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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
四杯目 味噌ラーメン 超越者向けの逸品
54/59

女の子にモテモテるラーメン?

 結論。


「『女の子だから』っていうのは特にありませんでしたね……」


 今日日、ラーメン業界のいろいろな努力の甲斐あって、女の子でも普通にラーメンを食べる。女の子だから入りづらい、翻って、食べづらいなどということはあんまりないのだ。


 特に、ここにいる某フードアイドルなどは一人でも平気で男くさい屋台ラーメンに突撃する。


「でも、これは貴重なデータだと思う」


 そう、七星は雪那ちゃんに頷く。


 Aさんがウマいものは、Bさんが食ってもウマい。基本的には自分が美味しいというものは、よっぽどの珍味でもないかぎり、他人が食ってもウマい。

 これ以上、先の追及はもはや『個人の好み』の分野であり、店としてはそこまでアジャストできない領域の世界だ。自分の家の料理で勝手にやってくれ~という話。


 つまり、『女性だから~』と味付けを変える必要はなく、普段通りにつくっていいということだ。

 これが分かっただけでも七星にとってはありがたい。


 が、ここで一つの問題。


「でも、これではほとんど方向性を絞れていませんね」


「オウ!?」「ぐぬ……」「確かに」


 唯一、まだ未成年の雪那ちゃんに思いっきり問題点を突かれる大人三人。

 実に情けない。


 結局、この後も議論は続けられたが、何となく『見た目重視』という、ふわっとした結論になった。


 コレで女の子にモテるラーメンとか……無理だろう。


 ………

 ……

 …


 さてさて、話はまだまだラーメン作りということで続いていく。

 が、今回は切り口を変えて、どういう味噌ラーメンをつくりたいかという内容だった。


 しかし、問題はこの七星という男、味噌ラーメンを大の苦手としている。


 とは言っても、塩や醤油と比べて、というレベルの話。

 ただ、それでも七星曰く、


「味噌ラーメンとしてウマいっていうのは本当に難しい」


 と言う。

 それは何故か?


「実は味噌はいい調味料なんだけど、強い調味料でもあるんだよ……」


 どういうことか?


 それは味噌の用途の代表例、味噌汁を考えてもらうと分かりやすい。

 酷いハナシ、味噌汁なんて、お湯に味噌を溶いただけ。

 なのに、それでも、ある程度美味しく飲めてしまうのだ。


「実際、お味噌汁のために、わざわざダシを引いて作る家は稀だと思う。市販の本だしと味噌、適当な具材、いやそれすらなくても十分美味しい」


 確かに、それが普通。


「だが、これはスープ料理として見た時、とんでもない異常事態でもあるんだ」


 例えば、これと同じことをして、『醤油汁』『塩汁』を作ったらどうだろう?

 とても美味しいとは言えないだろう。少なくとも毎日飲もうとは思わない。


「つまり、シンちゃん? 味噌という調味料は、それそのものが美味しい。だから差別化ができない! と言う感じの理解でいいのかな?」


 まさにその通りと頷く七星。


「そうなんだよ、それで味噌にこだわって、5種類、6種類といろんな味噌を配合して味噌ダレを創ってみたりもしたことあったんだが……」


「あったんだが?」


「う~ん、ウマいにはウマい。ただ、違いがよく分からない感じにしかならなかった」


「はあ、そんなことがあったんですか……」


 と、脇で頷く雪那ちゃん。

 彼女の母親もラーメン屋だが、母はずっと塩ラーメン専門なので、そのあたりの事情を知らなかったらしい。


「では、味噌を少なくして、素材の味を前面に持ってくれば――あっ?」


 自分で、言って気づいたらしい。さすが、雪那ちゃん、日本一の塩ラーメン屋の娘。


「うん。それは『味噌』ラーメンとしての必然性、味噌をわざわざ使うことの意味を失っているよね。それこそ、そういうことは塩ラーメンでやればいい」


 つまり、そういうこと。


 とはいえ、全く打つ手がないわけではない。


 事実、全国には味噌ラーメンの名店が数多くある。

 そのあたりのノウハウや味の傾向を掴み、うまく踏襲していけば――


「と思ったんだけど、今回は止めようと思う!」


 七星慎之介、この男のへそ曲がりもここまでくればご立派。この不安定指向こそ、この男が、まだ結婚できない理由の一つでもあろう。


「え? ではどうするんですか?」「ああ、だから、コイツは」「……お家芸」


 驚く、雪那ちゃん。もうこんなことが二、三度あってもう驚かない志織。ついには諦めてしまったマサシと続く。


「うん、いいリアクションありがとう雪那ちゃん! そうだね、今回はちょっと『トンチ』を使おうかと……」


「頓智ですか?」


「そう、大豆で作る味噌だけが、味噌の全てではないということさ!」


 自信満々で、茨城県、そのとある一角を指さす七星だった。




 オマケ ~東方テレビ、スタッフルーム2~


「さて、コイツはコレでいいでしょう?」

「だな?」

「うむ、これ以上、彼をイジるのはかわいそうだ」


「いや、それはもう手遅れじゃないかな?」


「「「それについては考えない方向で!!!」」」


 さっそく、と言うよりは早すぎるといったタイミングで、二回戦の七星の扱い(超残念系ネタ枠)――つまり、二回戦ダーツによるルール決め時のテロップ、効果音、時間の取り方が決定された。

 まだ、撮影当日の深夜である。大まかな方針のみとはいえ、この時点でそこまでいくのは、番組制作の進捗としてはちょっと異常だ。


 しかし、ネタがあるなら話は早い。むしろ、こういうことは下手に悩むより、サッサと決定した方が面白いものができる!というのが、南条局長の、ひいては東方テレビの基本方針である。


 確かに、発売延期しまくったゲームに限って駄作というのはよくある話。

 南条の製作者側の心理としては、『時間をかけて丹念に創った方が良いものができる』ではなく、『時間がかかるということは、それだけ迷いがある証拠。そんな状態で出来上がったものが、面白いものであるはずがない』と考えてしまう。


 もっとも、これは南条の経験則で、学術的にも、論理的にも、全く根拠がないものであるのだが……


 しかし、逆に考えれば、かつてない速度で方針が決定されていく今回は、南条に良作(良回?)を予感させる。

 

『今大会のイケ麺コロシアムは神回と呼ばれるだろう。いや、してみせる!』


 そういう気配が、自分のみならず、周囲からもヒシヒシと感じた。

 俺だけではない。


――皆が、歴史が動くことを予感しているのだ。


 その兆候は予選から始まった。

 むしろ、それまではグダグダであった。


 前大会チャンピオンの予定が合わず、決勝戦のみ参加。対抗馬不足による予定調和感。

 エンターテインメントとしては驚きや発見がなく、そのまま予想通りの結果を司会や実況が騒ぐだけで終わる。とまで、南条は思っていた。


 A会場は招待選手の塩道美雪、B会場には魚介のサムライ、佐々木小次郎を配して、圧倒的な実力で、後の期待感を煽り、予選は終えるつもりだった。

 予定であれば、一回戦をその二人がそのまま勝ち上がって、二回戦は塩道VS佐々木。その後、前大会チャンピオン天王寺(てんのうじ)との闘いとなる。そのつもりだった。


 だが、予選。彼等()は現れた。

 前大会、屈辱的な敗北からもう二度と参戦しないだろうと思われていた第10回大会チャンピオン豚神、まさかの予選参加。

 そして、B会場には正体不明、今日まで無名の新人、七星慎之介。


 彼等により、自分たちのシナリオは大きく動く。

 序盤も序盤、それも予選時から、まさかのデットヒート、職人魂の殴り合い。優勝候補として参加させた二人を喰う勢いであった。


 そして、本戦。彼等の牙はついにとどくことになる。

 七星、縛りルール無視の大どんでん返し。豚神、まさかの圧勝。

 それにより、この第二戦、誰も予想していなかったカードでの闘いとなる。


 製作者側としては、非常に困る展開だ。何も予定にない。

 だが、それでいい。


『エンターテイナーとしては、最高に面白い展開だ!』


 そう思った瞬間、南条は、ここで一つの決断をする。


「ヨシ、お前ら。密着取材、行くぞ?」


「「「――えっ!!?」」」

 ラーメン発見伝という漫画では、「味噌という調味料はうますぎる。それが味噌ラーメンの最大の魅力であり、弱点である」と言われておりました。

 なるほど、そういう部分は確かにあり、味噌ラーメンは美味くてもマズくても『そこそこ』くらいになってしまうというのは納得です。自分も食べていてそう感じたことはあります。


 ならばと、味噌に負けないくらいダシを濃くしたラーメン。これも行列ができるほどには美味く、確かに美味しい。しかし、味噌ラーメンでなければならないか?というとそうでもない。醤油ラーメンでも十分通じる、下手したらそっちの方が美味しいのでは?という感じ。

 味噌ラーメンであるという必然性をもってなお、それでも飛び抜けて美味いラーメン。これは大変難しいことだと、個人的には思うのです。

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