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2050  作者: 落川翔太
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19

 夜八時ごろ、真平は帰りにスーパーで買い物をして、自宅に帰り夕飯を食べようとしていたところだった。その時、ちょうど自宅の電話が鳴った。

 誰だろうと思ったが、真平はとりあえず出ることにした。

「はい、永尾です」

 真平が応えると、「警視庁の沢村です」と、聞き覚えのある声だった。

「沢村さん? 急にどうしたんです?」

「永尾さん、夜分遅くにすみません。少し前に、ちょっとした事件がありましてね……。今から警視庁に一度戻ってきていただきたいんです」

「今からですか?」

「はい」

「仕事ですか? 仕事ならまた明日で……」

「いえ、仕事ではないです。田宮さんがおりまして、彼女が永尾さんにお話ししたいことがあるそうで……」

「田宮さんが?」

「ええ、そうです!」

 真平は今日の夕方のことを思い出す。彼女は六時前に先約があると言って、先に帰ったのではなかったか。なぜ今、田宮さんが警察署にいるのか訳が分からなかった。けれど、彼女に何かがあったには違いないのだ。

「分かりました。すぐ伺います」

 真平はそう言って電話を切ると、脱いだ制服に着替えてすぐに家を出た。

 それから、五分ほど歩いて、真平は警察署に着いた。

「あ、永尾くん!」

 入り口付近にいた沢村さんに声を掛けられた。彼は捜査第一課である。それから、生活安全課の大塚巡査部長と、同署の吉田巡査もいた。

「沢村さん、田宮さんはどこにいるんです?」

 真平は沢村さんにそう訊いた。

「彼女なら、面会室にいるよ!」と、彼は言った。

「面会室? どうして?」

「いいからすぐに行ってほしい!」

「分かりました」

 真平はそう返事をして、言われた通り一階にある面会室へ走った。

 面会室の前に着き、ノックしてその部屋に入ると、向かいの部屋に田宮さんがいた。彼女は椅子に座っている。

「真子さん!」

 真平は真子を見て言う。

「真平さん! 来てくれてありがとう」

 彼女は泣きそうな顔で言った。

「どうしたの? 話って?」

 早速、真平が訊いた。

「実は……」と、彼女が口を開いた。

 彼女は真平に河野さんと会っていたことを話し、彼と飲んでいたことを明かした。それから、そこで彼に復縁の話をされて、その後彼から結婚を申し込まれたので、断ったら彼が引いてくれず口論になった末、その時、ついポロっと「日本語」を言ってしまったことを白状した。

「うそ……」

 その話を聞いて、真平は驚いた。

 まさか彼女が「日本語」を喋るとは思わなかった。彼女のその話に、真平はショックを受けた。

「じゃあ、真子さんも処刑ってこと……」

 真平が呟くように言った。

「ええ……」

 彼女は俯いたまま呟くように言った。

「そんな……」

「真平さん、ゴメンナサイ。私が馬鹿だったの! 今日、彼に会わなければ、こんなこと起こらなかったはずなのにね……」

「…………」

「いや、断ったとしても、いつかは会っていたわけだし、結局こうなる運命だったのかもしれないわ……」

 真平は押し黙る。

「……真平さん、来てくれてありがとう。私、こんなことを言うつもりじゃなかったの! 本当は……本当は、真平さんのことが好きなの! 大好きなの!!」

 田宮さんが言った。

「うん、僕も……」

「ねえ、今から結婚式を挙げない?」

 彼女が突拍子のないことを言う。「もう遅いかしら? ……死ぬ前に、真平さんと結婚式を挙げたかったわ! もう無理よね……」

「…………」

 真平は何も言えなかった。

「真平さんに一つ言いたいことがあるの」と、彼女が言った。

「何?」と、真平は訊く。

「私と付き合ってくれてありがとう! 愛してくれてありがとう。真平さん、大好きです……」

 さよなら、と言って彼女は椅子から立ち上がり、向かい側の部屋の扉から出て行ってしまった。

「僕も……。僕も、真子さんのこと大好きだ!」

 真平も大声で叫ぶ。「行かないでくれ! 真子さん! 真子!!」

 真平の目には大粒の涙が零れていた。

 大好きだった。彼女のことを愛していた。

 結婚したかった。彼女と。

 けれど、真平は彼女ともうお別れしなくてはならなかった。

 日本社会にあらたにできた制度。日本語の使用によって、人々は処刑される。

 そんな狂った制度はやはりおかしい!

 どうして、日本語を排除しなくてはならないのか。

 日本の英語力がごみくずだから?

 そんなことで、わざわざ日本語を禁止にして、何の意味がある!

 これまでに過去様々な議論は重ねられたが、それは堂々巡りだと言われ、結局、強行突破という形で、その制度が実施されてしまった。

 これまでに一億人以上もの日本人たちが苦しめられた。

 その制度によってだ。

 おかしい。おかしすぎる。

 いや、おかしいのではなく、間違いなのだ。間違っていたのだ!

 愛する人を失う悲しみ。将来への不安。


 気が付くと、真平は自宅へ戻っていた。

 両親を失い、大好きだった彼女とも突然別れることになった。明日にはもう彼女もいなくなってしまう。

 真平は一人になってしまった。

 リビングのテーブルには、一時間前にスーパーで買ったお弁当や総菜が置いてあった。それは、真平のその日の夜ご飯であった。

 しかし、真平は今、それらを食べる意欲もなかった。

 真平はソファで体育座りをする。頭の中で、今までのことが走馬灯のようによみがえってきた。

 両親の顔、署長の顔、部長の顔、田宮警部の顔と田宮さんの顔。それから、草間や友人たちの顔を思い出し、悲しくなる。

 皆、死んでしまったのだ。皆、「日本語」を喋ったばっかりに。

 それなのに、まだ自分だけ生きていた。

 真平は今まで「日本語」を喋らずに生き続けていた。真平にはそれが不思議で仕方なかった。どうして自分だけ生きているのだろうと真平は思った。

 これ以上生きていても意味はないのじゃないか。

 自分も死のう、と真平は思った。

 真平はソファから立ち上がり、ベランダの窓を開けた。そこから飛び降りようと考えたが、それだと面白くないと真平は思った。

 それから、制服のポケットに拳銃があることを真平は思い出した。それで自害してもいいと思ったが、それもつまらないなと感じた。

 死ぬとなると、案外難しいと思った真平は、その時、一つの案が閃いた。

「やっと終わったか!」

 真平は窓の外に向かって大声で「日本語」を叫んだ。

 すると、外にいた何人かの人達がこちらを見た。

 あ、言ってしまった。

 真平はそう気づくと、無意識にスーツのポケットから拳銃を取り出し、こめかみのところへ当てる。すぐに引き金を引いた。

「パーン」という発砲音と共に、血が噴き出すのが真平には分かった。

 それから、真平はその場に倒れ、同時に意識が朦朧としてきた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます。


本作品は、もしある日、日本で日本語が廃止されたら、我々日本人はどうなってしまうのか?

公用語が「英語」になったらどうなるのか?

もし、本作品の様に日本語を喋ると、処刑されるような社会になってしまったら、私たちの生活はどうなってしまうのか?

といったテーマを元に、想像を膨らませ、書いてみました。

タイトルの2050は、ジョージ・オーウェルの『1984』をヒントに付けました。(実際に、その作品を読んだことはありませんが、XのTLでよく見かけていたのです)


もしこんな社会になったら、私だったら、嫌だと思います。皆さんはどうお考えでしょうか?

実際に、過去にはアイルランドでアイルランド語から英語に切り替わるという事例もあったようです。(『英語という選択ーーアイルランドの今』 嶋田珠巳著)


そういや、全ての会話は英語だったにもかかわらず、皆様、よくここまで読めましたね(笑)

え? 全部日本語だったって? 

いやいや、会話は全部英語です! 読みやすくするためにわざと「日本語」に翻訳しているだけです。

読みながら、英語が聞こえていたら、もうその世界に入り込めたことでしょう。


もう一つ、この作品には私の大好きな四人組のアーティスト・ケツメイシのメンバーが隠れていたのです! お気づきになった方おられますか? お気づきにならなかった方は、ぜひ探してみて下さい。


改めて最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。

感想やレビュー、評価などもお待ちしております。

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