第18話
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悠里が戦場に再び目を戻すと、戦いは佳境を迎えていた。
各々が自分の役割をしっかり自覚しているようで、連携には少しの乱れもない。前衛3人、後衛2人のシンプルかつバランスの良い陣形だ。前衛の1人には可憐の姉、蒼乃空の姿も見える。
敵の魔物の数は15体といったところだ。少し数が減っている様に感じる。
「もう何体か倒したのか、流石だな。だけど変だな、倒した魔物の死体が見当たらない……。どこ行ったんだ?」
「あれ、悠里知らないの?」
「何をだ?」
「魔物が死んだ後どうなるかだよ」
「普通に死体になるんじゃないのか?」
「それが違うんだよね。あ!もう1匹倒しそうだよ。説明するよりも見た方が早いと思うから見てて」
光輝が指をさした先には、確かに前衛の1人が1匹の魔物にトドメを刺そうとしていた。足を負傷したのか、魔物はその場から逃げようともがいているが、満足に動けていない。そんな隙を見逃すほど甘い訳もなく、一振りで致命傷を与える。
その一撃を受けた魔物は、弱々しく一鳴きすると、くたりと力なくその体を横たえた。すると、魔物の体は分解されたかの様に細かい光の粒となった。その内の少しが倒した対魔士の身体に吸収される様に飲み込まれていく。
残りの粒は明後日の方向へ飛んで行った。
「なんだあれは……?魔物が光の粒に……。それにその一部が体の中に吸い込まれていったぞ」
「あれを僕たちは経験値って呼んでるよ。対魔士が強くなる方法は、大きく分けて二つ。一つ目は、単純に鍛錬を積んで強くなる事。もう一つが今見た様に、魔物を倒し、経験値を得る事。経験値を得ると、体内の魔素量が増えて、身体能力も向上するんだ」
「経験値……まるでゲームみたいだな」
「そっちの方が僕としては分かりやすくて良いけどね」
「まあ経験値については分かった。だが、吸収されなかった残りの光の粒は一体どこに飛んで行ったんだ?」
「それはゲートだね」
「ゲートっていうと魔物の出てくるゲートか?」
「そうそう。まだ実証とかはされてないんだけど、仮設によれば、その残ったエネルギーでまた新たな魔物が生まれてるんじゃないかって言われてるね」
「ん、という事は魔物を倒し続けて行けば、いつかは魔物がいなくなるかもしれないってことか?」
「そうだね。仮説がもし正しかったなら、いつかゲートの持つエネルギーが枯渇するなんて事もあるかもしれないね」
「そう言えば、ゲートの中に何があるのか、とかは分かっていないのか?」
悠里は今思いついた疑問を口に出す。
「うーん、ごめん。そこまでは僕も知らないよ」
「分かっていないわ」
今まで姉たちの戦いを食い入る様に見つめていた可憐が、悠里たちの会話に興味を持ったのか、冷静さを取り戻す様に一つ大きく息を吐き出すと、悠里たちの会話に参加する。
「調査とかはされなかったのか?」
「されたわ。優秀、と評価のつく対魔士を数人、ゲートの向こうに送り込んだの」
「その結果は?」
「誰1人帰ってこなかったわ」
「それは………一体何があったんだ?」
「さあ。ただ、現状優秀な対魔士を無駄に失う事は得策じゃない。だからゲートの調査も足踏みしているのよね」
「なるほど……。それで何もわからずじまいってわけか」
悠里は今得た情報を頭の中で整理すると、会話に割いていた意識を観戦に集中させる。
5人の対魔士達が相手にしているのはDランクの「ウォーウルフ」だ。悠里はその素早さ、身のこなしを見て、もしあの場にいるのが自分達だったらと想像する。結果、自分達では、1匹相手でも無理そうだという結論に至った。
その様に悠里が分析している間にも戦いは進む。といっても被害が出ているのは魔物サイドのみだ。対魔士達はかすり傷すら負っていない様に見える。
空が魔物の群れに単独で突っ込む。空が使っているのは身の丈程の大きさがある大剣だ。その細身に似合わない大剣を左から右に振り抜く。見た目だけで判断するならば、そんな物本当に振れるのかと思わなくもないが、そんな考えを置き去りにする様に鋭い軌跡を剣は刻んだ。
当然、その線上にいた魔物も無事ではない。5匹ほどを一気に吹っ飛ばす。その内2匹は倒れ込んだきり、動かなくなった。そのまま光の粒となり消える。
残りも立ち上がりはしたが、少し足が震えている様だ。しかし、その強力な攻撃に何も問題がないわけじゃない。
大剣はその大きさ故、一度振り切ってしまってはすぐに戻せないだろう。そこに隙が生じてしまう。
現に3匹の魔物が左側、正面、右側から大剣を振り切ったのを隙と見て空に飛びかかった。悠里達が危ない!と思うのも仕方のない事だろう。
ただしそれが本当に隙であったのならばだが。
右に振り切った大剣は、慣性の力を無視する様な軌道を描き、右下からの斬り上げに移行する。その一閃は狙いを違えず、正面の脅威を排除する。だが、いまだ左右の魔物は止まっていない。流石に、もう大剣での迎撃は難しいと思われた。
しかし、空の目には焦りも恐怖も見受けられなかった。空はその鋭利な牙も、爪も、自分に届かないことを確信していたからだ。
空の確信を形にする様に、残りの前衛2人が左右のウォーウルフを一刀の下に斬り捨てる。やはり彼らの連携に乱れは全くないようだった。
後衛の2人もじっとしているわけではない。前衛3人の背後から飛来した矢は、隙を窺っていたウォーウルフの目に突き刺さる。たまらず苦悶の呻きを上げるウォーウルフの体を、今度は突然現れた炎が焼く。
一向に消える気配のない炎に、最初はジタバタと喚きながら暴れていたウォーウルフだったが、次第に動きが少なくなり、やがて沈黙した。
目線を移せば、弓を持っていない方の後衛の人が手を向けている。状況から察するに、あの人の能力なのだろう。
その後も、対魔士達は魔物を一切寄せ付けないまま、残っていた魔物を殲滅した。
ーーーこれが……対魔士。
魔物を殲滅した後、対魔士達は少し疲れたそぶりを見せながらも、軽快な足取りで歩いて戻ってきた。
うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!
彼らを観衆達の大歓声が出迎える。仲間内で雑談していた彼らは、観衆の方を向くと、少し照れ臭そうに、しかし、誇らしげな笑顔を浮かべていた。中には手を振っている者もいる。
「もっとよく見える所に行こう!」
という光輝の提案で、悠里達一行は観衆達の間を縫って最前列までやってくる。
そして、対魔士達をよく見ようと目を向けた。その時、
ドンッ
興奮した後ろの人が勢い余って、悠里の隣にいた美嘉の身体を押す。
小柄な美嘉が耐え切れるはずもなく、前に手をついて倒れ込む。
おい!っと悠里が後ろの人に抗議の声を上げようとしたが、
「あ、鍵……」
という美嘉の言葉に悠里は美嘉を見た。
「鍵がどうしたんだ?」
「さっき倒れ込んだ時に、向こうに飛んで行った」
美嘉の指差す先に目を向けると、確かに数メートル先に自宅の鍵が落ちているのが見える。
「ああ、ちょっと待ってろ。取ってくるよ」
「ごめんなさい」
「いや、美嘉は何も悪くねえよ。気にすんな」
悠里は、少し雑に俯いている美嘉の頭を撫で付けると、鍵の落ちている場所に向けて歩き出す。悠里達は結界の境界ギリギリの場所にいたため、鍵は結界の外だったが、少しぐらいなら大丈夫だろうと判断する。
鍵まで辿り着くと、しゃがみ込んで拾い、軽く叩いて土を落とす。そして、美嘉達の元に帰ろうと体を反転させる。
その時、空を含む対魔士達は観衆に囲まれていた。そのため気づくのに遅れたのだろう。最も早く気づいたのは、心配そうに悠里を見つめていた美嘉だった。
「悠兄危ない!」
え、という間抜けな声と共に悠里が後ろを振り返ると、1匹のウォーウルフが悠里めがけて疾走してきていた。
ありがとうございました!




