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守護虫を起こすな

かりかりかりかりかりかりかりかり――!


 古代扉の向こうで、何百本もの脚が一斉にこちらを向いた。


『浄化準備、第二段階。保守虫群ヲ起動シマス』


「多数決が通じないなら逃げる! 今度こそ逃げるぞ!」


「クロが言うと信用できない!」


『私も同感だ! 言いながら扉へ近づいている!』


「違う、脚音を確かめてるだけだ! 身体は逃げたがってる! 心と触角が少しだけ前へ――分かった、下がるから二匹で引っ張るな!」


 チュウタの尻尾が俺の胴へ巻きつき、先生の骨の手が背中をつまんでいる。


 二匹が同時に引いた。


 俺は六本脚で空中を掻きながら、扉から一匹分離された。


「扱いが完全に危険物なんだよ!」


「勝手に動く危険物だろ」


『正確な分類だ』


「二人とも遠慮がなくなりすぎじゃないか!?」


 扉の青い紋様は、心臓のようにゆっくり明滅している。


 内部の脚音は激しい。


 だが、扉へ何かが衝突する音はない。


 黒い刃も出てこない。


「……おかしくないか?」


『何がだ』


「何百匹もこっちへ来たなら、もう隙間から出てきてもいい。なのに脚音だけだ」


「罠じゃない?」


「俺たちを安心させて、中へ入ったら一斉に食うとか?」


『機械虫にそこまで意地の悪い知恵があるとは思えないが、否定はできんな』


「先生、自分が守ってた設備だろ。もう少し設計者を信じてやれよ」


『設計者は私ではない! それに、三十年前の私を含めて扉へ近づいた者が皆死んだのだぞ。安全思想にはかなり疑問がある!』


 俺は床へ腹をつけた。


 音を耳ではなく、六本脚で拾う。


 かり、かり、かり。


 細い震えが短い間隔で往復している。


 こちらへ直進しているのではない。


 同じ場所を行き来し、何かを削っている。


「歩いてるんじゃない。作業してる」


「何を?」


「分からない。でも保守虫って名前なら、壊れた設備を直してるんじゃないか?」


 試すため、一歩だけ扉へ近づく。


 かりっ。


 内部から一度だけ返事。


 二歩。


 かり、かりっ。


 三歩。


 かり、かり、かりっ。


「真似されてる!」


「保守虫って、クロと同じくらい暇なの?」


「俺は暇じゃない! 昨日から食料、水、脱皮、骨拾い、魔法、病人対応で予定が詰まりすぎてる!」


『これは位置測定だ。床の振動を数え、外部魔力がどこにいるか守護虫本体へ伝えている』


「警備まで兼任する作業員か。働き者だな」


『感心している場合か。床を歩けば居場所が伝わる』


「なら、床を歩かなければいい」


「飛ぶの?」


「飛べたら苦労しない!」


 背中の翅らしきものへ力を入れる。


 片方だけ、ぱかっ、と浮いた。


 三匹で見つめる。


 何も起きない。


「……今のは準備運動だ」


「飛べてないよ」


「分かってる! 本人が一番悔しいんだから言うな! 壁と天井を使う。俺は足音を殺して進める。チュウタには布と苔の道を敷く」


『私は?』


「先生は歩くたび、骨がカラカラ鳴る」


『私だけ参加資格なしと言うつもりか?』


「違う。身体を外し、一本ずつ運ぶ」


『昨日の感動的な再生を何だと思っている!』


「全員で入って、全員で帰るって約束しただろ。頭だけ外で待てなんて言わない。多少荷物っぽくなっても我慢しろ」


『“多少”で済む姿か?』


「前に歩く骨董品店を経験しただろ。二回目は上手くやれる」


『慣れたくない!』


 まず内部へ入る道を作る。


 扉下部の左管はクロだけが通れる。


 その横にある四角い保守口は、泥と小石で半分埋まっていた。チュウタが前脚を入れられる幅だ。


「ここを掘る。土魔法の練習にもなる」


「自分の真下へ使うなよ。第三条だ」


「分かってる!」


 チュウタは鼻と髭へ意識を集め、前脚を泥へ置いた。


「動け……僕の下じゃなく、前へ! 少しでいいから前へ行け!」


 こ、こっ。


 泥の中の小石が二粒動く。


「今のは魔法だ!」


「喜んで跳ねるなよ!」


 チュウタは上げかけた後脚を、そっと戻した。


「危なかった。前回と同じ失敗をするところだった」


『学習している。教師として誇らしいぞ』


「俺の第三条だから、俺も褒めろ」


『自分から要求するものではない』


「誰も褒めてくれないから言ってるんだよ!」


 土魔法だけでは遅い。


 チュウタの爪で大きな泥塊を掘り、俺が小石の隙間へ入り込んで内側から崩す。


 先生は古代文字を読む。


『ここに“保守従事者専用”とある。生体反応を抑えた者だけ通行可能』


「生体反応をどう抑える?」


『白い粉が使われていた可能性がある』


「触るなって言ってたやつじゃないか!」


『まだ使うとは言っていない。別の方法を探す』


 保守虫は床の震動と魔力を探す。


 足音は布と苔で消せる。


 魔力は、古い炭と湿った泥が遮ると先生が思い出した。


 俺たちは古布へ炭粉を挟み、外側へ薄い泥を塗った。


「隠密布一号」


『今回は分かりやすい』


「頭からかぶるの?」


 チュウタが布を広げる。


「そうだ。床へ敷く分と、身体へかぶる分を――」


 チュウタが頭から布をかぶった。


 前が見えなくなり、そのまま水路へ歩く。


「そっちは水だ!」


 ぽちゃんっ!


「冷たあああっ!」


 俺と先生で尻尾を引き、びしょ濡れのチュウタを引き上げた。


『生体反応は隠せても、視界まで隠しては意味がないな』


「最初に穴を開けろって言ってよ!」


「自分でかぶったんだろ!」


 二号は目と鼻の位置へ穴を開けた。


 俺の分は身体が小さいので、前脚へ炭泥を薄く塗るだけにする。


「これ、ものすごくゴキブリらしい汚れ方じゃないか?」


「いつもとあまり変わらないよ」


「俺はもっと艶がある! 脱皮したての黒さを雑に扱うな! 前世なら身だしなみ注意で始末書だぞ!」


「今の職場、始末書を出す相手がいないよ」


「それはそれで寂しい発見だな!」


 保守口が開いた。


 先生の身体を外す。


 腕、脚、肋骨、骨盤、背骨。


 古布で一つずつ包む。


『確認するが、私の頭は誰が運ぶ?』


「チュウタ」


「籠に入れて背負う」


『ほかに選択肢は?』


「転がす」


『籠で頼む』


 俺が先に保守口へ入る。


 腹へ細縄。


 一回は安全。


 二回は部品。


 三回は回収。


 四回は緊急。


 昨日の失敗を受け、長く一回引けば“動くな”も追加した。


「合図は増やしすぎると混乱するぞ」


「クロが中で足りないって怒ってたから増やしたんだろ!」


「前回は足りなかった。今回は覚えられないかもしれない。難しいな、合図!」


『迷ったら三回、戻れ。それだけは忘れるな』


「了解」


 管のように狭い保守路を進む。


 背中と腹が同時に石へ触れる。


 人間なら肩すら入らない。


 チュウタにも無理。


 俺の薄い身体だけが、泥の隙間を滑っていく。


「ゴキブリ専用通路だな」


「もともとは保守虫用だよ」


 外からチュウタの声。


「少しくらい夢を持たせろ!」


 途中で一匹の保守虫と出会った。


 豆粒ほどの黒い甲虫。


 背中へ青い紋様。口元には針のような器官。


 俺の顔へ触角を伸ばす。


「作業員さん、お疲れさまです。こちらも修理業者です。無許可なのは認めますが、目的は同じなので穏便に――」


 針が伸びた。


「会話する気がない!」


 身体を天井へ押しつける。


 針が腹の下を通過した。


 保守虫は床へ落ちた炭粉を異物と判断したらしく、そちらへ向きを変える。


 小さな前脚で炭を集め、壁の穴へ運び始めた。


「敵じゃない。掃除してるだけか」


 クロ自身が汚染源と判断されたら刺される。


 しかし、壊れた箇所とゴミへ先に反応する。


 利用できる。


 俺は管内の小石を一つ蹴り、保守虫の横へ落とした。


 かつんっ。


 保守虫が小石へ向かう。


 その隙に背中すれすれを通り抜けた。


「こちらクロ。作業員一匹を通過」


「声が届いてるなら縄いらないんじゃない?」


「今は届く! 奥で届かなくなるかもしれないだろ!」


 保守口の内側へ出る。


 天井の高い石室。


 中央に透明な巨大水槽。


 青い水が静かに揺れ、太い管が四方へ伸びている。


 水槽の横には黒い守護虫本体。


 俺の何十倍もある甲殻。


 金属刃の前脚を折り畳み、赤い目は閉じている。


 床では、保守虫が列を作って歩いていた。


 十匹ずつ。


 十匹のあとに短い間。


 また十匹。


 規則正しい黒い川が、水槽の裏まで続く。


「数が多い。でも全員、修理場所へ向かってる」


 左管の継ぎ目へ群がり、泥を削る虫。


 中央管の外れた固定具を押す虫。


 白い物質で塞がれた右管には、一匹も近づかない。


 先生の頭を背負ったチュウタが、保守口から入ってくる。


 隠密布で足音はほとんどない。


「重い……先生、本当に頭だけ?」


『知識が詰まっているからな』


「物理的には空洞だろ!」


 俺たちは保守虫の列が途切れる場所へ、先生の身体を一本ずつ運び込んだ。


 最初に右脚。


 次に左腕。


 順番がばらばらになり、先生が籠の中で怒る。


『骨盤を先に置け! 背骨を地面へ直置きするな! 右腕はどこだ!』


「静かに! 守護虫を起こすなって先生が言ったんだろ!」


『自分の身体を雑に積まれれば誰でも抗議する!』


「先生、口を閉じても喋れる?」


『無理だ!』


 保守虫の列が近づく。


 俺はあえて、反対側へ小石を二つ転がした。


 かつ、かつんっ。


 黒い川が一斉に向きを変え、そちらの清掃へ向かう。


「今だ。組み立てる!」


 チュウタが骨盤と背骨をつなぎ、俺が縄を締める。


 先生自身の指示で左右を確認する。


「右腕!」


「これ!」


『それは左だ!』


「声を抑えろ!」


『間違えたのは君たちだろう!』


 三十年ぶりの再組み立てよりは早い。


 先生が立ち上がる。


『よし。まず制御文字を読む』


 三匹の役割がようやくそろった。


 水槽から外へ伸びる管は三本。


 左は給水管。


 中央は排水管。


 右は白い物質で封じられた浄化材管。


『右には触れるな。“浄化材、濃縮保管”とある』


「白い粉の管か」


『おそらく。今日直すのは左と中央だけだ』


「三本目は?」


『水槽上部の細い管。魔力を循環させる制御管だ。水を流した後で接続する』


「結局三本全部じゃないか!」


『右の白管とは別だ。文句を言うな』


 最初は左の給水管。


 接続用の金属輪が床へ落ちている。


 クロには重すぎる。


 チュウタが運ぶしかない。


 しかし保守虫の列が、金属輪と管の間を横切っている。


「十匹ごとに間がある。俺が振動を作って反対へ誘導する。チュウタは輪を運ぶ」


「先生は?」


『接続角度を読む。輪の青線と管の刻印を合わせなければ、水圧で外れる』


「よし。三匹とも仕事がある」


 俺は壁を走り、反対側の棚へ登った。


 空の金属皿へ小石を落とす。


 カァンッ!


 甲高い音が石室へ響いた。


 保守虫が一斉に向きを変える。


「音が大きすぎる!」


「俺もそう思った!」


 守護虫本体の赤い目が、薄く一度点滅する。


 三匹とも凍りつく。


 再び消えた。


「危なかった……チュウタ、今!」


 チュウタが金属輪へ両前脚をかける。


「重っ! これ、パンの十倍あるぞ!」


「食える物で重さを測るな! 押せ!」


「食えない物を運ぶの、やる気が出ない!」


「水が出たらパンを柔らかくできる!」


「うおおおおおっ!」


「急に力が増えた!」


 金属輪が床を擦る。


 ぎ、ぎぎぎっ。


 保守虫の何匹かが音へ気づき、戻り始める。


 俺は壁から降り、輪の下へ小石を入れた。


「少し浮いた! もう一押し!」


 チュウタが押す。


 先生が管の刻印を見る。


『右へ半回転!』


「どっちから見て右!?」


『私から見てだ!』


「先生がどっちを向いてるか分からない!」


「時計回り!」


「時計がないよ!」


「もう少し向こうだ!」


「最初からそう言え!」


 三匹で輪を回す。


 青い線が重なる。


 カチンッ!


 接続具が給水管へはまった。


 保守虫たちがすぐ周囲へ集まり、隙間へ青い樹脂を塗り始める。


「手伝ってくれるのか」


『壊れた箇所を直すのが役目だ。我々を敵と判断しなければ、有能な作業員だ』


「だったら最初から“修理に来ました”って札を出せれば楽なのに!」


『札を読める相手ではない』


 二本目は中央排水管。


 詰まった小石を外から押し出す必要がある。


 クロが細い隙間へ潜り、内側の泥を掻く。


 チュウタが外側から木棒を押す。


 先生が魔力の流れを読み、押す角度を指示する。


「上へ少し!」


「このくらい?」


『違う、そこは水槽側だ!』


「先生とクロで指示を統一して!」


「俺は物理の位置、先生は魔力の位置だ!」


「一度に二つ言われても分からないよ!」


 木棒が俺の尻を押した。


「そこは俺だ! 管じゃない!」


「暗くて見えないんだよ!」


 文句を言いながらも、少しずつ泥が動く。


 最後の小石が抜けた。


 ゴボッ!


 腐った水が一気に噴き出した。


「うわっ!」


 俺は黒い水と一緒に管から飛び出し、先生の肋骨へ頭から入った。


『私を排水籠にするな!』


「好きで入ったんじゃない! 水圧だ!」


 腐水の匂いへ保守虫群が殺到する。


 黒い波が俺たちへ迫った。


「逃げる?」


『待て。あれは我々ではなく汚れを回収している』


 保守虫は腐水を小さな器官へ吸い込み、壁の廃棄穴へ運ぶ。


 何百匹もの作業で、床の臭いがみるみる薄くなった。


「すごいな。こいつらを味方にできたら、ネズミの巣も掃除してくれるか?」


「みんな怖がるよ」


「俺も同じことを言われたな」


 少しだけ胸が痛んだ。


 だが今は、保守虫が壊す存在ではなく直す存在だと分かった。


 俺だって行動で示せば、少しずつ変わるかもしれない。


「二本目、接続完了!」


 左給水管から透明な水が水槽へ入る。


 中央排水管から濁った古水が外へ流れる。


 水槽の色が、暗い青から澄んだ水色へ変わっていく。


 先生の眼窩が明るくなった。


『動いている。三十年前の設備が、また動いているぞ』


「まだ喜ぶな。最後の制御管がある」


『君に言われるとは思わなかった』


「俺も学習するんだよ!」


 水槽上部の細い制御管。


 接続位置は、眠る守護虫の背中のすぐ上だった。


 ここだけは床から作業できない。


 クロが壁を走り、上から管を支える。


 チュウタが長い木棒で下から押す。


 先生が青い刻印を合わせる。


「絶対に落とすなよ」


「クロこそ滑るなよ。落ちたら守護虫の背中だぞ」


『二匹とも声を抑えろ。赤い目が先ほどから薄く光っている』


「先に言ってくれ!」


『言えば余計に騒ぐだろう!』


 管を持ち上げる。


 重い。


 俺の六本脚が壁を滑る。


「チュウタ、少し右!」


「このくらい?」


「行きすぎ!」


「さっきもこの会話したぞ!」


『青線まであと指一本!』


「先生の指は大きすぎる! 俺基準で言え!」


『クロ半匹分だ!』


「それは分かりやすいけど腹が立つ!」


 保守虫の列が近づいてくる。


 俺は触角へ魔力を集めかけた。


『火花は禁止だ。ここで雷を出せば守護虫が完全に起動する』


「分かってる。でも虫が――」


「僕がやる!」


 チュウタが木棒を片手で支えたまま、尻尾で小石を弾いた。


 かつん、からからからっ。


 保守虫群が小石へ向きを変える。


「器用だな!」


「パンを運びながら逃げた経験が役に立った!」


「盗んだ話を誇るな!」


 最後の青線が重なる。


「今だ、押せ!」


 三匹の声が重なった。


 チュウタが木棒を押し上げる。


 俺が六本脚で管を支える。


 先生が骨の指から青い魔力を流す。


 カチ……。


 管の先端が接続口へ入った。


「入った!」


「やった!」


『まだだ、固定輪を――』


 俺とチュウタが同時に力を抜いた。


 固定されていない管へ、水槽の圧力が流れ込む。


 管が大きく膨らんだ。


「え?」


『押さえろおおおおっ!』


 遅かった。


 バギィンッ!


 制御管が接続口から外れ、鞭のように跳ねた。


 青い水が横向きに噴き出す。


 ドバアアアアアッ!


 水圧が俺を壁から剥がし、チュウタの木棒を弾き、先生の上半身を吹き飛ばした。


「うわあああっ!」


 俺は水流に巻かれ、何度も回転する。


 噴き出した管の先が、眠る巨大守護虫の額へ直撃した。


 ゴギィンッ!


 黒い甲殻が大きく揺れる。


 二つの赤い目が、完全に開いた。


『侵入者、確認』


 低い声が石室全体を震わせる。


『生体三。未登録。汚染源ト判定』


「三匹とも数えられた!」


「登録方法なんて知らないよ!」


『私も思い出せない!』


「全員役に立たない!」


 守護虫が立ち上がる。


 折り畳まれていた八本の脚が床へ伸び、金属刃の前脚が左右へ開いた。


 保守虫群が作業を止め、俺たちの周囲へ円を作る。


『浄化対象ヲ隔離シマス』


 背後で古代扉が動いた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 チュウタが保守口へ走る。


「閉まる!」


「先生を拾え! 上半身は左、脚は右!」


『私を方向で呼ぶな! 頭はここだ!』


 俺たちは散らばった先生の骨を集め、扉へ向かった。


 だが石扉の隙間は、みるみる狭くなる。


 先生の腕を一本外へ投げる。


 チュウタが頭蓋骨を抱える。


 俺は最後の脚へ縄を結ぶ。


 間に合わない。


「クロ、先に行け!」


「全員で帰るって約束しただろ!」


「でも――」


「約束は変更しない! 先生の骨も一本残らず持っていく!」


『私の腕一本は、もう外だ!』


「それは後で拾う!」


 ズズゥンッ!


 巨大な石扉が閉じ切った。


 最後の青い光が線になり、消える。


 俺、チュウタ、先生の頭と大部分の身体は、古代石室の中へ取り残された。


 外へ出たのは、先生の右腕一本だけ。


 目の前には、完全に目覚めた巨大守護虫。


 周囲には何百匹もの保守虫。


 制御管からは青い水が噴き続け、床が少しずつ水没している。


『侵入者。汚染源。排除シマス』


 黒い刃が持ち上がった。


「……先生」


『何だ、クロ』


「授業で、“守護虫を起こすな”って言ってたよな」


『言った』


「完全に起きたぞ」


『見れば分かる』


「次の授業は?」


 先生の眼窩が青く燃える。


『最弱三匹の、脱出戦だ』


 守護虫の刃が、俺たちへ振り下ろされた。

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