エピローグ ヒメのその後
守野姫は、この春に入学した帝都大学のカフェテリアから、外の景色を見つめていた。
受験という競争に打ち勝ち、頑張って合格した姫の、その瞳は将来への希望に満ちていた。
周りでは、学生達が楽しそうに話している。その学生達から、よく知っているワードが聞こえた。
「ねぇ、MDOやってる? あれって――」
姫の肩がピクリと跳ねた。『MDO』。自分が囚われていたそのゲームの名前には、未だに恐怖心があった。
「もう、あれから1年以上か……。キョウさんはまだあのゲーム続けてるのかな?」
姫にとっては、囚われていた自分を助けてくれた、『キョウ』という英雄ということになっている。
キョウの中に先師京介が囚われていたことなど、姫が知る由もなかった。
姫の耳には、ポヌルが必死に叫んでいた「京介」という名前が、なぜか「キョウすげぇ!」という称賛の言葉にしか聞こえていなかったのだ。
(猫の妖精なんだから、語尾に『ニャ』をつけて『キョウすごいのニャ』と言えばいいのに。キャラ作りが甘いわねポヌルちゃん)
姫は当時、そんな見当違いなダメ出しを心の中でしていただけだった。
「キョウさんには会いたいけど、もうあのゲームにログインする気にはなれないわね……」
姫がそう考えていたとき、視線の先を、モデルのようなスリムな美少女が通った。
黄金色の長髪に切れ長の瞳。そして、細い眉。
その完璧な美貌に、姫は戦慄した。見覚えがあった。あり過ぎたのだ。
姫の脳裏に、あの時、美少女になったラブリーが絶叫したセリフがリフレインする。
『こ、こんな!? どうして!? 現実と同じ姿になってる!? こんな姿、キョウ様に見せられないわ!!』
間違いない。あの時、「残酷な造形」とまで言われていた現実の姿そのままだ。
あれは、ラブリーだ。
「ラブリーちゃん?」
「あれ? もしかしてラブリー?」
近くに座っていた上級生らしき男の子が、姫とほぼ同時に、声を上げた。
2人の視線が交差する。
男の子の隣に座っていた友人の声が聞こえた。
「京介、急に大きな声出してどうしたんだよ?」




