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3.出会いはドラマチックだったのに…

3.出会いはドラマチックだったのに…


 あんな人だとは思わなかった。最初はとても優しかったのに…。



 いつものように満員電車に揺られて大学へ向かう途中だった。

「すみません。降ります」

 ぎゅうぎゅうに詰め込まれた乗客をかき分け電車を降りようとした時、来ていたカーディガンが何かに引っ張られた。横に居たサラリーマンのカバンの金具がカーディガンの網目に引っかかっていた。彼は私と一緒に電車を降りてくれた。絡んだ金具を丁寧に取り外そうとしてくれたのだけれど、なかなか外れなかった。

「もういいですから、ここ、切っちゃってください」

「そうはいきませんよ」

 そうしている間に電車を何本か乗り過ごすことになった。

「会社に遅れちゃいますよ」

「一度遅刻したくらいでクビになったりはしませんから。それより、服が破れちゃったらあなたが困るでしょう?」

 ようやく外れたのは10分ほど経ってからだった。彼が時計を見る。

「何とか間に合いそうだ」

 そう言って彼は次の電車に乗り込んだ。


 翌日、私は昨日と同じ時間の同じ車両に乗り込んだ。彼が居た。

「昨日はありがとうございました」

「ああ、昨日の…。女子大に通われているんですね」

「え? どうして…」

「あの駅で降りられたから」

「あ! そっか」

 こうして私たちは毎朝、同じ電車で少しの間だけの会話を楽しむ仲になった。そして、しばらくたったある日、電車を降りる私の手に彼が何かを握らせた。彼の連絡先が書かれたメモだった。彼の名前が堀井隆というのをその時に知った。


 初めてのデートは映画だった。彼がチケットを用意してくれた。電車の中で私が見たいと言った映画だった。話題になっていた割に、映画は期待外れのものだったのだけれど、その後は彼と食事をして、カラオケに行って十分に楽しむことが出来た。

「今日はありがとうございました」

「どういたしまして。また付き合って頂いてもいいですか?」

「はい。今度は堀井さんが行きたいところに連れて行ってください」

「じゃあ、考えておきますよ」

 帰りの電車の中でそんな約束をして、私が先に電車を降りた。電車の中から手を振る彼を見て私も手を振って彼の姿が見えなくなるまで見送った。


 何度かデートを重ねていくうちに私は彼に違和感を持つようになった。彼はとても独占欲が強い人なのではないかと。私が大学の男友達の話などをすると、急に不機嫌になる。最初は私のことを愛してくれているからなのだと理解していたのだけれど、彼の態度はだんだんエスカレートしていった。

「結婚しよう…」

 そんなとき、彼からプロポーズされた。嬉しくはあった。けれど、彼のその後の言葉を聞いて、私は怖くなった。

「…ずっとボクだけの傍に居て欲しいから。だから、大学も辞めればいい」

「大学は卒業したい…」

「ボクがもう退学の手続きをしておいたから」

「えっ!」

「いいじゃないか。もうボクと結婚するんだから学歴も何も必要ない」

 私はその場から逃げ出して携帯電話の番号やメールアドレスをすべて変更した。そうして彼との連絡を絶った。ところが彼は私のアパートを訪ねて来た。すぐに引っ越した。そして、引っ越した先でアルバイトを募集していたスナックで働くことにした。



 働き始めてひと月ほど経ったある日、一人の男性客がふらりと店にやってきた。




 



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