草木万里野で反省会
バーチャルハイウェイとは、2050年代の先端技術を結集した疑似移動手段である。
このシステムは、以下の2つの主要技術によって成り立っている
①超高解像度VR技術
現実とほぼ区別がつかない視覚・聴覚・触覚の再現を可能にする技術。
これにより、ユーザーは遠隔地の環境をリアルタイムで体験できる。
②仮想物質技術
全ての元素を再現可能な「原子レベルの3Dプリンタ」とも呼べる技術。
これを用いて、目的地に「物質的アバター」を構築し、そこに意識を転送する。このアバターはユーザー自身の感覚を忠実に反映し、触覚や痛覚すらも再現可能である。
この技術により、人々は実際に移動することなく、あたかも現地にいるかのような体験を得られる。
アバターが破壊されたり、予期せぬ衝撃を受けると、意識が強制的に元の体に戻る「ログアウト」が発生するが、これも安全性を確保するための設計である。
土曜日の午前、鈴と湊は代官山駅で待ち合わせた。
「昨日、湊が代官山集合って言ったけど、ほんとに来てくれると思わなかったよ。」
鈴は駅前の改札口で腕を組みながら湊を見た。
「別に断る理由ないし。でも腹減った。」
湊は軽くあくびをしながら言った。
湊は、何事にも執着しないように見えるけど、それが不思議と安心感を与えてくれる。
「とりあえず、坂を上がってみよう。麗の家、たしかこの辺りだった。」
湊は小さなスマートデバイスを操作しながら、北の方向を指差した。
「なんでわざわざこんな暑い日に探しに来たんだよ。バーチャルハイウェイで行けるのに。」
湊は呆れた顔で鈴を見た。
「だって、現地の風を感じたかったの!バーチャルハイウェイだと、どんなにリアルでも、本物じゃない気がするんだよね。」
鈴は胸を張ってそう言うと、坂道を元気よく歩き始めた。
湊は肩をすくめながら、鈴の後を追った。
坂道を上ると、静かな住宅街が広がっていた。
柔らかなクリーム色の外壁や、大きなガラス窓が特徴的な高級住宅が立ち並ぶ。
「あの家だ。」
湊が指差したのは、ベージュの外壁に石材が美しく配置された一軒家だった。
「すごい豪邸、、、。こんな家に一人暮らししてたの、、、」
鈴が感心したように言う。
鈴は少しの間、家を眺めていたが、ふと首を振った。
「ねぇ、麗ってさ、なんで中学を辞めたんだろうね?こんな家で育ってたのに。」
湊は答えず、代わりに鈴の額を指で軽く突いた。
「考えすぎ。とりあえず腹減ったから、どっか行こうぜ。」
「えー、もう少しここにいようよ。」
鈴はしぶしぶ家を見つめ続けたが、やがて湊に引っ張られるようにして歩き出した。
二人は、湊の提案で草木万里野というカフェに入った。
エアコンの効いた店内で、二人はオムライスを注文した。
「うまい。やっぱ夏はオムライスだな。」
湊がスプーンを口に運びながら言う。
「意味わかんない。でもさ、冷やし中華みたいな冷たいオムライスって作ったら売れるかな?」
鈴の目が輝き始める。
「また何か作ろうとしてるのかよ。」
湊は呆れながら笑った。
「だって、やりたいこといっぱいあるんだもん。AIが進化してるから、自分のアイデアをすぐ形にできるし!」
鈴のクリエイティブなエネルギーが全開だった。
「わかんねー。全部AIにやらせればいいじゃんって思っちゃう。」
「違うの!自分の頭の中のものを表現するのが大事なんだよ。それがオリジナルなんだって。」
鈴は少し真剣な顔でそう言った。
湊は肩をすくめて、「ふーん。」とだけ言った。
会話が弾む中、鈴はレジ横に置かれたチラシを見つけた。
「Mikaの個展?」
それは、鮮やかな色使いで有名なイラストレーター、Mikaの個展の案内だった。
「行ってみようよ!もしかしたら何かヒントが見つかるかも。」
鈴は目を輝かせながら湊に言った。
「また創作のアイデア探しかい。次は奢りな。」
湊はそう言うと、空になった皿を軽く指でトントンと叩いた。




