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第37話 大規模作戦始動前夜

1941年7月31日スターリングラード


「荒木大将閣下、お疲れ様です。」


敬礼をしながら上官をねぎらうのは安藤少佐である。


「おお、安藤君、お疲れ様。ところでソ連側に動きはあったかい?」


荒木は優しい声色で安藤少佐に尋ねる。


「荒木大将閣下...これを聞くには、膨大な勇気がいるでしょう...」


安藤少佐は極めて緊張しこわばった表情で返した。


「そうか...私の思う以上、いやそれすら容易に上回るものだろう....ソ連の大規模反攻作戦か...」


安藤少佐は俯きかけていた顔をはっと上げた。


「はい...そうです。少なくとも100万、多くても250万人によるものかと...」


「ボリシェビキどもめ!無茶な反攻作戦に出るか。」


荒木大将は少し怒気を込めた声色でつぶやいた。


そこへ一人の青年将校が歩いて近づいてくる。


「荒木大将閣下、安藤少佐殿、失礼します。」


「大崎准尉か。どうした?」


「はい、セバストポリ方面から西へ進撃していたルーマニア軍ですが....」


「ああ、ルーマニア陸軍か...そろそろ合流してもおかしくはないが...」


「現在連絡が入りまして、明日には到着予定とのことで...」


「できる限り早いうちに合流しておきたいな...大規模反攻作戦が実行される前には...」


同日ソ連オムスク


山名大尉が事務室で作業していた。


彼がいるのは、ソ連共産党のオムスク支部が設置されていた建物だが、日本陸軍の統制派と関東軍が来る前に撤退したのか、オムスクの共産党員はおらず、あらゆる書類は手つかずであった。


山名は書類の山をある程度さばき切ると、一息つくために、コーヒーを淹れに行った。


彼は少しばかり考えていた。下士官の湧とオムスクの街中を歩き回った時のできごとである。


歩き回って感じた違和感と言えば、若い青年や男子学生などの数が圧倒的に少ないことだった。


山名はコーヒーを淹れ、執務室で休憩をとっていた。そしてとある考えが全身を駆け巡った。


山名はとっさに電話を取り、とある人物にかけようとダイヤルをました。


音質の悪い接続音とザーピーというノイズが少し混ざったあと、ぶつりという音とともに声が電話越しに聞こえてきた。


「はい、こちらオムスク前線基地、日本陸軍の山名だ。ハルビンから東京政府の陸軍省の石原大臣へ繋いでくれ!」


するとオペレーターが返す。「はい、山名様ですね、承知しました。ではお繋ぎいたします。」


しばらくノイズ音などが走ったあと「はい、陸軍大臣石原莞爾です。」


「はい、オムスク前線基地の山名大尉です。大臣閣下、お手数おかけして大変申し訳ございません。至急お伝えしたくご連絡いたしました。」


「その様子だとかなり急いでいるようだな。して、どんな急用で?」


「オムスク市内の見回りをしていて気づいたのですが...若い青年や男性、学生たちの数が圧倒的に少ないことが判明しました。ノヴォシビルスクやイルクーツク、クラスノヤルスクなど多数の占領都市でも確認できました。」


「ん?ただ動員されているだけではないのか....いや、違うな。何かある。そしてなぜ君たち関東軍と陸軍統制派がスムーズにシベリアまで来れたか...」


「閣下、これは推測ですが、大規模反攻作戦に備えてすでに若者たちをモスクワに吸い上げていた可能性があります。」


「おそらくだが、オムスクやノヴォシビルスク、イルクーツク、クラスノヤルスクあたりは吸い上げが間に合ったのだろうな。だが敵はチュメニやエカテリンブルグキーロフあたりは防衛能力が高い可能性がある。それと南方の皇道派にも警戒を出してくれ。」


「承知いたしました。皇道派含め、全軍に伝達いたします。ありがとうございました。」


そこで電話は終わった。


山名は電話を切ると、神妙な面持ちで下士官の湧を呼んだ。


「はい、大尉殿。どうされましたか?」


「湧下士官、先ほど大臣閣下からソビエトの大規模反攻作戦の可能性を示唆された。我々が警戒すべきが、チュメニやキーロフあたりだろう。ただ...」


「ただ...どうされました?」


「ああ、南方の皇道派にも知らせないとだな。おそらく奴らは...ヴォロネジで構えているだろうな。」


山名は地図を指しながら説明していた。


「ヴォロネジ....そういうことですね。要衝ヴォロネジ。皇道派とルーマニア軍の占領地域を奪還するにはうってつけですね。おそらくスターリングラード、バクーの奪還が推測されます。特に最優先と思われます。」


「なるほどな、ドイツ国防軍によるバルト三国の占領、武装親衛隊によるベラルーシとウクライナ北部の占領、そしてルーマニア軍によるウクライナ南部占領...となると大量の戦車や軍用車などを動かすのに必要だからな。」


「ええ、そうですね...そしておそらくですが、8月初週に行われるかもしれませんね...」


1941年8月5日スターリングラード


「安藤少佐殿、哨戒部隊から連絡が入りました。」


大崎准尉が安藤少佐に伝える。


「どういった内容だい?」


「それが...ソ連軍およそ70万がスターリングラードならびにバクー方面へ侵攻中とのことです。」


安藤少佐は神妙な面持ちで「そうか、ありがとう。ここからが本番とはまさにこのことだな。気を引き締めていこう」

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