試しの儀 前夜 皇帝レオニス私室
誘拐されたお姫様が孤児院で呪われた娘と馬鹿にされながらも、王女の地位を取り戻し、母を殺し自分を誘拐した犯人をスカッと退治しちゃうお話です。
皇都ルクセリア。
その皇帝の私室では、皇帝レオニス アストリア十三世と皇太子レオンが
必死になって大公をなだめている。
「シオン。我が大事な孫娘。そなたの一人娘リゼを5年もの間探し出せなんだのは我が落ち度。
申し訳なく思っているのだ」
「だがシオン。明日は試しの儀が行われる。
この世界にリゼが生きている限り明日には必ずリゼは見つかる」
そう口にした皇太子に大公シオン グランヴェイクは怒りをにじませる。
「兄上、いいえ皇太子殿下。殿下は我が娘が もはやこの世にいないと申されますか!」
シオン・グランヴェイク大公は普段は冷静沈着。決して感情を露わにすることはないはずなのだが。
「シオン シオン。たった二人の兄弟ではないか?
本来なら今も王子としてこの国を支えるお前が、
ただ娘を探したい一心で臣籍降下までしたのを黙って許したのも、可愛い姪のためだぞ」
「試しの儀は、不幸になる民を救うために 初代皇帝が決めた掟であった。
だがそれがために恨みを買い、シオンそなたの妻の命を失い、リゼまで誘拐されてしまうとは」
皇帝はしみじみと嘆いた。
アストラル皇国が誕生した理由。
それを知りたければ、魔力を持って生まれた者が魔女や悪魔として忌み嫌われ処刑されてきた歴史を
理解しなければならない。
初代皇帝は卓抜した魔力で砂漠で覆われた大陸の中にオアシスを作り上げ、
そこに魔力を持つ者たちを匿っただけである。
アストラルは高い山々に阻まれ、中央は死の砂漠 人の住める環境ではない。
そこまでして逃げた人々ですら、周辺国は許そうとはしなかった。
悪魔や魔女が住む国は異端であり、滅ぼすべきだと、一斉に襲い掛かってきたのだ。
だから民を守るために皇帝は攻めてきた国々を下し、すべての国をアストラル皇国の支配下においたのだ。 けっして支配欲や魔力を持たない者たちを差別したわけではない。
生き残るための選択だった。
試しの儀も同じだ。
アストラル皇国の支配下にあっても、人々の偏見は心の奥深く残っていた。
だから魔力を持った子が生まれたら、迫害されることが多かった。
ゆえに初代皇帝は子供が10歳になるときに、必ず試しの儀を受けさせると決めた。
魔力が顕現するのは、思春期に入ってからだ。
12歳~15歳ぐらいで魔力持ちは、その力に目覚める。
その前に、10歳になれば庶民の子供たちは働きはじめる。
多くは親方について学ぶか、家業を学ぶのだ。
しかし魔力を持つ子供なら、魔法について学ぶのが自然なことだ。
事実アストラル皇国では 子供たちは10歳から学校に行くことになっている。
そこで10歳の試しの儀では、魔力持ちの子供の魔力を強制的に顕現させる。
まだ自分で魔法を使うことはできないが、魔力を持つことが判るように。
試しの儀では、魔力持ちはその髪色が変化する。
魔力を持たない人々は、たいてい明るい薄い色合いの髪を持っている。
ピンク、水色、薄い黄色、黄緑色などそこは多種多様だ。
試しの儀をうけると、その髪色は深く色づく。
ピンクは燃えるような赤毛に。
水色は濃いブルーに。
黄緑は深い緑色に。
通常髪色が濃くなるほど魔力は多いとされている。
そうして髪色が染まった子供たちは無条件にアストラル皇国の国民となる。
親には多額の支度金が支払われるが、親子を引き裂くと考えて恨んでも仕方がない。
望めば親子ともどもアストラル皇国に受け入れるとしているが、それを選ぶものは稀だ。
そうしてアストラル皇国を悪と決めつけた狂信者が、
5年前、試しの儀でやってきた子供たちのために、ボランティアとして参加していた第2王子妃を殺し、
リゼを連れ去ったとされている。
その時狂信者たちは、子供たちの家族を装って第2皇子妃に近づいたのだ。
現場は一時大混乱に陥り、そのためリゼの捜索が遅れてしまった。
なにしろ第2皇子妃が刺されて重体だったため、人々の目は一瞬そこに集中した。
そして関係者全てがとらえられ尋問されたが、誰もリゼを知らないと言ったのだ。
確かに多くの人々が「姫をさらえ!」「姫を逃がすな!」と、叫んでいた声を聞いたというのに。
アストラル皇国はリゼが10歳になるとき試しの儀で、その正体が判明することを願っていた。
シオン・フォン・ グランヴェイク大公は、自分の配下を使い、
あるいは国王たちを脅すことまでしても娘が見つからなかったからだ。
シオンはやがて静かにほほ笑んだ。
「父上、兄上、申し訳ありません。試しの儀を前に、いささか心が揺らいだようです。
ええ、大丈夫です。リゼは強い子だ。
妻が守り切った子供なのです。きっと帰ってきます」
それは祈りの言葉のようだった。




