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第19話

ありがとうございます!

目が合った。


その餓えた瞳は獰猛な殺意を内包し、悠里を完全に獲物としてしか捉えていなかった。


美嘉の悲痛な叫びに最も早く反応したのは、空だった。


「まさか、まだいたの!?」


先程の戦いでは一切見られなかった焦りの色が、そこには窺える。


「姉さん!」

「分かってる!」


可憐の声に、即座に反応する空。観衆に囲まれていた空は、助走もなしにその場で跳躍し、軽々と観衆の頭上を飛び越える。


「く、これじゃ間に合わない!」


観衆に遮られていた視界が開けたことで、悠里と魔物の位置を把握するが、このままだとどう足掻いても魔物の方が先に悠里の元に辿り着くだろう。その未来が容易く予想できてしまった。


だから。

空は別の選択をした。


自身の着ているローブの内側へと手を入れる。目的の物を掴むとそれを取り出した。空の手に握られているのは、黒一色の装飾も少なく、女性が持つには少々無骨に感じる短刀だ。


一般に対魔士は、メインとする武器以外に予備として別の武器を持っているものが多い。結界外では何が起こるか分からないからだ。


そして空も、予備の武装を戦闘の際は常に携帯している。それが短刀だ。投擲にも使えるそれは、メインの大剣が使いづらいような場所や、何らかの理由で大剣を失った場合でも、近接戦時の武器として使えるように柄もしっかりした作りになっている。


空は取り出した短刀を投擲するために鞘から引き抜き、狙いを定める。しかし、今の位置関係は、魔物と空の間に悠里を挟むようになっているため、空視点では、魔物の身体がほとんど悠里の身体で隠れてしまっていた。


その事実に空は内心舌打ちしながらも、構わずナイフを投擲する。


流石能力者の身体能力と言うべきか、ナイフは放物線ではなく地面とほぼ平行に銀の軌跡を描き、直進する。


そして、ナイフは悠里の横を(・・)通り抜けた。もちろんその軌道上に魔物はいない。


外したのか?、と誰もが思っただろう。1番近くにいた悠里でさえもそう思った。


その時、悠里の頬を風が撫でた。直後、ナイフの軌道がありえない角度に捻じ曲げられる。空が何かしたのだろう。その軌道は今度こそ魔物を捉えていた。


「ギャン!?」


魔物側からしてもそのような形での攻撃は想定していなかった。ナイフの直撃を首の付け根あたりにモロに受ける。魔物自身の突進の勢いも相まってかなりのダメージを負ったようで、首からどくどくと血が流れる。走るスピードも遅くなった。


しかし、遅くなっただけで止まることはなかった。そう、空の投擲による一撃は、魔物を弱らせることには成功したが、無力化するまでには至らなかったのだ。


その結果、自身の傷口がひどくなるのにも構わず、目の前の人間……つまり悠里だけは殺そう、という魔物の最後の足掻きを許してしまった。


その双眸を殺意でギラつかせ、溢れ出る血を無視し、首に牙を突き立ててやると言わんばかりに迫ってくる魔物を前に悠里は



どこか安心感を覚えた。


恐怖でも、焦燥でも、諦観でもなく。

悲しみに類する感情はそこになく、悠里は安心したのだ。まるで赤子が母の腕に抱かれている時のような、自分が居るべき場所に立って居るような、そんな感覚を悠里は感じた。


なんにせよ、それは今から死に逝く者の感情ではありえなかった。


悠里の身体は、本人の意思よりも早く動いた。まるで何度も繰り返した反復練習の賜物であるかのように。


悠里は地を蹴って身体を前に(・・)押し出す。

特に考えがあるわけではなかったが、何となくそうしなければならないような気がしたのだ。理屈でも何でもなくただの直感である。そしてそれはつまり、悠里が逃げではなく、戦いを選んだと言うことに他ならなかった。


「「悠里!?」」

「悠兄!?」


光輝たちの驚く声が聞こえる。それも当然だろう。魔物の足が鈍ったのを見て、これなら悠里が逃げられる!と思ったのだから。しかし悠里は、武器もない(・・・・・)のに魔物に向かって走り出したのだから。


悠里の雰囲気が変わったことに魔物も気づいたのだろう。悠里に向かって一心不乱に突き進んでいたところに、一瞬の迷いが生まれる。だが、その迷いを振り切るように、魔物は最後の力を振り絞り、悠里に飛びかかった。


それは、結果として愚かな選択だったのだろう。魔物はもっと慎重になるべきだった。何故悠里が立ち向かってきたのか?、何故飛びかかる直前、首に刺さっていた物の感触が急に消えた(・・・)のか?と。


悠里の視界に、飛びかかってくる魔物の姿が広がる。その迸る殺意に、悠里は今や心地よさすら感じていた。知らず知らずの内に、悠里の口角は上がっていた。


飛びかかるという行為は、自身の体重を力に変えられるためパワーは大きいが、それに伴い隙も大きい。相手が弱く無力な者ならばそれでも良かったのかもしれないが、今回の相手は悠里である。今の悠里にとってその行為は、脅威ではなく隙でしかなかった。


魔物は飛びかかった時点で、狩る側から狩られる側に成り下がったのである。


悠里は、魔物の攻撃を躱しながら、すれ違いざまに右手に転移させた(・・・・・)短刀で、空がつけた傷口の上から斬りつけた。


元々ダメージを負っていた魔物にとって、それは致命傷だった。地面に叩きつけられるように着地した魔物は、立ち上がろうとして失敗し、そのまま光の粒へと変換された。


その光の粒は全て(・・)悠里の身体へ吸収された。


「え?」


「君は、一体………?」


悠里のすぐ傍までやってきていた空が、やっとといった感じで言葉を絞り出す。それもそうだろう。光の粒を一部分ではなく、全て吸収する者など今まで見たことがなかったのだから。


「俺にも、何が何だか……」


と、悠里はそこまで答えたところで不意に視線を感じた。その視線の方向に目を向けても、誰もいなかった。


それも仕方のないことだ。何故ならその視線は、悠里が今いる位置から何キロも離れた場所から送られていたのだから。


その瞳は二つの色に彩られていた。


一つは郷愁。懐かしい故郷の風景を久しぶりに目にした時のような目だろうか。


そしてもう一つは、歓喜。ずっと待ち望んでいた物をようやく得る事が出来たかのような歓びだった。


「やっと……見つけた」


そう呟いて。



神を名乗る少女はあどけなく笑った。


ありがとうございました!

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