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攫われたのは皇帝の孫娘でした。  作者: こもれびの空


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女王陛下への謁見と小さなハプニング

 セレスティア王国の港は人々の熱気でむせ返るようだ。


 何しろ女王陛下があの美しい陛下の御座船である、「クイーン ミレイア号」を


 アストラルの皇族のために貸し出すというのだ。



 しかも今日の出航には女王陛下が自らアストラルの皇族を案内するという。


 女王陛下のお姿を一目見ようとする民だけでなく、アストラルの皇族まで


 生で見ることができるというのだ。


 それは人々が押しかけても仕方がない。



 その上警護するのはセレスティア王国とアストラル皇国の騎士たちだ。


 互いに一歩も譲らない勢いで道を半分は占拠しているのだから、混雑はさらに激しくなる。



「本当にあの呪われっ子のリゼがアストラルのお姫さまなのかしら」


 とキャンディ。


「だってあの日リゼは帰ってこなかったし、俺たちのいた正殿でアストラル皇国


 の姫が見つかったんだ。偶然にしちゃ出来すぎだろう」


 そう言うのはルークだ。



 あの試しの儀の後、リゼは帰ってこなかった。大人たちはそれについて


 不思議なぐらい何も語ろうとしなかったけれど、人の口に戸は立てられない。


 やがてリゼが大公女だったと噂が流れたのだ。



 キャンディとルークは希望通り裁縫士見習いと船乗り見習いになった。


 二人とも港街で働けるようになったので、休みともなると二人でつるむことも多い。


 同じ孤児院出身の幼馴染。都会では幼馴染というのは、ありがたい存在だ。



 こんな日に仕事をさせてもケガをするだけだろうと、ほとんどの親方は今日は


 臨時休業にしている。


 勿論、人込みを当て込んだ商店などでは、見習いたちも大忙しで仕事をしているが。



「見つからないように影に隠れてこっそり見よう。もし本当にリゼだったら、


 俺たち復讐されるかも知れないからな」



 この二人は知らなかった。こそこそと隠れるようにするとかえって騎士たちの目に


 留まってしまうということを。




 アーサー達の馬車が港に着いた時、小さな騒ぎが起きた。


 不審な動きをするものを捕まえたら、リゼ姫の友達だと主張しているのだという。


 扱いに困っているとリゼ姫の近習のベルクが二人を引き取った。



 船に乗り込もうとしているリゼに、ベルクが報告を入れる。


 それを聞いたアーサーの目がギラっと光ったので慌ててリゼは、


 目立たぬように二人に会えるようにとお願いした。



 民衆が見ているし、船上では女王陛下との謁見もある。


 その前に処置しないとアーサーが二人に何をするか分かったものじゃない。



 リゼは小さなテントに案内された。こっそりという訳にはいかない。


 アーサーもついて来てしまった。


 アーサーが怖い顔で睨むので、キャンディもルークも生きた心地がしない。



 足元にひざまずく二人を見て、リゼはにっこりとほほ笑んだ。



「この二人は確かに私の友人よ。さぁ立って頂戴 二人とも。


 恐ろしい思いをさせたわね。」



「ミーナ、この二人に指輪を渡してあげて。聖女の守護が付いた指輪があったでしょう?」



「何を言っているんだ!こんな奴ら」


 アーサーは言いかけて黙った。


 理解してもらえてよかったわ。リゼは続ける



「時間がなくて訪問できなかったけれども、第18孤児院にも寄付を十分に送ってちょうだいね」



 ミーナが指輪を持ってきたので、リゼは二人の指に手ずから嵌めてやる。


 指輪は魔法が掛かっているので、しゅるりと二人の指にピッタリと嵌った。



「旧情を忘れずにわざわざ来てくれてうれしいわ。


 これは聖女の守護があるから、病気やケガから守ってくれるはずよ。 


 1回しか使えないから、よく考えて使ってね」



「どうやって使うのよ。使うのですか?」



 やはり女の方が度胸があるのだろう。キャンディが聞いてきた。



「簡単よ。使いたい時には、心を込めて開放と言えばいい。


 聖女の守護が開放されるわ」



 二人はにんまりした。これは凄いお宝だ。



 こんな小さなハプニングはあったけれど、遅れることなくアーサー達は


 船上にいるセレスティア女王に謁見した。



「女王陛下、この度は私共のために、陛下の御座船をお貸しいただき、


 誠にありがとうございます。」



 アーサーが進みでて深く礼をする。



「良いよい。どうせ使っておらぬのだ。


 この船も久々の航海を喜んでおろう。そなたがレオニスの孫か。


 なるほどのう。よう似ておるわ。まぁあまり気張らずにのう。


 ゆるゆると行くがよいぞ」



 アーサーは深く礼をする。



「御意」



 リゼも進み出る。



「シオン アストラルが娘 リゼにございます。


 女王陛下にお目もじが叶い恐悦至極に存じます。」



「ほほう。そなたがリゼか。なるほどのう。


 シオンがあのように必死になるわけじゃ。しかしのう。リゼ。


 我が国に杭を打たせるわけにはいかぬでのう」



 ぎょっとしたのはリゼよりはノアだったろう。あの第二皇子。


 いくら娘のためとはいえ何をやってんだ。


 女王陛下が、流してくださってよかった。


 そんなふうに珍しく顔色を変えたノアをちらりと見て女王は続けた。



「良いよい。そう固くなるな。幼子を怖がらせる趣味はないぞ」



 リゼは深く腰をかがめ礼をして言う。



「女王陛下の御恩情、肝に銘じましてございます」



 女王は機嫌よく下船され、滞りなく船は出発したが、


 子供たちはぐったりと倒れこんだ。



「とりあえず少し休んでお茶にしないか?」


 とアーサーが言えば、


 少しこじんまりした喫茶ルームにお茶が準備された。


 ごゆっくりお休みくださいと子供たちだけにしてくれるのは、


 話したいことがあるのだろうと気を使ってくれたからだろう。


 リゼが皆にお茶を入れていると、サトリが質問した。



「リゼって孤児院でいじめられてたんでしょう?なのにどうして


 あんなに親切にしてやるの?」



 ちょっぴり怒っているようだ。



 そんなサトリをみんなが微笑ましく見ている。



「サトリ、私 少し、もしかしたらとても意地悪だったのよ」



 リゼが反省したように答えた。


 まだわからないらしいサトリにノアが質問する。



「サトリも平民暮らしを知っているだろう? 平民の孤児が凄いお宝なんて


 貰ったらどうなると思う」



 そんなの。取り上げられるならまだ良い方だろう。


 ケガや病気が何でも治癒するとなると皆が狙うことになる。


 あの二人が黙って秘密にでもしておけば……。


 無理だ。だってリゼは孤児院に寄付までしている。しかも大金を。


 すぐにバレる。



「そうだね。大人しく指輪を渡すことになるだろうね。結局は」



 でも多分痛めつけられるだろうと、今度はサトリにも判った。



「じゃあ 孤児院に大金を送ったのも?」



「人はねぇ。妬むんだよ。余りにも分不相応な幸運にはね。


 きっと孤児院の人たちがリゼを虐待していたことを、


 尾ひれをつけて言いふらすだろうねぇ。


 自分たちも見て見ぬふりをしていたのにさ」



「そうなると、さすがにセレスティア王国の役人も、


 そのまま放置もできないよねぇ。


 なにしろアストラル皇帝の愛する孫娘の話だしねぇ。


 しかも女王が御座船を貸し出すほど優遇しているわけだしね」



 何それ?貴族って怖いとサトリは身震いした。


 それなのに、ノアが更に追い打ちをかけた。



「位うちって言ってね。器じゃないものにあえて高位を授ける方法もある。


 まぁ、あっという間に没落することになるけどね」



「そうだね。だから貴族たちは功績をあげる時も、とても用心するんだ。」



 アーサーまで補足する。



「無邪気に自慢している奴がいると、安心するよね」


「あぁ、警戒しなくて済むからな」


「装っている場合もあるがな」


「それな」



 あーあーあー。聞こえない聞こえない。


 サトリが凹んだのでこの話はお終い。



 でもやっぱり聞かなきゃ。サトリは勇気を奮い起こす。


 サトリは姫として、未来のフィクトス公爵夫人として、


 ちゃんと勉強しておかないといけないのだ。愛するノアのために。



「女王陛下が言っていた、杭ってなんの話」



 みんな途端にげっそりした顔になった。



「だって俺は指示してないぜ。そんなヤバいこと。」



「叔父様がダメ元で仕掛けたんだろう」



 ダメ元が利く程度には、この国と友好関係にあるんだなぁと


 アーサーが感心する。



「だから何の話か聞いているんでしょうが!」



 とうとうサトリが切れてしまった。



「あのねぇ。お父様の異能なんだけど……」



 言いにくそうにリゼが話し始めた。



「お父様って、転移魔法が上手でしょう?


 で……お父様は転移門を作れちゃうの。


 まぁ一度自分で行かなきゃならないけどね」



「転移なら座標があればできるけど転移門はね」



「そもそも転移門とは何なの?」



 サトリが問い詰めると、リゼが少し申し訳なさそうな顔でいう。



「誰でも転移できる門のこと。そんなの自国に作られたら、


 いつでも攻め込まれるわけじゃない?」



「バカなの。あなたのお父様。本気でセレスティア王国に


 転移門作ろうとした訳?」



 サトリがさすがに驚いて叫んだ。



「転移門っていっても、条件は色々つけられるのよ。


 セレスティア女王が許可した場合のみとかさぁ」



 そんなもの、作った本人がいつでも変更できるだろうとサトリも思う。



 それはノアが青ざめて、リゼが平身低頭するわけだ。


 理由がわかってサトリも納得した。




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