行ったため、僕も続いて部屋に踏み入る。
「ここが君の部屋だよ。二〇五号室、覚えておいて。私は三〇五号室だから、いつでも来ていいよ。私も君の部屋に行くから」
「あ、あぁ……」
あまりに早い距離の詰め方に、少し後ずさって生返事をするが、そんなことに構わず彼女は話し続ける。
「これで全部だよ。ルナから案内が終わったら会議室に呼んで欲しいって言われてるから、一緒に行こっか」
そう言われるがままその会議室と思しき部屋まで案内され、扉の前で立ち止まった。
「じゃ、私はこの辺で失礼しようかな。また会おうね、ハルサ」
軽い足取りで手を振り去っていく彼女の背中を見つめながら小さくため息をついた。
これは慣れるのに時間がかかりそうだ……。
僕は扉に向き直って数回ノックし、部屋の中に入ると先程と同じようにルナがそこにいた。
「おかえり、ハルサ。どうだった?」
「どうだったと聞かれてもな。思いの外広かった、くらいしか感想は特にない。こういう場所自体見慣れないから、見るだけではほぼ何も分からなかったと言っていいかもしれないな」
「そうか。まぁ無理もないね。ともかく、再度君を呼んだ理由としては他でもない、今から早速初任務に向かってもらう為なんだけど、準備はできてるかい?まぁ拒否権は無いけど。今からそれにあたっていくつか説明をさせてもらうよ。君に向かってもらうのは、この地区の郊外。最近近辺での治安の悪化が酷いらしくてね、ここで好き勝手やっている流浪者たちを倒して、捕まえてきて欲しい」
彼女は広げられている地図を指さしながら淡々と任務内容を説明していく。
彼女が今話題にあげている地区郊外は、記憶が正しければあのスラム街からもそこまで離れていなかったはずだが。
「分かった。一応聞いておくが、そいつらは生け捕りにした方がいいのか?」
「うーん……。まぁ、絶対とは言わないかな。そうせざるを得ない状況って言うのは必ずあるからね、厳しそうなら始末してしまっても構わないよ。依頼主からも、その辺は言及されてないからね」
「依頼主?この任務に依頼主なんていたのか?」
「あぁ、元々この組織は他所からの依頼を受けて、その依頼をこなしていくことが多いからね。つまり、君たちの財源は依頼主からの報酬ってことになる。勿論、組織の意向で依頼主がこの組織そのものの任務に赴いて貰うこともあると思うけどね。その場合は、組織側から報酬が出ると思ってもらって構わないよ。それで、今回の依頼主は、『樺 セラム』なんだけど……」
「待てよ……?その名前どこかで……」
「気づいたかい?流石に一般常識として記憶されてたかな。彼女はノーヴェル領の現代領主、つまりは、私たちが今生活してるこの領土の最高権力者だ」
第一話ということで、少しボリュームを増してみました。
4000文字オーバーなのは今回だけ……だと思います。
次回からはもうちょっと手軽に読めるようにして行こうかなと。2000文字ちょっとがちょうどいいんですかねね。
今回は一先ずこの辺で。次は第二審でお会いしましょう。




