懺悔
フラットは母の墓前で立ち尽くしていた。
風が草を揺する音だけが響いている。
おもむろに右手の平を見る。剣とペンのタコがある。フラットは少し顔を歪ませた。
「母さん、僕は人殺しになってしまったよ。自分の為、仲間の為、弟の為……相手が生命を奪いに来る悪人だから。……でも本当にそれで良いと思う?」
返ってくるはずもない答えを待っている。
この悩みを打ち明けられる相手は父と教育係だった使用人と昔馴染みの中で一番仲のいい1人だけ。
周りを心配させまいと若いながらに色んな事を内に秘めてきた。父はそれを良くないと言うが、生来の癖で難しい。
「母さんはこんな大人にしたいとは思わなかっただろうね。弟にも僕の酷いところを間近に見せてしまった。僕がアルトのトラウマを作ってしまったかもしれない」
そんなつもりじゃなかったのに。ただカッとなって、許せなくて。
「なんで兵隊でも無いのに下手に強くなっちゃったんだろう。真剣に稽古しなきゃ良かったのかな……でも、死にたくないし……旅自体は嫌いじゃないんだ。他所を見て聞いて手に取るのはとても楽しいんだよ。ただ……襲われさえしなければ……」
動物ならまだ割り切れる。言葉が通じないし、あちらも食べ物を目指してると知ってる。
でも人間は、襲ってくるやつは大体嫌な笑みを浮かべてくる。荷物をくれてやっても生命も奪おうとする。
殺らなきゃ殺られる。
こんなことさえ無かったら、人を斬る感触に苦しむこともないのに。
「ごめんね。でも、生活かかってるし……自分だけでは済まないから。父さんもアルトも死んで欲しくないし。ちゃんとやる時はやるよ。でも、泣き言……母さんなら聞いてくれると思うから」
フラットの中で母の姿は10年前で止まっている。あの頃までずっと、事ある毎に母に泣きつく事が多かった。
だから今日も聞いてくれると思ったのだ。
でももう母はあの時のように優しく何かアドバイスをくれたりしない。慰める為に抱き寄せてくれたりもしない。
「なんで、死んじゃったの。もう少しで皆一緒に暮らせたはずなのに」
母は答えてくれない。
「母さん、僕はその時が来たら……彼女の事を……」
今回の旅も無事を祈って送り出してくれたけれど、また帰ったら泣いてしまって困らせるんだろうな。
「でもいつか2人で来るよ。母さんが覚えてたら良いんだけどな」
今は弟を優先させる。弟を一番に考えて行動する。
でも、この旅が終わったら……と決めている。
気を使わせたくないのでまだ弟には言っていないけれど。
「泣き言終わり。大丈夫、ちゃんと切り替えるよ。アルトに心配かけるの嫌だしね。ちゃんと兄さんらしくするよ。じゃあね」
最後は笑って別れた。
両親に泣き言も吐き出したし、これで旅の間は大丈夫。
心配なんて、かけたくない。




