地下の環境と危険性
「なんだこの匂い…!」
湿った地下の空気に混ざる腐敗臭が、俺の鼻を刺激する。いや、正確には触角なんだろうけど、今はそんなことどうでもいい。とにかく、この地下世界がどれだけひどい場所か、俺のゴキブリとしての本能がビンビンに警報を鳴らしていた。
「俺、なんでゴキブリになっちゃったんだっけ…?」
思い返すと、まず思い出すのは、娘を庇って車に跳ねられた瞬間だ。あれはもう、ヒーローばりの反射神経だったと思うんだよな。でも、その代償がこれ? ゴキブリ転生? しかも地下迷宮? 勘弁してくれよ、マジで…。
「まさか、異世界転生でゴキブリとか、どう考えてもおかしいだろ!」
俺は自分の黒く光る足を見ながら、ため息をついた。しかも、こんな地下迷宮に送り込まれて、いったい何が楽しいってんだ? ゴキブリとして生きるってだけでもキツいのに、地下には魔物とかいうオマケまでついてくるらしい。
「これ、完全にハードモードじゃねぇか!」
俺が愚痴っている間にも、どこか遠くからまたカサカサと不気味な音が響いてくる。蜘蛛やらネズミやら、いや、もっと大きなやつだっているんだ。全員が俺を餌だと思ってるんだから、そりゃ命懸けの毎日になるに決まってる。
「さて、愚痴はここまでにして、まずは生き延びないとな…」
俺はそう自分に言い聞かせ、地下の薄暗い通路を進み始めた。見渡す限り、どこまでが迷宮の一部で、どこまでが廃墟かもわからない。壁には苔やカビが生い茂り、足元は湿気で滑りやすくなっている。いくらゴキブリといえど、足を滑らせて転んだりしたらシャレにならない。
「これじゃ、いっそリアルダンジョン探索ゲームじゃねぇか!」
まるでゲームのダンジョン攻略みたいな雰囲気に、俺は少しだけテンションが上がった。もちろん、実際に命懸けってことを忘れなければだけど…。
捨てられた物資、探検スタート!
しばらく歩くと、崩れた木箱やら古びた道具やらがあちこちに転がっている場所に出た。どうやら、誰かが昔ここで何かをしていたらしい。地下っていうより、倉庫みたいな感じだ。俺は好奇心に駆られて、その古びた木箱を覗き込んだ。
「お、なんか使えそうなものでもあるか?」
……結果、腐った布切れと錆びた金属片しか見つからなかった。いや、ゴキブリとしてはこういうゴミの山に囲まれてるのが自然なのかもしれないけど、人間だった俺には「腐った布」を使って何かできるスキルなんてないんだよ。
「もうちょっと役立つアイテムとか、落ちてねぇかなぁ…」
せめて何かの武器とか、冒険者っぽいアイテムがあれば、少しはテンションも上がるんだけどなぁ。ゴキブリの俺にとっては、まともに戦うなんて無理だからな。あ、そうか、これってやっぱり「隠れるか逃げるか」だけが俺の生存手段ってことか…。
巨大な脅威、襲来!
そんな無駄なことを考えていると、遠くからまた鈍い音が聞こえてきた。今度はでかい、確実にでかい奴だ。蜘蛛やネズミみたいなレベルじゃない。地面が微かに震えてるのが、俺の触角を通じて伝わってきた。
「ちょ、ちょっと待て!なんか嫌な予感しかしねぇ!」
俺は慌てて近くの廃材の陰に身を潜めた。覗き込んだ隙間から見えたのは、異形の魔物――でっかい虫のような姿で、赤く光る目と鋭い爪を持っている。
「ヤバい、ヤバすぎる!こんなのに見つかったら、俺、一瞬でお陀仏だ…!」
息を潜め、体を小さく丸める。自分がゴキブリだという現実をここで初めて本気でありがたく思った。普通の人間だったら、こんな狭い隙間に隠れられなかっただろう。ゴキブリ万歳!と言いたくなるほどの、この身体能力。
「ゴキブリに転生して良かったなんて、これっぽっちも思ってねぇけどな!」
魔物はしばらく周囲を嗅ぎ回っていたが、俺の存在には気づかずに去っていった。ほっと胸を撫で下ろすが、これで安心できるわけじゃない。この地下世界には、俺みたいな小物を餌にする奴がまだまだいるに違いない。
「はぁ…ここって本当に、魔物の巣窟なんだな…」
地下の危険と、生き延びるための戦略
魔物が去った後も、俺はさらに慎重に歩を進めた。周りには、他にもたくさんの生物たちがいる気配がある。地下の広大な迷宮には、さまざまな種類の魔物や生き物が住んでいるようだ。
「こんなところでサバイバルなんて、正気の沙汰じゃねぇよ!」
でも、俺には生きるための選択肢がほとんど残されていない。まずは、安全な場所を探さないと…いや、それ以前に食料だ。ゴキブリとしての俺の体は、すでに腹の底から空腹を訴えている。何か食えるものを見つけないと、ゴキブリと言えども飢え死にしちまう。
「まずは、食料探しだ!」
俺は再びトンネルを進み、何か食べられそうなものがないか探し始めた。ゴキブリとしては、腐ったものでも十分な食料になるんだろうけど、できればもう少しマシなものがいいなぁ。
「せめて、カップラーメンの残り汁とか…いや、ラーメンの残り自体がないか。」
そんな淡い期待を胸に、俺は腐敗した木箱や捨てられたゴミの山を覗き込んでみたが、そこにあったのはただのカビの塊。いや、カビもゴキブリ的には食べられるかもしれないけど、俺の心がそれを拒否してる。
「くっ…異世界で転生したってのに、この仕打ちはねぇだろ…!」
地下の謎、そして生き延びる覚悟
この迷宮には、ただ捨てられた物資や魔物がいるだけじゃない。おそらく、ここにはもっと大きな謎が隠されているんだろう。廃墟と化した場所や、朽ち果てた石碑を見ると、かつてここが何か重要な場所だったことは明らかだ。
「でも、俺にとって大事なのはそんな謎解きじゃないんだよ!」
俺はゴキブリとして、まずは今日を生き延びるための策を練る必要がある。ゴキブリとしての能力をうまく活かせば、もっと効率よく隠れたり、逃げたりできるはずだ。
「よし、まずは作戦だ!」
俺は小さなゴキブリの脳で必死に考えを巡らせ、この地下迷宮でどうやって生き残るかを考え始めた。そう、俺はただのサラリーマンから、今や異世界のサバイバルエキスパートゴキブリにならなくちゃならないのだ。
「この世界で俺は…生き延びてやる!」