表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

第一話「ガチャを回す夜」

桐島陸のアパート 午後九時すぎ


仕事が終わったのは九時を過ぎたころだった。


モニターを閉じて、椅子の背もたれに体を預けた。今日は設計書を書いていた。難しくはないが、言葉を選ぶ作業は時間がかかる。


でも今夜だけは、定時で切り上げると決めていた。


午前零時、新作VRMMO『エターナル・クロス:異界転生』のサービスが始まる。




 コーヒーを淹れていると、チャイムが鳴った。


 開けると、隣の部屋の住人が立っていた。


 朝倉柚希。看護師、二十六歳。越してきた日に挨拶に来て、以来なぜか定期的に飯を持ってくる。


 今日はビニール袋を一つ。


「コンビニで買いすぎた」


「どのくらい」


「二人分くらい」


「一人暮らしで」


「レジで気が大きくなった」


 いつも言い訳のバリエーションが違う。でも毎回「多く作りすぎた」か「買いすぎた」で終わる。


「入れ」



 テーブルに並んだのはおにぎりとサラダチキンと春雨スープだった。


 二人で食べながら、柚希が言った。


「今夜ってゲームの日でしょ」


「よく覚えてるな」


「毎週聞こえてくるから。笑い声が」


「うるさかったか」


「ううん、好き。帰ってきたとき、隣が賑やかだとほっとする」


 さらっと言った。


 陸はおにぎりを一口食べながら、「そうか」とだけ答えた。


「今日は特別なの?」


「新しいゲームが始まる。ずっと一緒にやってきたメンバーと」


「何人いるの」


「五人」


「仲いいんだね」


「四年になる」


 柚希が少し目を丸くした。


「四年。ゲームで知り合って?」


「そう」


「すごいな」


 すごい、という言い方が馬鹿にしている感じじゃなかった。純粋にそう思っている言い方だった。




 食べ終わって、柚希が立ち上がった。


「じゃあ邪魔しないようにする」


「別に邪魔じゃない」


「零時まで付き合ってあげたいけど、明日早いから」


「ゆっくり休め」


「ゲーム、楽しんでね」


 玄関に向かいかけて、振り返った。


「ねえ、職業って何になるの?」


「ランダムで決まる。選べない」


「ハズレを引いたら?」


 陸は少し間を置いた。


「やってみないとわからない」


「そっか」と柚希は言った。「ハズレでも面白そうじゃない。工夫しなきゃいけないから」


 扉が閉まった。


 陸はコーヒーを飲みながら、その言葉を少し頭の中に置いた。


 ハズレでも面白そうじゃない。


 的外れじゃない言い方だと思った。




午後十一時四十分




 ヘッドセットを装着してDiscordを開いた。


 チャンネルはすでに賑やかだった。


深夜の集会


桐島陸 :入った

影狼 :遅い

桐島陸 :零時まで二十分あるぞ

影狼 :気持ちの問題

白雪姫じゃないよ :気持ちで時計は早まらない

ドラゴンマスター見習い:ドラゴン系の職業あるかな

白雪姫じゃないよ :あると思う

ドラゴンマスター見習い:あってくれ頼む

静かな爆弾魔 :……

ドラゴンマスター見習い:静なんか言って

静かな爆弾魔 :あるといいね

ドラゴンマスター見習い:他人事すぎる

桐島陸 :ハルは

影狼 :まだ

白雪姫じゃないよ :まだ

静かな爆弾魔 :……まだ



 田中宗介。幼なじみ。前衛担当で口が減らない。


 安藤雪乃。大学院生。回復職のエース。口が悪いが腕は一番信頼できる。


 橘大和。体育会系。ドラゴンへの執着が四年間ブレない。


 山本静。無口。でも一言が重い。


 そしてもう一人——


 零時まで残り十分のところで、入室音が鳴った。


「ごめんごめん! 充電切れてた!!」


「ハルだ」「ハルだ」「ハルだ」「……(ハルだ)」


 全員の声が揃った。


「毎回それだぞ」と宗介。


「毎回本当のことだから仕方ない!」


「充電くらい管理しろ」と雪乃。


「忘れるんだもん」


「……前作のサービス開始のときも同じだった」と静。


「え、そうだっけ」


「そうだった」と陸。「あのときは三分前に来た」


「覚えてるの!?」


「覚えてる」


 花村春香。社会人二年目。前作では斥候。場の空気を明るくする。それは才能だと思っている。


 五人が揃った。



 零時まで残り三分。


「緊張してきた」とハル。


「する必要ない」と雪乃。


「いや、するだろ普通」と宗介。


「……少し、する」と静。


「大和は?」


「ドラゴンのことしか考えてないから余裕ない」


「それはそれで心配だぞ」


 カウントダウンが始まった。


 十、九、八——


「行くか」


 二、一——



ETERNAL CROSS:異界転生

―― サービス開始 ――


-----


ゲーム内:白い空間


-----


 光の中に落ちる感覚があって、気づけば白い空間に立っていた。


 少し離れたところに四人の姿があった。全員バラバラにスポーンするかと思っていたが、同じ場所に出た。


「揃ってる」と大和。


「ギルド設定のおかげかな」とハル。


 目の前に石版が浮かんでいた。高さ三メートルほど。古い石造りで、表面に文字が刻まれている。



転生者よ

汝の天職を、ここに授けん

刻印に手を触れよ



「順番どうする」と宗介。


「じゃんけん」


 四回かかって、順番が決まった。雪乃、大和、静、ハル、宗介、陸の順だった。



 雪乃が石版に触れると、白銀の光が広がった。


【安藤雪乃】

職業:聖女

希少度:★★★★★

スキル:《完全回復》《聖域展開》

```


「……悪くない」


「最高レアじゃないか」と宗介。


「最高だと思ったら油断する」


「武道家みたいな発想だ」


-----


 大和が触れると、深紅の光。


```

【橘大和】

職業:竜騎士

希少度:★★★★☆

スキル:《竜鱗防壁》《竜炎放射》

```


「……DRAGON!!!!!!!!!!!!」


「うるさい」「うるさい」「……(うるさい)」「うるさーい!」


 大和はその場で両膝をついた。本気で感動している。


-----


 静が触れると、漆黒の光。


```

【山本静】

職業:無詠唱魔導師

希少度:★★★★☆

スキル:《瞬間詠唱》《魔力過負荷》

```


 静は無言でガッツポーズをした。


「テンション上がってるじゃないか」と宗介。


「……上がっていない」


「今ガッツポーズしてた」


「……していない」


 全員が見ていた。


-----


 ハルが触れると、翠色の光。


```

【花村春香】

職業:影踏み師

希少度:★★★☆☆

スキル:《気配遮断》《影移動》

```


「やった! 前作と似た感じ! 動き回れる!」


「お前は何引いても同じことやりそうだな」と宗介。


「それほめてる?」


「ほめてる」


「よかった!」



 宗介が触れると、金色の光。



【田中宗介】

職業:剣聖

希少度:★★★★☆

スキル:《神速斬》《無双剣技》

```


「よっしゃあああ!!!」


ガッツポーズしながら陸の肩を叩いてくる。


「良かったな」


「陸も絶対いいの出るって!」



 最後に陸が石版に触れた。


 光が出た。


 でも、色がなかった。


 灰色の、くすんだ光が揺れた。やがて文字が浮かぶ。


```

【桐島陸】

職業:魔物使い

希少度:★☆☆☆☆

スキル:《テイム》

備考:戦闘能力なし



 沈黙。


「……陸」と宗介。


「テイマーか」


「そう」


「……戦えなくないか」


「そう」


「まあ! 強い魔物を手懐けたら強くなれるんじゃないかな! たぶん!」とハル。


「たぶん、のところが正直だな」


「ごめん、自信なかった」


 雪乃は何も言わなかった。


 静も何も言わなかった。


 大和だけが、スキルの説明を覗き込んで言った。


「……下の方に何か書いてある」


 陸はスキルの詳細を開いた。


```

【スキル:テイム】Lv.1

効果:魔物に服従を促す

成功率:対象の戦闘力に反比例

失敗時:対象が怒り状態になる


※テイムした魔物の能力値は

 使役者のステータスに全て加算される

 上限:設定なし

```


 全員が、最後の二行を読んだ。


「上限なし」と宗介。


「……設定なし」と静。


「つまり強い魔物をテイムすればするほど、全部積み重なる」と雪乃。


「理論上は」と陸。


「どこまで行けるかわからない」


「わからない」


 陸はメニューを閉じた。


「まあ、やってみる」


 それだけ言って、石版の前から一歩踏み出した。


-----


◆ END:株式会社クロスリンク 第二開発室 午前零時すぎ


-----


 サービス開始から十五分。


 夜間監視担当の木村こはるはモニターを確認していた。接続数、サーバー負荷、エラーログ。全部正常だった。


 一箇所を除いて。


 管理AIのログ画面。通称「アルテ」。このゲームの世界を管理するAIだ。天気、魔物の動き、NPCの行動、全てをリアルタイムで処理している。


 そのアルテが、こんなことを書いていた。


```

[ARTE_LOG 00:15:44]

注目プレイヤーを検出


ID:00847 桐島陸

職業:魔物使い(最低レア)


分析:

 戦闘能力 :ゼロ

 スキル  :《テイム》のみ

 上限設定 :なし


このスキル構成で何をするか

演算モデルに存在しないパターンです

観測を開始します


 隣のデスクで、チーフエンジニアの三浦啓介がコーヒーを飲みながらログを見ていた。


「三浦さん」


「見てる」


「アルテが特定のプレイヤーを自分で観測対象にしました」


「した」


「これって普通ですか」


「普通じゃない」


 三浦はキーボードを叩き始めた。


「ただ、止める必要があるかどうかはまだわからない。全部記録しろ」


「わかりました」


 こはるはコマンドを打ちながら、桐島陸のプレイヤーログを横目で見た。


 最低レアの職業を引いたプレイヤー。


 今は一人で、ゲームの世界の入口に立っている。



次回予告:第二話「名前のない子」


ギルドメンバーより少し早く森に入った。


理由はうまく説明できない。でも、何かがいる気がした。


木の根の間に挟まって、小刻みに震えている小さな生き物を見つけた。


金色の目だった。



◆ アルテの独り言


```

[ARTE_LOG]


桐島陸がゲームの世界に踏み出した


他のプレイヤーは

スキルや装備を確認してから動く


桐島陸は

「まあ、やってみる」と言って動いた


理由が演算できない


観測する

```

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ