第16話
ありがとうございます!
少し短いです。
手早く準備を済ませた悠里と美嘉は足早に家を出る。
そのままの勢いで普段の歩行ペースより若干早いぐらいの速度で道を歩く。
「で、どこに行くの?」
「ん?ああそう言えば目的地行ってなかったな、結界の境界付近だな」
「そう…結構遠いんだね。じゃあ……ん」
美嘉は立ち止まり、少し考える様なそぶりを見せると唐突に悠里に向かって両手を突き出す様な格好をとった。
「……いったいどうしたんだ?」
「………おんぶ」
「え?」
「そっちの方が早いでしょ?」
悠里は美嘉をおんぶするという行為に気恥ずかしさを感じ、断ろうかと思ったが、よくよく見ると、美嘉の頰も少し赤くなっていた。
もしかすると美嘉も、多少の恥ずかしさを感じているのかもしれない。
そのことに気づいた悠里は感じていた気恥ずかしさを吹き飛ばす様に一つ大きく深呼吸すると、美嘉の前まで行き、背を向けて膝立ちの状態で腕を後ろに差し出した。
「こ、これでいいか?」
「ん、大丈夫」
美嘉は悠里の首に抱きつく様に腕を回し、悠里の脇の間に太ももを通した。
悠里は美嘉を気づかい、ゆっくりと立ち上がる。
美嘉は落ちない様に更にぎゅっと悠里にしがみつく。
美嘉がその身体を密着させたことにより、背中に感じるまだ小さいがしっかり自己主張してくる膨らみやら手に感じるスカートから伸びる太ももの感触やらで悠里は自分の顔が赤くなっているのを自覚した。
ーーーま、まあ美嘉はそんな活発な方じゃないインドア派だし、そんなに長い距離を歩かせるのはかわいそうだよな
と、そんなどうでもいい事を考えて、悠里は増してきた恥ずかしさを強引に誤魔化す。
「よし、じゃあ走るぞ。しっかり掴まってろよ」
「んっ」
耳元で囁かれた呟きに混じり、吐息が悠里の首筋を撫でる。
その事に再び距離の近さを感じ、一度出て行った恥ずかしさが戻ってきそうになるが、首をブンブン振って振り払い、悠里は走り出した。
悠里はあまり美嘉に負担がかからないようになるべく体を揺らさず走った。
そのため少し余計に時間がかかったが、それでも二人で歩いて行くよりも大分早く目的の場所まで行くことが出来た。
その場所へ到着すると予想よりも多く、野次馬がいた。ちらほらと悠里と同じ星守学院の制服も見える。
ーーーん?あれは……
悠里は美嘉を背中から下ろし、ざっと辺りを見渡した際、見知った顔を発見した。
「おい、お前らも見物か?」
「あ、さっきぶりだね悠里。そりゃそうだよ、こんな機会滅多にないし」
「そういう悠里も見に来たんだろ?後そっちにいる可愛い子は誰だ?」
そこにいたのは、和也と光輝だった。なんでこの組み合わせかというと、ただ単に家が近所らしい。
「ん?ああ、紹介するよ。俺の……妹の美嘉だ」
悠里は美嘉のことをなんて紹介するか少し悩んだが、面倒ごとはごめんだったため、無難に妹と紹介した。
ちなみに今美嘉は、悠里の服の裾を掴み、体を半分ぐらい悠里の身体で隠している。
「へぇ、悠里って妹いたんだ。こんにちは、美嘉ちゃん。僕は坂織光輝って言うんだ。よろしくね」
「顔がいいだけじゃ飽き足らず、こんな可愛い妹もいると………うん死ねばいいのにな!」
「それそんな清々しい顔で言うことじゃねえよ!?」
悠里は、美嘉を紹介する際少し言葉に詰まった事を言われるかと思ったがふたりは特に気にしなかったらしい。
和也に至っては世の中の理不尽を嘆くのに忙しく、それどころじゃなかったとも言えるが。
「むぅ、死ねとか言っちゃダメっ」
「え?ち、違うんだよ!今のは冗談だって!」
「冗談でもそんな事言う人は嫌いっ!」
「そ、そんなぁ……。ご、ごめん!謝るから許してくれぇ!」
「謝るのは私じゃないでしょ」
「え、ああ……。悠里もごめんな……」
和也の謝罪に対して、悠里は何を思ったのか。
簡単に言って、ドン引きである。
中学生の女の子に、高校生……それもガタイの良い和也が完璧に言い負かされている様子はシュールを通り越して、哀れみすら誘うものだった。
心なしか周囲の視線も集めている気がする。
完全に蚊帳の外だった悠里と光輝からすれば、何でもいいから早く終わってくれという感じである。
そしてどうやら和也は完全に美嘉の嫌いな人リストに載ってしまったらしい。
謝ったのにも関わらず目すら合わせてもらえていなかった。悠里は、その様子をそっと視界から外した。
「ふぅ……まあみんな考えることは同じか。こんな機会は見逃せないって事だな」
悠里は脱線しまくっていた話を無理やり元に戻す。
「そうだね。しかも今回は空さんも来るって聞くし」
「あ、それそれ。その空さんってのはここに来るまでも何度か聞いたが一体誰……」
悠里は、誰なんだ、と光輝に聞こうとしたが、その声は突如として周囲から上がった歓声に塗りつぶされたため光輝の耳に届くことはなかった。
ちなみに、光輝が能力を使っていれば聞き取れたが、使っている間は周りの会話が全部聞こえてしまい、生活どころではなくなるため、普段は能力をオフにしている。
悠里達が歓声の行き先に目を向けると、そこには同じデザインのローブを身に纏い、各々の武器を手にした、5人の姿があった。
ーーーあれが……対魔士……。
対魔士はソロで活動しているものも一定数いるがやはりその数は少ない。
もし怪我などした場合、その場に一人しかいなければ対処が難しくなるからだ。そのため、複数人でパーティを組むことが推奨されている。大体5人のパーティが多い。
理由は、5人以下でないと、準○ランクと認められないからである。
その場に現れた5人は、歓声など聞こえていないかのように、微動だにせず前を見据えている。
そしてついにその時がやって来る。
ドッ、ドッという地面を強く蹴る音が複数重なって聞こえて来た。それは左手に見える森の中から響いて来る。
やがて、先頭の魔物が姿を見せる。
何かに例えるとすれば、狼というのが近いだろう。
体長は数倍はあるが。姿を確認し、横一列に並んでいた対魔士達の真ん中にいる人物が静かに剣を前に突き出す。
そして、何か指示と思われる言葉を発した後、魔物めがけて走り出した。周りの4人もそれを追うように疾駆する。
悠里からは、最初他の見物人と重なり、角度的に真ん中の人物は見えなかったが、真ん中の人物が動いたことで、その人物のどこか見覚えのある美しい青髪が、風に靡くのが見えた。
ありがとうございました!




