閑話休題①: ゴキブリ生活の苦悩と楽しみ
「いやぁ…こんなに苦労することになるとは思わなかったよ…」
俺は、一息ついて地下の石の隙間に体を押し込んだ。暗い地下での生活にはすっかり慣れてきたものの、やっぱり生き延びるのは毎回命懸けだ。ちょっと休憩したい…そう思って隙間に入り込んだが、考えてみるとここ最近のことがあまりに濃密すぎた。
「だってさ、普通にサラリーマンやってたら、ゴキブリとして異世界転生するなんて思わないよな…しかも地下って、どうなってんだよ!」
最初にゴキブリとして目を覚ましたときの衝撃は、今でも忘れられない。自分の手が…いや、手じゃなくて脚が増えてるし、黒光りしてるし、触覚まで生えてるんだもん。転生って、もっとヒーロー的なものだと思ってたよ。勇者とかさ、剣士とか。俺がなんでゴキブリなんだって!
「でもまぁ、ここまで生き延びてきたのは、俺がやっぱり運が良いのか、それともゴキブリとしての本能が強いのか…」
そう考えると、ちょっと自分を誇らしく思うこともある。でも、そんな気持ちは一瞬で吹き飛ぶ。だって、こんなことが普通の日常になってるんだから…。
「まずね、この体。ゴキブリって思ったより機動力があって、狭い隙間をスイスイ通り抜けられるのは良いんだよ。でもさ、速く動きすぎて壁にぶつかることもあるんだ。何度か頭をぶつけた時は、『ゴキブリって、こんなにドジだったっけ?』って思ったよ。」
ゴキブリとしての生活は、想像以上に忙しい。何かに追いかけられるたびに走り出すけど、スピードが出すぎて自分がどこに向かっているのか分からなくなることがある。下手したら、また壁に頭をぶつけて「クソッ!」って叫んでるし。どうせなら、もう少し上品に逃げたいものだ。
「それにさ、食事。これがまた大変でさ、虫のゴキブリ食生活って想像以上にしょぼいんだよなぁ。」
最初は虫を食べるのに抵抗があったんだ。でも、生きるためには仕方ない。だから、頑張って昆虫を追いかけて食べたけど…その瞬間、気づいちゃったんだよね。
「これって、俺も食われる側じゃんか…」
昆虫同士の戦いって、想像以上に熾烈なんだ。俺が昆虫を追いかけて食べるように、俺もまた巨大な生物に追いかけられて食われそうになる。完全に食物連鎖のど真ん中にいるんだよなぁ…。
「いやいや、俺、転生する前はサラリーマンだったんだぞ? なんでこんな食物連鎖の底辺にいなきゃいけないんだよ…」
普通の生活では、食事ってもっと楽しみなものじゃないか。会社の帰りに居酒屋でビール飲んで焼き鳥食べるのが俺の唯一の楽しみだったのに、今じゃあ昆虫を捕まえて『いただきます』だもんね。焼き鳥を懐かしく思うこともあるよ。
「でも、まぁ、いいところもあるんだよな…」
そう、ゴキブリ生活も悪いことばかりじゃない。再生能力だってその一つだ。少し傷ついてもすぐに回復する。前はネズミ族に襲われたけど、あの時も再生能力のおかげで何とか助かった。
「痛い目に遭ってもすぐに回復できるって、これってヒーローじゃね?」
いや、ゴキブリだけどさ…。でも、これは正直、ちょっとカッコいいと思うんだ。まるでゲームの『回復ポーション無限』状態。多少のダメージなんてへっちゃらさ。おかげで、俺も命がけのサバイバルをちょっとは楽しんでる自分がいる。
「あ、あと、ゴキブリとしてのもう一つの特権――隠れる能力!」
ゴキブリって、何でもかんでも隠れるのが得意なんだよね。狭いところにサッと潜り込んで、敵から逃げる。これが意外と役に立つんだ。ムカデだろうがスケルトンだろうが、俺が隠れてしまえば追いつけない。
「しかも、隠れてる間にちょっとサボれるのがいいところだよな…」
隠れながら敵の様子をじっと観察して、あっちが飽きるまで待ってからまた動き出す。この地下の厳しい生活の中でも、ちょっとした「休憩タイム」ってやつだ。人間の時には、会社のトイレに籠ってサボるのが得意技だったけど、今ではそれが進化して「ゴキブリ隠れ技」になったわけだ。
「いやぁ、こうして考えると、ゴキブリも意外と悪くないかもしれない…いや、やっぱり悪いか。」
でも、こうして自分のゴキブリ生活を振り返ると、なんだかんだで俺はこの地下で少しずつ生き延びるコツを掴んできたんだと思う。苦労もあるけど、ちょっとした楽しみや面白い発見もある。もう少しこの生活を続けていれば、もしかしたら本当に地下の王者になれるかも?
「ま、まずは生き延びてからだけどな。」
俺はそんな風に考えながら、狭い隙間から外を覗き、また次の冒険に向けて体を動かし始めた。ゴキブリとしての生活はまだまだ続く――でも、案外楽しいかもしれない。少なくとも、サラリーマン時代よりは、少しだけ自由な気がするんだよな…。