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97 異界渡り03


蒼紫から紫苑が住んでいた人里に関する情報が報告されたのは数日前だった。


すぐにその人里に一族の者を使わせて紫苑の痕跡を徹底的に調べさせた。


紫苑が住んでいた小さな小屋から何も見つからず、この村にはなんの価値もないとすぐに判断できた。


しかし、紫苑の性格を考えるなら記憶が戻った今でもきっと世話になった人間どもに別れをちゃんと告げたいと月天を困らせるのではないか?とふとそんな考えが頭をよぎった。


確か満月は数日後、月天が異界渡りの術を使うのなら間違いなく満月の力が満ちる日を選ぶだろう。


すぐに蒼紫にそのことを告げると、今回は蒼紫を置いて私自ら人里へ向かうと行って上ノ国の屋敷を出た。


◇◇◇


満月が空に上がり時が満ちると、大鏡の儀によって開かれた異界の門が鬼の里にある神社に現れる。


白桜はその門をくぐり抜けると紫苑たちのいる夜鳴村の百鬼神社の拝殿の中へ姿を表す。


予め送り込んでおいた配下の者たちは未だに紫苑を見つけられていないようだ。


白桜はすぐに秘術の天眼を発動させると村の中に隠されている紫苑に関する情報を見通すと、いつもならすぐに見つけれるはずのモノがどういうわけか霞がかったように視界がゆがむ。


「月天め、障りを放ったな」


天眼の見通しを妨げるとなると、この村の一体に魑魅魍魎を集めて障りを放ったに違いない。


きっとこのことは紫苑は知らないのだろう。心優しい紫苑のことだ人の命を削る術と知れば止めたに違いない。


「どこまでも自分本位のやつだ」


白桜は周囲に探りを入れると一瞬神社の周囲で鬼の者以外の妖気が揺れるのを感じる。


気配からいって月天にいつも付き従っている双子のどちらかだろう。


あの生意気な小僧の元に首を送りつけてやってもいいが、そんなことをしたらきっと紫苑はますます自分との距離をおくだろう。


仕方がないと小さくため息をつくと、隠れている何者かが死なない程度に障りを払う。


白桜が神通力を使って触りを払うと天眼の視界が晴れていき、村の奥にある森の方へ走っていく紫苑の姿が見えた。


白桜は神社の屋根に飛び乗ると、村の屋根を飛び越えていき紫苑のいる森へと姿を潜ませる。


森には深い霧が満ちており、一寸先さえ見えない状態だ。


「迷霧か……あまり長居はしないほうがいいな」


紫苑の姿をたどり後をつけていくと、森の中で立ち止まった紫苑を見つける。


◇◇◇


森に入って月天の元へと向かっていると急に濃い霧が立ち込めてきてあっという間に左右さえもわからないほどの濃霧となった。


これでは時間内に月天の元へと帰ることができないと焦って辺りを見回すと、背後から誰かの気配を感じる。


「そこいるのは誰?月天なの?」


霧の中から姿を表したのは長い白髪に血の如き深い紅をした瞳を持った白桜だった。


「白桜……兄様……」


紫苑は思わずその場から一歩後ずさるが、白桜は紫苑を引き止めることもしない。


「紫苑、こうして面と向かって会うのは久しいな。お前が私の元を去ってからこうして再び会えるのを待っていた」


「兄様、私は鬼の屋敷へは戻りません。月天とともに居ると決めたのです」


「ふッ、あの性悪狐に言い様に誑かされたか。あ奴は昔から女を誑かすのは上手かったからな」


白桜が小馬鹿にしたように笑うと紫苑は怒りを込めて白桜を睨み返す。


「いくら兄様といえども月天のことを悪く言うのは許しません」


「はぁー、紫苑その様子では記憶は完全に戻り鬼の力も多少扱えるようになったのだろう?今のまま月天の側に残ればあ奴の都合の良い駒として扱われるだけだぞ。悪いことは言わない、私とともに鬼の里に帰るんだ」


「いいえ!私は戻りません!再び桜華殿の中に閉じ込められるなどまっぴらごめんです!」


紫苑はそう言うと白桜に背を向けて走り出す。


霧が深くてどこに向かって走っているのかも分からないが、手首の鈴が強く反応する方に月天が居ると信じてひたすら走る。


時刻はすでに予定の時間をさそうとしている、早く戻らなければ幽世に戻れなくなってしまう。


紫苑が全速力で走っていると前方から鈴の音が呼応するように聞こえてくる。


きっと月天の鈴の音だ!と紫苑は残った体力を全部振り絞るように重い足を上げて斜面を登る。


すると背後から白桜の声が響く。


「紫苑、本当のことを知りたいなら夜市へと行くがいい。そこには雪華様が鬼の里を出るまでの間に書き記した日記が売られている。それを見れば月天のことも私のことも全て分かるだろう」


紫苑は思わずその場で足を止めて振り返るが、すぐに月天の声が自分を呼んでいることに気づき再び斜面を駆け上がる。


なんとか上まで登るとちょうど異界の裂け目が徐々に小さくなり始めているようで月天が険し表情で紫苑に手を差し伸べる。


「紫苑、早く私の手を掴むんだ!」


急いで月天の手を掴み胸元へ飛び込むとそのまま月天と一緒に異界の裂け目に飛び込んだ。


紫苑たちの後を追って白夜がぐったりとした極夜を抱えて裂け目へと飛び込む。


全員が裂け目に飛び込むとほぼ同時に異界の裂け目は閉じ、森の中は先程の濃霧が嘘化のように晴れ渡り静寂が戻る。


紫苑たちが去った後の森に一人残された白桜は何も知らない無垢なままの異母妹のことを思って気味が悪いほどに大きく輝く月を見上げ微笑んだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

もう少しでブクマが80に!

100目指してあと少しですががんばります!

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