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第15話

ありがとうございます!

時間は少し前に遡る。


その場にあるには少し違和感を持つ程の存在感を放つ扉の前に、その女性は立っていた。


コンコン、と重厚な扉をノックをしてから女性は扉の向こうの人物へと話しかける。


「突然すみません。今お時間よろしいですか?」


「ん?ああ、大丈夫だよ」


「では、失礼します、学園長(・・・)


前にも説明したが、星守学園は広大な敷地を持っている。

様々な建物が存在するが、その中央に、他の建物と比べて一際高い建造物が学院全体を見下ろすようにそびえ立っている。


そして、その最上階に位置するのが学園長……とは名ばかりの神さまの私室である。


藤野が扉を開けると、神さまは藤野がいる方向とは逆方向を向いており、そこの主人らしく、後ろからだと華奢な身体の大部分を覆い隠すような大きな椅子に腰掛けていた。


「藤野か、一体何の要件だい?」


「先ほどの件についてです。何故彼の事がそんなに気になるのですか?」


「ああ、その事か」


神さまがゆっくりと椅子を回転させ、藤野に向き直る。


「そうだね、ここでなら話してもいいかも知れない」


「……!話していただけるのですか?」


「あはは、何で聞いた君が驚いているんだよ。そんなおかしな藤野に質問だ。能力についてどう思う?」


「どう……とは?」


あまりにも曖昧な質問すぎて藤野は何と答えれば良いか回答に困った。


「そんな難しく考えなくてもいいよ。要るか要らないかとか、好きか嫌いかとかそんな単純な質問だよ」


「そのような答えでいいのでしたら……。そうですね、私は好き嫌い関係なく、今の世の中には能力……能力者が必要だと思います。彼らがいなければ、人類は滅んでしまうでしょうから」


「本当にそうかい?」


「……え?」


「こうは考えられないかな?

能力なんて(・・・・・)物があるから、魔物なんていう敵が現れたんだって」


「………それは」


「まあ、これは単なる言葉遊びみたいなものだけどね。鶏が先か卵が先かみたいな話だよ。これは僕の考えだけどね?力っていうのは何もないところには生まれないと思うんだ。そこには何かしらの目的が必ず付随する。お姫様を助けるために力をつける、仇に復讐するために力を欲する、自分を守るために力を求める。はてさて、なら能力についてはどうなるんだろう?魔物が現れたから対抗するために能力者が生まれたのか、能力者が生まれたから使う目的として魔物が現れるようになったのか」


「……学園長の考えはわかりました。しかし、その話と黒羽に何の関係が?」


「関係ないと思うかい?言っただろう?力には必ず目的が付いてくると。とすれば、彼の能力にも意味があるはずなんだ」


「……その意味というのは?」


「それはまだわからない。ただ……彼は早すぎるんだ。それこそ時代といった単位でね。それはあまりにも……彼女(・・)の予想から離れすぎている」


「その彼女というのは?」


「おっと……ちょっと喋りすぎちゃったみたいだね。小難しい話はここまでにしよう。せっかく今日は授業も早めに終わったんだからさ」


「……そうですね。お時間を取らせてすみませんでした。ではこの辺りで失礼します」


「ああ、また何かあったら来なよ。藤野なら大歓迎だからさ」


藤野は心の中に疑問が燻っているのを感じながらも、これ以上聞いても無駄だと言うのを経験から判断し、追求することはなかった。


藤野は一礼して、退室した。それに対し神さまはニッコリと一分の隙もない完璧な笑顔で手を振り、藤野を見送った。


その後、神さまはあたり一面を見渡せるように作られた窓ガラスへと近づき、眼下を見下ろした。


その視線は、今しがたクラスメイトと別れ、下校しようとする男子生徒に向けられていた。


「本当に……あなたは……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあ、今日は色々あったな……」


独り言を呟きながら、悠里は帰り道を歩いていた。悠里が住んでいる場所から学校まではおよそ10分ほどの距離である。


悠里が校門を出てからすでに5分ほど経っており、ちょうど中間ぐらいの場所にある商店街に悠里はいた。


「今日は疲れたし、晩飯作るのも面倒だな。何か惣菜でも適当に買って帰るか」


悠里は晩飯で手を抜くことを正当化すると、近くのスーパーに入る。


そこで、1人で食べるには少し多いぐらいのお惣菜とお茶を買うとスーパーを出た。


そして再び帰路につこうとしたその時、


ウウウゥゥゥゥーーーーーー!!!


とけたたましいサイレンが鳴り響いた。


サイレンが鳴りやみ、一瞬の静寂の後、その静寂を突き破るようにアナウンスが流れ始めた。


[ただいま北西の方角にて、魔物の群れが確認されました。対魔士が数名向かっておりますので、問題はないと思われますが、くれぐれも結界の外へは出ないようにしてください]


これは感知系能力者が周辺の魔物の存在を感知し、住民に危機意識を促すシステムである。この仕組みができたおかげで、魔物が近くにいるのに結界外へ出て犠牲者が生まれるといった事例は大幅に減った。


しかし、新たな問題も生まれている。


ちなみに、何故こんなに学院が境界線に近い位置にあるのかと言うと、演習の一環で生徒が外に出る場合があるためである。


「おい、魔物だってよ!ちょっと見に行こうぜ!」


「ああ、空様はくるのかしら?見にいって見ましょ!」


問題とは、こういった具合に結界内は安全だと楽観視し、野次馬がごとく境界付近へ人が集まることだ。


さらに今まで怪我人が一切出ていないのも拍車をかけている。まあこうなるのにも理由はある。


普段対魔士というのは街の中で遊んでいるわけじゃない。定期的に街の外に赴き、魔物を狩っているのだ。


そのため、街の近辺まで魔物がやってくることなど殆どない。


つまり一般人が対魔士の戦いを目にする機会などないに等しいのだ。


従って、こんな滅多にない機会に対魔士達の戦いを見に行こうとするのは仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。


更に言えば、魔物が出た位置は今悠里がいる場所から、5キロほどしか離れていない。普通に行こうと思えば行ける距離なのである。


悠里はと言うと、能力者でない頃はあまり興味がなかったが、能力者となった今興味がないと言えば嘘になる。


そのため見に行きたいのはやまやまだったが、先程買った晩飯をどうするかで悩んだ。

その結果、もしかしたら間に合わないかもしれないが、先に家に帰ってから行くことにした。


先程までののんびりとした歩みから一転、能力者としての身体能力をフルに発揮し、悠里は人の間を縫って走った。


その結果、1分ほどで家に到着することに成功し、家に入る。


「………おかえり」


「おう、美嘉、もう帰ってたのか」


玄関口に立っており、美嘉と呼ばれたのは黒髪の少女だった。


肩をやや越えるあたりまでその艶のある髪を垂らし、白い肌に良く映えていた。端正な顔立ちをしており、目つきは鋭く、無表情なのでよく言えばクール、悪く言えば冷たい印象を与える美少女だった。


悠里は美嘉と血が繋がっているわけではない。その間柄は兄妹というのが最も適切だろうか。


2人が一緒に暮らしているのには、少し込み入った事情があるのだが、今は置いておく。


「……どこか行くの?」


「ん?ああ、ちょっとな」


帰って荷物を置くなり即座に踵を返そうとした悠里を見て、美嘉が尋ねた。


「美嘉も連れてって」


この言葉に、悠里は一瞬戸惑った。


何故なら美嘉を連れて行けば、悠里が一人で行くより確実に到着が遅くなるからだ。


悠里は顎に手を当てて少し悩んだが、やがて決意したように顔を上げると、


「よし、じゃあ一緒に行くか」


悠里は美嘉が自分の意思を簡単な事じゃ曲げない、結構頑固な性格をしている事を知っていた。


また、それにどうせもう結構時間も経ってるんだし、と考えたため、笑顔で妹の我が儘を受け入れることにした。


美嘉は中学の制服を着たままだったので、特に準備に時間を取られることもなく二人で家の外へと繰り出した。


ありがとうございました!

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